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第41話 感謝はするけど恋してるわけじゃないし(瑠海奈視点)

 あたし――風祭瑠海奈(るみな)は、露崎律と別れて戻ってきた部屋で、ドキドキする気持ちを抑えるのに必死だった。


「な、なんなのあいつ~!」


 ベッドに飛び込んで、枕にぼふんと拳を振り下ろすんだけど、別に露崎律に怒りを持ってるわけじゃない。

 これは露崎律のことばかり考えてしまう、あたし自身への怒りだ。


「さっきからあたしの脳内に無断で登場するんじゃないわよー!」


 でも、こうなるのもしょうがない……のかも。

 あたしは、危うく真坂洸太郎に無理矢理やられるところだった。


 そんな危ないところを、露崎律が助けてくれたのだから。


 出会ったばかりの頃のあいつの印象なんて、見た目がちょっとうちら女性に近いだけで、全然頼もしくもなんともない覗き魔でしかなかったのに。


 あたしの手を引っ張って、治安最悪の合コン会場から脱出するとき……あいつは本当に頼もしくて、不覚にもカッコいいなんて思ってしまった。


 相手は男なのに!


 どうして野暮ったくてガサツで自己中な男なんかに、このあたしがドキドキしないといけないの?


「あ、あんなヤツのことなんか、好きになるはずないじゃない! 他の男とはほんの少しだけ違うかもしれないけど、所詮は男! 調子に乗って偉そうにされたら嫌だもの!」


 でも、露崎律が偉そうにする姿って、あんまり想像できないのよね。

 使用人って立場を忠実に守ってるから、本性を出さないだけかしら?


 まあ、そうよね。

 男って結局、その程度の生き物だし。


 あいつだって、そのうち生意気な口を利いてくるのよ。


 調子に乗ったあげく、真坂のバカみたいに、あたしをベッドに押し倒すことだってきっとあるでしょうね。男だもの。


 それで、これでもう完全にあたしを自分のモノにしたとばかりに、あたしの耳元でこう囁いてくるの。


『お嬢様が悪いんですよ。僕をその気にさせるんですから。でもお嬢様は、僕を散々否定していたわりには、こうして押し倒されたら耳も頬も真っ赤になっちゃうんですね。すっかり僕を受け入れる準備ができてるみたいですし――』

「な、なんていやらしいヤツ! やっぱり本性は絶対こうだわ!」


 今日は助けられて、それはそれで感謝しているけれど、今後も絶対あいつを相手に気を抜いたらいけないわ。


 だというのに、体全体が微熱を帯びたみたいに熱くなっている。

 ていうか、さっきよりずっと酷くなっている気すらするわ。


「明日また、露崎律に会うのよね……」


 あいつはまだ使用人としてあたしの担当を外れていないから、当然明日も朝からあたしに会いにやってくる。


 そのとき、露骨に動揺しているところを、あいつに見られてしまったら?


「絶対に調子に乗って、さっき想像したようなことになるに決まってるじゃない!」


 使用人に主導権を握られるなんてこと、風祭家の人間としてあってはならないことだわ。


「鎮めなきゃ……鎮めなきゃ……これは風祭家の次女として、得体のしれない使用人なんかに弱みを見せないために必要なだけで、決して邪な気持ちからじゃないんだから……」


 あたしはベッドに体を横たえ、膝を立ててスカートを捲り上げると、脚の間に手を伸ばした。


 男が希少種だろうと、あたしは安易に男に飛びつくことは絶対にしない。

 でも、男を前にしても何も感じないわけじゃない。


 だから、くだらない欲求に振り回されないように、それをコントロールする努力を毎日している。


 これだって、そんな技術のうちなの。


 学校生活で男と関わる機会がある朝と昼、そして夜中に、こうして意識的に欲求を解消する。


 こうすれば、あたしは他の女性みたいにみっともないことになる心配はないわ。


「はぁ、はぁ……露崎律……! 簡単に自分のモノに……なるなんて思わないことねッ……!」


 あたし自身の指のはずなのに、いつの間にか露崎律の指に変わったように思えてしまった。


 合コン会場から逃げるとき、あいつの手に触れたからだわ……。

 そのせいで、いつも触れているときとは違った感覚があって……絶頂にたどり着くまで早かった。


「ふふ、あたしからすればあんたなんて、あくまで性欲解消のための、ただの道具でしかないんだからぁ……」


 これであたしは大丈夫。

 露崎律のことなんて、何も意識していない。


 でも、頭も体もスッキリした状態で浮かんでくるのは、合コン会場に乗り込んできて、真坂を返り討ちにして助け出してくれた姿ばかりで。


「~~~~~~~ッ!?」


 その姿を思い返して、つい二度目の絶頂に至ってしまったけれど、だからといって、あいつを好きになるようなことなんて……絶対にないわ。

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