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第9話 実紅さまのお宝

 実紅さまは、この日は登校日だったようだ。


 都内の名門校に通っているらしい実紅さまは、送迎用の高級車に乗って学校へ行ってしまった。


 風祭家に住み込みで働いているのは永森さんと僕だけだけど、他に運転手を雇っていて、登下校や外出の用事があるときはこうして車で送迎してくれるらしい。


 他のお嬢様たちもそれぞれ学校へ行ってしまったから、僕は永森さんにくっついて、館内での雑事をみっちり指導してもらった。


 元々、この手の雑用は得意だ。

 親戚をたらい回しにされ、いつでもよそ者だった僕は、嫌われないように自分でできる仕事は積極的に引き受けてきたから。


 だからといって、親戚に優しく受け入れられた覚えはないんだけど……。


 そうして昼間の時間を過ごしていると、実紅さまが帰ってくる時間になった。


 永森さんと一緒に、館の前で実紅さまのお出迎えをする。


「そうだったな。今日からきみが使用人をしているんだった」


 後部座席から降りてきた実紅さまは、冷たかった。


「学校行っている間に僕のこと忘れちゃったんですか……?」

「冗談だよ。きみのことを忘れるわけがないだろう」

「よ、よかったー。もう僕のこと忘れないでくださいね!」


 もし僕が犬だったら、きっと尻尾をブンブン振ってたかも。


「……餌付けしてぇ」

「えっ? 何か言いました?」

「なにも。ふかしたエンジン音を聞き間違えただけだろ」


 確かに、お抱えの運転手さんが運転する高級車が、ブロロ……と館をあとにして行ったけど、そんな聞き間違え方するかな?


「それより。これから部屋の片付けをするんだろう?」

「えっ、今日からやってくれるんですか?」

「なんだ。そんな意外そうな顔をして」

「だって! もっと先延ばしにしちゃうものと思って」

「失礼だな。わたしの権限でクビにするぞ」

「そ、それはやめてくださいよ~」

「ふふふ、いいぞ、その顔。最高の愉悦だ」

「えっ、僕なんか変な顔してます?」

「いや、こっちの話だ」


 僕は、実紅さまが突き出してきたカバンを受け取り、部屋まで同行した。


 ★


「よし。じゃあやるか」


 猫をモチーフにしたようなふわもこの大きめパーカーに着替えた実紅さまが、やる気十分とばかりに両腕を天に突き上げる。


 僕は永森さんから掃除用の道具を借りていて、一応マスクも着用。実紅さまもマスク姿だった。


 そして、部屋の片付けと掃除を始める。

 実紅さまは遅延行為じゃないかってくらいダラダラのっそり片付けをしていて、僕の方がテキパキしまくりだったけど、別に気にならない。


「よかったですよ。実紅さまが早速部屋の片付けをする気になってくれて。なんかそういう気持ちがすごく嬉しいです」

「何の旨味もなければ、私だって迅速に動いてないぞ」

「旨味?」

「ああ。ちょうど探し物があってね。大事なものなんだ。ずっと見つからなくて困っている」

「そういう事情があるなら、僕も張り切って片付けちゃいますよ!」


 ていうかやっぱり散らかっててもどこに何があるか把握してるなんて嘘っぱちじゃないか、なんて野暮なツッコミはナシだ。


 今はただ、やる気になってくれた実紅さまに報いるのが先。


 まあ、その後は協力して片付けをするって感じじゃなくて、ことあるごとに落ちているモノを拾っては「これ懐かしいな」だの「む。続きが気になるな。確か4巻は……」だの、思い出の発掘作業をするばかりの実紅さまはまともに稼働してくれなかったんだけど。


「むむむ」

「今度はどうしたんですか?」

「この先に、わたしの探し物がある気がするんだ」

「ベッドの下ですか」

「少々ホコリっぽい感じがするが……これもお宝のため」


 さっきまでロクに片付けに参加しなかったのに、急にカサカサとGみたいな俊敏な動作でベッドの下へと首を突っ込む実紅さま。

 よっぽど大事なものなのかな……。


「ん? ちょ、ちょっと実紅さま!」

「なんだ?」

「色々見えちゃってますよ!」


 実紅さまは大きめのふわもこパーカーを被っているけれど、下にショートパンツの類を穿いてるわけじゃないみたいで、突き出したお尻を覆うパンツが見えてしまっていた。


「些細なことだ。この先からお宝の匂いがするから。優先すべきはこっち」

「は、恥じらいを持ってくださいよ~」

「そんなことより律くん」

「な、なんです?」

「わたしの尻を押してくれないか?」

「なぜ!?」

「奥に手が届きそうで届かないんだ。ここから下手に動くと頭をぶつけてしまうかもしれない」

「だからって……」

「きみは使用人だろう? 御主人様の言うことをちゃんと聞かないとダメだろ」

「……わかりました。じゃあ、せーので押しますね」

「うむ」


 これも命令だ、仕方がない。

 僕は初めて、女の子のヒップというものにガッツリ手を触れ、そのまま押し込んだ。


 お尻をお尻と思わないように気をつけるんだけど、手のひらが沈み込む柔らかさはこれまでに味わったことのない感触で、どうしたって意識してしまう。


 ああ、でも僕はこれで、実紅さまのおっぱいだけじゃなくてお尻にまで触れたことになっちゃったんだ……。


「む。取れた」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。わたしを引っ張り上げてくれ。足を掴んでそのまま引っ張ってくれればいいから」

「わかりました」


 足首を掴んで引っ張ると、実紅さまの上半身がぬるっと出てきた。


「ありがとう。お宝を無事取り戻したよ」

「いや、その手に持ってるの……マッサージ器具じゃないですか!」

「うむ。電マだな」

「電マだな、じゃないですよ! せっかく遠回しに言ったのに!」

「しかしな。わたしみたいな女には必需品なんだ」

「それってどういう……あっ」


 しまった。

 僕はなんてノンデリマンなんだ。


 実紅さまは、華奢で小柄なのに胸が大きい。

 胸の重みのせいで、肩が凝るに決まっている。

 だからこのマッサージ器具は、ちゃんと肩こり解消のために使っているのだろう。


 実紅さまごめんなさい、って心の中で謝った直後だよ。


「自慰行為に耽りたいときはこれがないとな。ん? どうした? 頭を抱えたりして」

「いえ、自分の純粋さがちょっと恨めしくなっちゃいまして……」

「よくわからんが、きみはずっと純粋なままでいてくれると嬉しい」


 憂鬱な気分になっていると、頭を手のひらでポンポンされる感触がした。


「ともかく、これを見つけられたのはきみのおかげだ。片付けを提案してくれなかったら、わたしもやる気になれなかったからね。ありがとうな」


 実紅さまがベッドに立って、僕の頭を撫でてくれていた。

 実紅さまは、この貞操観念が男女で逆転したような世界の住人らしいところもあるけれど、ちゃんと優しい人だ。


 その優しさに触れたおかげで、僕は泣いちゃってたと思うよ。


 電マ片手じゃなければね。


「ヴィィィィィン!」


 今、電源オンするのやめて。


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