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婚約破棄されたんだけど、その後とんでもないことになった  作者: はるかに及ばない


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第十二話 北方危機──揺らぐ忠誠と、反乱の芽

王国暦842年 十五日目・夜──

北方軍が撤退した後、

氷壁砦の医務棟には、

絶望の沈黙が漂っていた。


◆◆ 医師の宣告


医師

「……殿下の右脚は、

 二度と元のようには歩けません」


その言葉は、

砦の空気を凍りつかせた。


リリアは顔を覆って泣き崩れ、

兵士たちは呆然とし、

辺境伯は拳を強く握りしめた。


レオンハルト

「……そうか」


その声は、

驚くほど静かだった。


辺境伯

「殿下……申し訳ございません……

 我らが……守り切れなかった……」


レオンハルト

「違う……私が……弱かった……

 ただそれだけだ……」


しかし、誰よりも知っていた。

この“歩行不能”が、

覇を争う王子として致命的な弱点であることを。


◆◆ 北方陣営の不穏


その夜。

将官たちが密かに集まった。


北方将軍A

「殿下が動けなくなった……

 これは……重大な問題だ」


北方将軍B

「辺境伯様は殿下を支えると言っているが……

 この戦で“歩けぬ王子”を戴いて勝てるか?」


北方将軍C

「第一王子を担ぎ続けるのは……危険だ」

「北方はもう限界だ。

 王妃派は兵を再編している。

 国王派は寵姫の暴走で不安定。

 だが北方だけが“王子の傷”で士気が落ちた」


そしてついに──

一人の将官が口を開いた。


北方将軍D

「……ここは、

 いっそ別の旗を掲げるべきではないか?」


空気が一変する。


将軍B

「まさか……反乱か?」


将軍D

「反乱ではない。

 “生存のための選択”だ。

 我ら北方が滅べば、王家も何もない」


その言葉は、

誰もが一瞬“現実的”に聞こえてしまった。


◆◆ レオンハルトの耳に届いた密議


密議の現場から離れた場所に、

偶然リリアが通りかかった。


リリア

(……?

 何を話しているの……?)


聞こえてきたのは、

第一王子を切り捨てる話。


将軍D

「殿下はもう“戦の中心”にはなれない。

 戦場に出られぬ王子を担ぐのは自殺行為だ」


将軍B

「なら北方軍はどうする?

 辺境伯を新たな旗頭にするか?」


将軍C

「いや、いっそ……

 “北方に新たな王を立てる”という手も……」


リリアは息を呑んだ。


リリア

(そんな……殿下を……?

 殿下を捨てるつもり……!?)


床が軋む音で気づかれ、

リリアは逃げるようにその場を離れた。


そして──

ある決意を胸に抱いた。


リリア

「……殿下に……知らせなきゃ……!」


◆◆ レオンハルト、すべてを知ってしまう


医務室。

レオンハルトは痛む脚を押さえながら、

天井を見つめていた。


そこへ、

泣きながらリリアが飛び込んでくる。


リリア

「殿下ぁ……!!

 北方軍が……殿下を裏切ろうとしてます……!!」


レオンハルト

「……そうか」


驚くほど冷静だった。


リリア

「殿下!

 どうしてそんな顔で……!!

 殿下は悪くありませんっ!!」


レオンハルト

「いや、私が悪いのだ」


リリア

「そんな……!!」


レオンハルトは静かに笑った。


レオンハルト

「私は……

 婚約破棄をして……

 戦を呼び……

 民を死なせ……

 親友と仲間を失い……

 そして今、北を揺らしている……」


リリア

「違います!!

 殿下は変わったんです!!

 今の殿下は……昔の殿下とは違う……!!」


レオンハルト

「だとしても……

 兵は“結果”を求める」


その声は、

あまりにも静かで、あまりにも痛かった。


◆◆ 辺境伯、反乱の兆しを察知


辺境伯もまた、

異変に気づいていた。


辺境伯

(……もう出ているのか……

 “殿下では勝てぬ”という声が)


しかし、

彼は剣を腰に差し、

将官たちの密議の場に踏み込んだ。


辺境伯

「……お前たち。

 何を企んでいる?」


将官たち

「へ、辺境伯様……!!」


辺境伯は鋭い声で言い放つ。


辺境伯

「忘れるな。

 殿下は“王家の血”だ。

 そして北方は“忠義”によって王家を支えてきた。

 お前たちが裏切れば……北方の誇りは終わる!」


将軍D

「しかし……殿下はもう──」


辺境伯

「殿下の脚が何だ!!

 殿下は戦わずして王の器を示した!!

 逃げず……命を懸けて部下を守った!!

 それが“王”でなくて何だ!!」


沈黙。

しかしそれでも、

将軍たちの表情は晴れなかった。


彼らの胸にあるのは、

忠義ではなく“現実”。


◆◆ レオンハルトの決断


その夜遅く、

辺境伯が医務室を訪れた。


レオンハルトは座ったまま言う。


レオンハルト

「辺境伯。

 私は……王位を捨てるべきでしょうか?」


辺境伯

「……殿下」


レオンハルト

「私のせいで北が割れようとしている。

 それなら……私は……王子である資格を……」


辺境伯は殿下の肩に手を置き、

静かに言った。


辺境伯

「殿下。

 今こそ言わせていただく。

 殿下は……

 “初めて王になった”のです」


レオンハルト

「…………え?」


辺境伯

「逃げず。

 責任から目をそらさず。

 民と仲間のために立ち、

 自分の過ちと向き合った。」


辺境伯

「それが……“王”です」


レオンハルトの目に涙がにじんだ。


辺境伯

「北は……殿下を捨てませぬ。

 たとえ脚が動かずとも、

 殿下の“意志”は動いている。

 それで十分です。」


レオンハルト

「辺境伯……」


辺境伯

「殿下、立ちなさいとは言いません。

 ただ──

 どうか、諦めないでください」


レオンハルトは震えながら頷いた。


レオンハルト

「……わかった。

 私は……まだここにいる。

 北を……守る」


この決意が、

後に北方軍をまとめる“黄金の芯”となっていく。

第一王子の成長が王国をさらなる泥沼へ呼び込んでしまう。


そしてまだ、

反乱の火は完全に消えていなかった。


◆◆ そして、嵐の前夜へ


王妃派は再編中。

寵姫派はほぼ壊滅。

北方は陣営崩壊寸前。


三者の力は完全に均衡し、

どこが崩れても内戦が一気に決着する状態だった。


歴史家は後に書く。


「この夜、王国は最も“脆い”状態にあった。

誰が倒れても不思議ではなく、

誰が勝ってもおかしくなかった。」


そして──

この均衡を破るのは、

意外な存在だった。

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