第27話 みんなやってらっしゃいますからね
久華さまの部屋までやってきた。
やっぱり優秀なアスリートらしく、部屋の中はトロフィーや盾や賞状でいっぱいだ。
「ちょっと男手が欲しくてさぁ」
久華さまは、床にヨガマットを敷いて、その上に寝転んでいた。
「マッサージ頼むわ」
「えっ、僕でいいんですか?」
「自分で揉むのは大変だからな。お前も一応男なんだし、それなりに力あるだろ?」
「そ、そうかもしれませんけど……その格好する必要ありました?」
「あるだろ。こっちの方が、どの辺の筋肉に効かせられてるかわかりやすいだろ?」
久華さまは、上半身こそおへそが出る程度のクロップドなTシャツを着ていたんだけど、下はざっくり股上が上がっているショーツ姿だった。
その際どさのせいで、下手な下着よりえっちな感じがする。
そんな姿で、両脚を投げ出すようにしているのだから、目のやり場に困るにもほどがある。
「そんなの、ほとんどパンツじゃないですか!」
「え? パンツだけど?」
「やっぱり!」
「大丈夫だって。茜がちゃんと毎日洗ってくれてるし、汚くねーよ」
「そういうことじゃないんですよ! せめて股は閉じてください!」
「どんな体勢だろうと人の勝手だろうが。早くやれよー」
久華さまは仰向けに寝転がる姿勢のまま、僕の脚をカニバサミで捕らえてくる。
「わっ」
最近鍛えてもらっているとはいえ、名人の久華さまに敵うはずもなく、なすすべなく簡単に転んでしまう。
「まずは脚から頼むわ」
ここで拒否しようものなら使用人として失格扱いをされてしまうかもしれない。
仕方なく僕は、久華さまの腿に両手で触れる。
「僕、マッサージなんてやったことないんですけど?」
「適当でいいって。腿を両手で挟んでわしゃわしゃってしてくれりゃいいから」
言われた通り僕は、両手で久華さまの左腿を挟み込んだ。
この前、腕ひしぎ十字固めを食らったときはゴワゴワした道着越しだったけど、今は素手で触れている。
手のひらに伝わる感触はほんのり冷たくて、早朝ランニングに筋トレをして放課後も部活の助っ人をするくらい鍛え抜かれた強靭な肉体をしているはずなのに、力を抜いた久華さまの腿は触れればプリンのように柔らかくふるふると揺れた。
なんだ、この感触は……。
女の子の脚って、鍛えていてもこんなに柔らかいのか……!
「痛っ……」
久華さまの右足で小突かれてしまった。
「そんなもたもたやるなよー。もっと早く擦る感じでやってくれ。手のひらで熱を込めるみたいにさ」
注文が多いなぁ。
恥ずかしさは残るけれど、ここで手を抜こうものなら久華さまに怒られちゃう。
僕は懸命に擦った。
邪念を追い払って、久華さまの疲れを癒やすことに専念しようとしたんだ。
「ん……ふっ……」
「へ、変な声出さないでくださいよ! 変なことしてるみたいじゃないですかぁ!」
「仕方ねぇだろ! 男に触られたことないんだから!」
そっか……。
久華さまみたいなスポーツ系美少女でも、この世界では男性が少ないから、男子と付き合うまで行くことはできないんだ。
ひたすら恐ろしかった久華さまに、同情心を持つことができた瞬間だった。
「わかりました。僕ができる全力でやらせてもらいます!」
僕がやっていることは、決していやらしいことじゃない。
医療行為、これは医療行為なんだ。
そう言い聞かせながら、久華さまの腿をさすさすと擦り続けるんだけど。
「ふっ……あっ、んんっ!」
そのたびに久華さまは、変な声を出しちゃうんだ。
でも、ここでやめたら久華さまにまた怒られちゃうし、続けるしかない。
息が荒くなって、とうとう股を閉じてしまい、なんだかもじもじし始めたから、マッサージする身としては大変になっちゃった。
それにしても、久華さまったら、普段はボーイッシュっていうか少年っぽい感じの低めの声なのに、変な声を出すときはすごく女の子っぽいんだよね。
でもおかしいな。
さっきからずっとさすり続けていたときと違って、脚の付け根に近づくごとにぬるっとした感触がしたような。
「あ、脚はいいから次! 次やってくれ! 早く、早くだぞ!」
なんだかやたらと興奮していて、そそくさとうつ伏せになる久華さま。
うつ伏せなら股の間の際どいところは目にしなくて済むから気が楽かも、なんて考えは甘かった。
股上が際どければ、背面もまた際どくて、ほぼTバックみたいになっていた。
ふっくらと見事な山なりになった白くて柔らかそうなお尻が、僕の視界にしっかり入る。
トップアスリートの鍛え抜かれたお尻は、こんなにも美しいのか。
「実はな、今日は特に尻が凝っちまってよー、きっちりしっかり揉んでほしいんだわ」
「そこって凝るような部位なんですか!?」
「お、お前は、素人だからわからねーんだよ。いいから、あたしが凝ってるって言ってるんだから疑わずにさっさとやれ」
恥ずかしいにもほどがある。
でも、断ったら使用人として信頼されなくなりそう。
そんなジレンマに苛まれながら。
「ま、マッサージをさせていただきます!」
僕は一礼をし、そして拝み、神聖な気持ちになってから、久華さまの真っ白でふっくらとしたマシュマロめいたお尻に手を伸ばした。




