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婚約破棄されたんだけど、その後とんでもないことになった  作者: はるかに及ばない


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第十話 小西方の悲劇──慈愛の軍、全滅

王国暦842年 十三日目──

寵姫が煽り、民衆を束ねて作った“慈愛の軍”は

王都を後にし、西方の王妃派領へと進んでいた。


しかし彼らは気づいていない。


相手は、王国最大軍閥(侯爵家)の精鋭であることを。

農具を持った民衆など、敵うはずもないことを。


◆◆ 王妃派の偵察兵、悲鳴の報せ


白塔城の軍議。


斥候

「報告いたします!

 王都より“寵姫派民兵軍”が北上中!」


重臣

「……寵姫派の暴走は、とうとうここまで来たか」


セドリック

「彼らの人数は?」


斥候

「五千前後。しかし──農具、木槍、鍋の蓋程度の武装。

 軍隊と呼べるものではありません」


重臣

「完全なる烏合の衆……」


セドリックは目を伏せた。


セドリック

「……彼らは、敵ではなく……“民”だ」


しかし、重臣たちは首を振る。


重臣

「殿下。

 民であろうと、狂信には理が通じません。

 慈愛の軍は“寵姫の命令で”攻めて来ている。

 このままでは西部の村々が蹂躙されます」


セドリック

「…………避けられぬのか」


重臣

「はい。殿下。

 迎撃を……」


セドリックは苦渋の表情で頷いた。


◆◆ 小西方平野──“戦”とは呼べない惨劇


慈愛の軍は、白塔城の東で王妃派の前衛と遭遇した。


王妃派隊長

「弓隊、構え!

 狙うは先頭のみ!

 可能な限り殺すな、傷を負わせろ!」


しかし、民兵は狂気に染まっていた。


慈愛兵

「アレク様ばんざい!!」

「王妃派を滅ぼせ!!」

「正義は我らにあり!!」


その姿は、軍ではなく“暴徒”だった。


隊長は唇を噛む。


隊長

「……撃て!!」


矢が放たれる。

慈愛の軍は防御も取らず突進し続けた。


そして──


最初の矢で、前列が何十人も倒れた。


悲鳴。

怒号。

地面を叩く音。


慈愛兵

「な……なぜ……?」

「正義の軍なのに……?」

「帰りたい……母さん……」


王妃派兵

「退け! 退けと言っている!!

 民を殺したくはない!!」


しかし、寵姫が背後から叫ばせていた狂信者が

民兵を煽り続けていた。


狂信者

「恐れるな!!

 あなた方は“神に選ばれた軍”だ!!」


王妃派将軍は歯を食いしばった。


王妃派将軍

「……もう、止められん」


第二射。

第三射。


慈愛の軍は崩れ、

逃げようとした者たちは同士討ちで倒れた。


そしてその後、王妃派騎兵が前進した瞬間、

慈愛の軍は完全に瓦解した。


戦闘開始からわずか一刻──慈愛の軍は事実上全滅した。


◆◆ 寵姫の絶叫


王妃派の弓が届かない丘から、

寵姫はその惨状を見ていた。


寵姫

「ちょ……ちょっと……

 何これ……!?

 どうして死ぬの!?

 “アレクの兵”なのよ!?

 死ぬはずないでしょ!?!?」


側近

「寵姫様!!

 あれは……戦というより虐殺です!!

 撤退を!!」


アレク

「も、もう無理です!!

 母上、撤退を!!

 誰も……誰もついて来ていない!!」


後ろを振り返ると、

民兵の列は四散し、

残されたのは数百人の負傷兵だけ。


寵姫は現実を拒絶した。


寵姫

「嘘よ!!

 王妃派が悪いのよ!!

 彼らを殺したのは王妃派のせいよ!!

 アレクは悪くないのよ!!

 アレクは……アレクは……!!」


アレクは震える手で母の肩を掴んだ。


アレク

「母上……もう……やめてください……

 これは……僕たちの……失策です……」


寵姫

「アレク……?

 あなた……何を……?」


アレク

「全部……僕たちが……間違っていたんです……!」


アレクは涙を流しながら叫んだ。


アレク

「母上の……せいだ!!

 母上が……母上が操って……

 僕は……僕は……!!

 こんな……軍を……!!

 もう……いやだ……!!」


寵姫の目から光が消えていった。


寵姫

「あ……あ……あぁ……

 私は……私はただ……

 あなたを……王にしたかっただけ……

 それだけなのに……」


寵姫はその場に崩れ落ちた。


◆◆ 王妃派──セドリックの苦悩


戦後、白塔城に戻ったセドリックは

死体の山を前に沈黙していた。


セドリック

「……終わったのか」


重臣

「はい、殿下。

 慈愛軍は壊滅。

 指揮官は寵姫殿下かと」


セドリック

「……アレクは?」


重臣

「寵姫に引かれて撤退したとのこと。

 戦力はほぼ失いました」


セドリックは目を閉じた。


「……民を殺すなど……

 私は……王として“不適格”なのではないか……?」


だが重臣は首を振る。


重臣

「殿下。

 民を殺したのではなく……

 “狂信を止めただけ”でございます」


セドリック

「……それでも、私は苦しい」


その姿は誰よりも優しく、

誰よりも苦しんでいた。


◆◆ 第一王子──逃げないと決めた男


氷壁砦では、レオンハルトが報告を受けていた。


辺境伯

「慈愛軍、壊滅。

 寵姫とアレクは東へ撤退した」


レオンハルト

「そんな……

 アレクが……民を……?」


辺境伯

「殿下。

 これはもう“王家三つ巴の戦”ではない。

 王国全土を巻き込む“内乱”だ」


レオンハルトは拳を握った。


レオンハルト

「……もう誰も死なせたくない。

 私は……後悔ばかりの人生だった。

 でも……

 今は逃げない。

 北を守り、この戦を終わらせる……!」


辺境伯

「その覚悟、確かに承った」


この日を境に、北は団結した。


◆◆ そして火蓋は切られた


寵姫派は壊滅的敗北


王妃派は西方を確保


第一王子派は結束を強めた


こうして、三王子大戦は第二段階へ突入した。


後世の歴史書はこう記す。


「慈愛軍の全滅によって、

国王派は“無力”となり、

三王子の争いは

“力”だけが物を言う戦へ変貌した。」


そしてこれはまだ、

王国が落ちていく地獄の五合目だった。

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