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第39話 いかがわしい巣窟(瑠海奈視点)

 あたし――風祭瑠海奈は、男女で盛り上がるパーティー会場のソファーに座って、お酒の入ったグラスを手にこっそり周囲を伺っていた。


 立食タイプの会場で、基本暗がりの空間ではあるんだけど、内装はおしゃれで大人向けなバーってとこで落ち着いていて、参加している男女も、いくつか設置されているテーブルを囲んで、それぞれのグループで穏やかに談笑しながら時間を過ごしている。


 あたしの大学で見かけない人もちらほらいるから、色んな大学から参加者を集めてきたのかも。もしかしたら、大学生じゃない人だっているのかもしれない。


 案外平気そうって感じたのは最初だけで、今では最大限に警戒してる。


 なんかヤバそうってところが、さっきからチラチラ見えてるし。


 この部屋にはバーカウンターがあるんだけど、その近くには別の部屋に繋がる扉があった。

 さっきから様子を見ていると、女の子と一緒に飲んでいた男が急に立ち上がったと思ったら、その扉の向こうに消えていって、妙に満足そうな顔で揃って出てくる。


 そんなパターンが入れ代わり立ち代わりって感じだった。


 あれ、ヤリ部屋ね。

 よく他人がセックスに使った部屋をあんなすぐ使えるもんだわ。


 合コンとは名ばかりで、参加してる女子だって、真坂が集めるハイスペックな男子との手っ取り早いセックスが目的だろうから、その辺利害は一致してるんだけど、あたしは絶対に嫌。


 男なんかに屈する気はないから。


 でもこの調子だと、女性が相手なら誰とでもやれると勘違いした男からしつこく誘われそうね。


 そういう誘いはさっきから何度もあったんだけど、もう少し酔いたいから、とか、体調が不安でもう少し休んでから、とか色々理由をつけてどうにか誤魔化してきた。


 このまま解散まで持ちこたえて、時間切れ引き分けを狙うのがあたしの目的。


 数が少ないことの希少価値で調子に乗ってる男たちは傲慢で偉そうだけど、生存のための本能みたいなものが代々受け継がれている分、女性の方が精力が圧倒的に強い。

 参加してる子たちには悪いけど、このまま男たちの精力を根こそぎ奪って、あたしまで順番が回ってこないように粘るしかない。


 だから、このままソファにしがみついて耐えないといけないんだけど。


「なんだよ、瑠海奈。全然楽しんでなくね?」


 あたしの隣に無遠慮に座ってきたのは、主催の真坂だ。


「変ね。こうして優雅にお酒を楽しんでるじゃない」

「酒だけで満足できるわけねえだろ? そんなエロい体してるんだから」

「困るわね、勝手に決めつけられたら。あたしは気持ちが乗らないとシないことにしてるの」

「いいから来いよ。絶対楽しませてやるからよ」


 あたしの手を無理に引っ張ってこようとする真坂。

 こいつは、なんでこう元気なのかしら?

 数えただけでも二回は奥のヤリ部屋に消えていったのよ?


「ごめんなさいね、一人でお酒を飲みすぎて吐きそうなの。あんたにぶっかけちゃったら悪いから」

「えー、変なのー」


 女性の声が割って入ってきた。

 いつの間にかあたしの近くに、女子の三人組がいた。

 こいつらは……何かと真坂の取り巻きをやってる子たちだわ。


「風祭さん、さっきから全然お酒なんて飲んでないんだから、酔いようがないでしょ?」

「そうそう。ずーっとソファにいたもの」

「それなのに吐きそうだなんて。おかしな人」


 この取り巻きは、普段もあたしをう羨望の眼差しを向けてくれないどころか、敵視している感すらあるから、あたしの味方をしてくれることはないだろう。


「だってよ? 変な遠慮ばっかしてんじゃねえよ。お前がここで断ったら、せっかくみんな楽しい気分になってるのに台無しだろうが」


 周囲の空気が一変した。

 それまで、あたし以外は食べて飲んでヤッての楽しいパーティだったみたいだけど、あたしっていう異分子に気づいたみたいに視線が集中する。


 男も、女子も、同じような白けたような視線だ。


 ざわめきが強くなった。


「あいつ、女のくせにずいぶん偉そうだな」

「男からの誘いを断るってどういうこと? 常識を知らなすぎるっていうか……ドン引きだわ」

「ほらあの人、風祭の家の人だし。お高く止まってんでしょ。それか、大金持ちの婚約者がいるとか」

「うちらがどれだけ男と付き合うのに大変な思いをしてるのか、あの子には全然わかんないんだわ」


 ヒソヒソ声のはずなのに、妙にあたしの耳には大きく響いた。


 なんなの。

 あたし、そんな間違ったことしてる?

 別にたいして好きでもないのに、男だからって平気でヤッちゃう方がおかしくない?


「ほら、こっち来いよ。お前には協調性ってヤツが必要なんだ」


 真坂が、またもあたしの腕を引っ張る。

 まるでモノでも引っ張り上げるみたいで、あたしのことを人間だと思ってないみたい。


「いい加減にしろよ。これ以上逆らったら、明日からまともに学校に通えなくなるぜ?」


 ニヤニヤとして笑みを浮かべながら、あたしの耳元に唇を寄せて囁いてくる。


 あたし一人だけでも、どうにかできるって信じてたのに。


 あたしは結局、一人だけじゃどうにもならなくて、姉妹や茜や、風祭家に関わる人達のお膳立てがないとダメだったんだって気づいた。


 でも、もう遅いのかもしれない。

 周りから射抜くような視線が突き刺ささっているせいで、思いの外力が抜けちゃって、あたしはもう真坂にされるがままだから。


「手こずらせやがって。お前みたいな頑固な女は初めてだ」


 不快なにおいが鼻を突く上に、雑多な汚れで汚いその部屋に力尽くで連れ込まれる。


「女は男の言うこと聞いてりゃいいんだよ。どれだけお高く止まろうが、どうせちょっと脅して殴れば言う事聞くんだろ? それなら痛い目見る前にオレらの言うことハイハイ聞いた方が楽じゃねえか。賢く生きろよ、お嬢様」


 最悪な真坂の言うことに反論する気力すら湧かないあたしは、シーツがぐしゃぐしゃな腐海みたいなベッドに向かって放り投げられてしまった。


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