第33話 変わりゆくお嬢様たちの思惑(瑠海奈視点)
あたし――風祭瑠海奈は、いつものように姉妹みんなと大浴場にいた。
「なぁ、瑠海奈姉~」
湯船に浸かっていると、久華がざばざばと泳いでこっちに来た。
「お風呂で泳がないでよ」
「んな細かいこといいじゃねえかよー、大事な話があるんだ」
「大事な話?」
「露崎は、次は瑠海奈姉のところ行くわけだろ? あたしのとこに延長してくれね?」
「はぁ?」
「あたしはあいつのこと見直したんだよ。最初は、どうせ軟弱者だからってあえて厳しいトレーニングに付き合わせて、さっさと瑠海奈姉にパスしちまおうと思ってたけど、あいつは根性あるからな。今のままじゃあたしはパワハラばかりしてた嫌なヤツだし、厳しいだけじゃねぇあたしの姿を見せたいんだ」
「は? あんたのいいところアピールしてどうするの?」
「決まってんだろー、あたしのこと好きになってもらうんだよ」
「え? 好き? 目的変わってるじゃない!」
「変わったっていいだろうが。あたしはもう昔のあたしじゃねーんだよ」
ざばっ、とお風呂の中で立ち上がる久華。
引き締まってスタイルのいい体つきが、お湯がまとわりついているせいでぬらぬら光っていた。
「あたしはもう、子種搾り取るだけのセックスなんかする気ねえんだわ。露崎と両思いになって幸せイチャラブセックスをしたいんだよな!」
「な、なんで露崎律と真面目に恋愛する気になってんの!?」
「しかもあいつ、今でも毎朝あたしのトレーニングに付き合ってくれてー、最近なんかたくましくなってきたからなぁ。もしかしたら何回戦だってできるようになるかもしれないぞ」
あたしの話なんて全然聞いてないっぽい久華は、トロットロな表情をしていて、体をくねくねさせている。
我が妹ながら不気味だわ……元々この子、性欲はあるけど恋愛にはちっとも興味を示さなかったから尚更よ。
「久華姉、ズルいぞ」
実紅が、ラッコみたいにぷかぷか浮かんだまま、頭から寄ってくる。
「それがまかり通るなら、わたしのところにも律くんをもう一度派遣するべき。姉さまたちとの約束を真面目に守ってしまったせいで、律くんと二人きりでやったことなんてゲームしかない。こうなったらわたしも律くんとリアルエロゲーがしたい」
「あらあら。久華ちゃんと実紅ちゃんがそういうなら、私だって律くんと一緒にいたいわよ? 律くんと体験を共有したいことが山程あるもの。今思うと、どうしてあんなまどろっこしい提案をしてしまったのかしら?」
「純礼姉さんまで……」
風祭家の良心まで、露崎律に熱心だっていうの?
あいつ、いつの間にこんな人気者になってんのよ。
頭を抱えたくなるけど、みんなの言うこともわからないわけじゃない。
露崎律は、あれでいて結構みんなの役に立ってるみたいだし。
でも……所詮あいつはよそ者。
お母様が亡くなってからというもの、あたしたちは姉妹四人で頑張ってきた。
これまでだって、これからだって、それで十分やっていけるはずなのに。
露崎律が、使用人として優秀だろうが、我が物顔であたしたちの中に割って入って来られるのは嫌だった。
「もう! 忘れたの? 露崎律のことはいつでも子種を引っ張り出せる便利な男として確保しておこうって話だったじゃない!」
「律くんが来たばかりの頃はそんなことも言っていたわね。きっとあの頃は、きっと律くんの魅力に気づいていなかったのね」
「うむ。セックスの相手として不快を感じないから、いざというときは搾精要員にしてやれという程度の扱いだったな」
「そういえば純礼姉、律と一緒にお出かけしてただろ! ズルいぞ、あたしもしたい!」
盛り上がるあたし以外の姉妹たち……。
なんなの、この仲間はずれ感は……。
だからって、あたしは露崎律を異性として好きになるわけにはいかない。
あいつは、男だから!
あんな顔していたって、そして、たまたま姉妹にいい顔をしていたって、男である以上根っこは傲慢な自己中に決まってるの!
「あたしは、男なんかと平等な立場でセックスするのなんて、絶対嫌なの!」
これ以上ここにいたら姉妹喧嘩になっちゃいそうだから、さっさとお風呂から上がることにする。
「露崎律……あたしは他の姉妹と同じようにはいかないわ……!」
あんなポッと出の、違う世界線から来たとかいうウソをつくヤツを、信用してあげるわけがないでしょ。




