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第7話 使用人の正装は露出度高め

 ひょっとしたら僕の運も上向いてきたのかもしれない。

 住んでいたアパートなんかよりずっと広い一室で目覚めた僕は、窓から差し込む朝日から新しい旅立ちを祝福されている気分になってしまっていた。


「でも、今日から使用人として働くわけだし、喜んでばかりもいられないよね」


 僕を拾ってくれた風祭四姉妹には本当に感謝しかない。


 今はまだ、僕なんて得体の知れない存在だけど、少しでも早く信用してもらえるように、働きっぷりで証明しないと。

 それが、僕を拾ってくれたことの恩返しになると思うから。


「こんなに人に優しくされたのっていつぶりだろう……すごく励みになるなぁ」


 思い返してみると……初めての一人暮らしで、バイトと教職課程で疲れているところを愛李ちゃんから声を掛けられたとき以来かな?


「……ああ、また思い出さなくていいことを思い出しちゃった。いい加減、愛李ちゃんのことは忘れないといけないのに」


 心機一転頑張らないといけないのに、バッドトリップしてる場合じゃない。


「おはようございます、露崎くん」


 部屋に顔を出して一礼してきたのは、メイドの永森さん。


「おはようございます、永森さん」

「ご気分はどうです?」

「もちろん最高の気分ですよ!」

「それはよかったです。露崎くんのために使用人の制服を持ってきたんですけど」

「制服ですか? うわぁ、どんなのだろう?」


 使用人ってことは、やっぱり執事服とか?

 僕なんかに似合うかなぁ。


「これ、渡しておきますので、着替え終わったら呼んでください。お部屋の外にいますから」

「はい、わかりました」


 永森さんが手にしていたガーメントバッグを受け取って、僕は着替えることにした。


 いそいそと着替えを始めたところ……。


「なんじゃこりゃぁ!?」


 驚きのあまり低い声になっちゃう僕だけど、本当にびっくりすることがあったんだよ!


「これ、メイド服じゃないか!」


 目の前の姿見に映るのは、萌え萌えキュンな僕。


「あ、着替え終わりました?」


 ひょっこり顔を出してきた永森さん。


「わ。よくお似合いですよぉ」

「心にもないこと言わないでください! これ、間違ってますよ。どうして僕がメイド服なんですか!?」

「お嬢様の指示なんですよ」

「え……どうしてそんなことを?」

「うーん、理由は教えてくれなかったので、私の方からお尋ねするのは失礼ですからわからないんですけど、ほら、なにぶんここは女性しか住んでませんから」


 確かに、僕以外に男性はいないけども。


「きっと、男性ですよ~という格好で歩かれてしまったら、お嬢様たちが警戒してしまうからじゃないですかね?」

「え、そんなことあります?」


 待てよ。

 今僕がいるここは、男性が極端に少ない世界。


 それなら、僕が露骨に男性の格好をしていたら、刺激が強すぎて不都合なんてこともあるのかもしれない。


「……確かに、そういう事情もあるかもしれませんね」

「でしょう? いいじゃないですか。お似合いなんですから」

「うーん……」


 もちろんこれまで、女装なんてしたことはない。


 どういうわけか昔から、女の子の格好をさせようとする同級生や大人や良いお金になるからという誘い文句の怪しいスカウトマンや映像関係の人と出会い続けてきたけれど、本当に女性用の服なんて着たことはなかったんだ。


「メイド服のわりには、デコルテ見えすぎじゃないですか?」

「いいじゃないですか。生まれたてみたいな綺麗なお肌で」

「これ、スカート短すぎませんか?」

「いい太ももじゃないですか。あら、脱毛処理をしているんですね」

「いえ、生えないだけです……」

「もしかして、おヒゲも?」

「目立つ感じじゃないですね。ていうか、メイド服の袖から男の腕が出てるのって嫌じゃないですか?」

「そんなことないですよ。露崎くんの腕は細くて肌も白いですから、この際いっぱい見せていきましょう。あ、よかったらウイッグ使います?」

「永森さん、まさかとは思いますが、楽しんでるんじゃ……」

「あら? こんな楽しい状況、他にあります?」


 なかなかいい性格をしている永森さんだ。

 これはどうもただの親切お姉さんじゃないみたいだぞ。


「どうせなら僕も、永森さんみたいなオーソドックスなメイド服がいいんですけど……」

「残念ですけど、これは女性用ですから」

「男性用メイド服なんてものがこの世界ではデフォなんですか……?」

「着れる人は限られますけどねぇ」


 この調子だと、どれだけ抗議してもメイド服を強制させられそうだ。

 仕方ない。

 僕は他に、行き場所がないのだ。

 開き直るしかないみたい。


「こんな格好して、僕って可愛いですかね?」

「とっても!」

「……わかりました。もうこれでいきます」


 どうせ、僕がメイドの格好をする事情を知っている四姉妹以外と出会うことはないわけだし。


 できることなら、このせいで僕が変な性癖に目覚めてしまわないことを願うばかりだよ。


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