第51話 姉妹たちの作戦会議（瑠海奈視点）
なんかヤバくない？
露崎律の監視を終えて家に戻ってきたあたし――風祭瑠海奈は焦っていた。
想像以上に露崎律とあのなんだかよくわからない女の仲が良さそうだったから。
雲行きが怪しいことを危惧しているのは、あたしだけじゃないみたい。
「おいおい、あの女、何者だよ？ 妙に仲良さそうだったじゃねーか！」
「まさかあんな伏兵がいたとは、あんな人、わたしのデータにはないぞ」
「やっぱり私が、律くんを共有しようってモタモタしていたのが悪かったのかしら……。姉妹の誰かが律くんと付き合うのならいいけれど、それ以外の人はちょっと困るわ」
他の姉妹もみんな額を突き合わせて、異常事態に平常心を失っていた。
どうしてあたしの部屋に大集合しているのかわからないけど。
今日は露崎律を監視する間、三人とも何度か露崎律とあの女の間に割って入ろうとする機会が何度もあって、あたしはそれを抑えないといけなくて大変だった。
ただ、みんなが焦る気持ちもわかる。
露崎律の態度が、他の女性に対するのとは全然違っていたのは、あたしの目から見てもわかったもの。
普段のあいつは、女性に対してそこらの男に比べたら気持ち悪いくらい丁寧な態度なんだけど、一緒にいたあの人に対してはずいぶん慣れた感じだった。
だからといって、他の男みたいに偉そうでも嫌な感じがする態度でもなかったのは、少し安心したけれど。
でもあの調子だと……もしかしたら、ただの友達とかそういうレベルの子じゃないのかもしれないわね。
そういえば、あいつが風祭家にやってきたばかりの頃、恋人が云々なんて話をしていた気がするわ。
あのときは、ただの手頃なオスって目でしか見てなかったから、恋人の話をされようがなんとも思わなかったけれど、今になって妙に胸騒ぎはしてしまうのはどういうことかしら？
別にあたしは、露崎律が誰と付き合おうか構わない。
他の姉妹みたいに、あたしはあいつにデレデレなんてしないもの。
最近、あいつを前にすると変にドキドキしてしまうのは、あいつが助けてくれたときの危機一髪の状況を思い出しちゃうからで、あいつのことを意識しているってわけじゃない。
だからあいつに恋してきゅんきゅんしちゃうとか、絶対にないわけ。
あたしがあいつを気にしているのは、使用人としての自覚を忘れてそうだからよ。
せっかく仕事も覚えてきたところだしね。
あいつがいなくなったら茜の負担が増えるだろうし、今更自由の身になってもらっちゃ都合が悪いのよね。
「みんな、聞いて」
あたしがそう言うと、自分の世界に入って落ち込んでいた姉妹たちの視線が集まった。
「何があったのか詳しくは知らないけど、露崎律は風祭家から意識が離れているかもしれないわ」
不安そうになるみんな。
もう！ なんであいつのことばかり気にしてるのよ。
「だから、風祭家のために、あいつが魅力的と思えることを提案しないといけないわ」
「え？ 魅力的な提案？ おいおい、とうとう露崎をいただいちまうときが来たってわけか」
「うむ。そうだな。わたしたち全員で裸で迫れば」
「そうね。見たところ、おっぱいは私たちの方が大きいものね。きっといいアピールになるわよ」
そうだそうだ、と盛り上がっちゃう姉妹たち。
そっちの意味で足並み揃えて欲しいわけじゃなかったんだけど……。
「そういうことじゃないの。あのね、風祭家に心の底から尽くしたいと思えるようなことを、あいつにしないといけないのよ」
「じゃあやっぱりセックスじゃねーか！ 痛っ」
「まさか瑠海奈姉が久華姉に実力行使をするとは……」
「綺麗なチョップだったわねぇ」
「聞いて。あたしたちは、露崎律のためにイベントを開いてあげる必要があるの。だから、作戦会議よ。みんなで協力しないとできないことなんだから」
このあたしが、露崎律のために動いてあげるんだから。
あいつはもっとあたしの気遣いに泣いて喜ぶべきなんじゃないかしら。
