第6話 Interlude(愛李視点)
私――織井愛李が、律くんに別れを告げてしまったその日。
まだ大学の講義は残っているというのに、私は真坂先輩に引っ張られるようにして連れ込まれた先のホテルにいた。
「愛李、改めてわかっただろ? あんな女顔の弱そうなガキとオレなら、絶対オレの方がいいってな」
私に裸の背中を向けて、ベッドに腰掛けている真坂先輩は、きっと得意そうな顔をしているに決まってる。
「いや、そうか、そうだったな。お前とあいつは、一緒に住んでたくせに一度もヤッたことがねえんだったな。比べようがねえよ」
真坂先輩が大笑いする。
「それにしてもあの野郎、男のくせに妙に女顔で気味が悪かったな。本当に付いてるのかどうかも怪しいしよ。お前、あんなヤツよりオレを選んで大正解だぜ。女同士で付き合ってるみたいで、お前も張り合いなかっただろ?」
「……そうかも」
言葉とは裏腹に、別に私は、そういう意味で律くんを気味悪いと思ったことはない。
私は真坂先輩を選んだ。
でも、こうして律くんをバカにされるようなことを言われると、納得できない気持ちになることがある。
私は、律くんのことを嫌いになったわけじゃない。
むしろ、先に冷たい態度を取るようになったのは律くんの方だ。
私なりに思い切って、実家を出て、律くんと住むことにしたのに。
律くんの態度は、一緒に住む前よりもよそよそしくなってしまった。
普通、男子って女子と二人きりで1日中一緒にいられる環境になったら、とにかく触れ合いを求めようとするものじゃないの?
私は……心が弱いから、恋人っていう特別な関係性の人からは、強く求められないと不安になってしまう。
律くんは、私のことをずっとお客様扱いで、私が望んだように距離が縮まるような雰囲気なんて全然しなかった。
どんな心変わりがあったのか知らないけれど、冷たい態度を取るようになった律くんと一緒にいると、恋人から求められていない不安がどんどん大きくなっていった。
だから、真坂先輩の誘いに乗ってしまったのだ。
真坂先輩は、律くんと違って、私のことが必要なのだと言葉と行動で示してくれた。
私に彼氏がいるってわかっていても、それでも好きと言ってくれたから。
でも、こうして真坂先輩と付き合うようになっても、私が期待していたものとは食い違うことが多かった。
真坂先輩とのセックスだってそう。
こうして体を求められて、愛されれば愛されるほど幸せを感じられるものと思っていたけれど。
確かに、最中はちゃんと求められているって気持ちになって満たされるんだけど、そのすぐあとには空虚な気持ちになって、本当に私は正しい判断ができたのかどうか不安になる。
もしかしたら、私にそれほど興味がなかった律くんと一緒にいたときの方が、こんな寂しい気分にならなかったかもしれない。
律くん、今頃どうしてるんだろう?
私が気にかけたところで、律くんからすればもう私なんて腹立たしいだけの女だと思うけれど。
それでも、短い間とはいえ一緒に暮らした仲だ。
全然意識しないでいることは、できそうになかった。