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第24話 素敵な贈り物(純礼視点)

 私――風祭純礼(すみれ)は、お出かけから帰ってきたあとも、律くんのことばかり考えてしまっていた。


 でもねえ、しょうがなくないかしら?


 私のせいで失くしてしまったと思っていた、お母様の大事な指輪を頑張って取り戻してくれたのだもの。

 いい印象を持つなという方が無理というものでしょう?


 それに……。


「純礼姉さん、どうしたの? さっきかずーっとぼんやりしてるみたいだけど?」


 夕食を終えて廊下を歩いているとき、瑠海奈るみなちゃんに心配されてしまった。


「いえ、なんでもないわ。大丈夫よ」


 大丈夫なフリをしなきゃ。

 妹に心配を掛けてしまうなんて、いい姉ではないものね。


「そう? 純礼姉さんが大丈夫って言うとき、心配になるのよねー。一人で抱え込んじゃうところあるから」

「あらあら、そんなことないわよ?」


 どうしよう。

 瑠海奈ちゃん、私のことなんてお見通しだったみたい。

 もしかして、私は昔から妹たちを心配させてしまっていたのかしら?


 お母様がいない以上、私が妹たちを頑張って支えないといけないって思っていたけれど、この調子だと私を『姉』だと思ってくれていないかもしれないわね……。


「純礼姉さん、大丈夫だから」


 でも、瑠海奈ちゃんの表情は、私を頼りなく思うような感じではなかったわ。


「純礼姉さんからすればあたしは頼りないかもしれないけど、姉さんを支える準備はいつだってできているから。あたしだけじゃなくて、久華ひさかだって実紅みくだってそうよ」


 瑠海奈ちゃんは、鼻息荒く手元をグーにしてしまう。


「純礼姉さんに何かあったら、あたしたちがみんなでフォローするから! だから純礼姉さまだけで全部抱え込んじゃうようなことはしないでね」

「ふふ」

「あっ、どうして笑うのよ? あたし、真剣なのに」

「違うのよ。今日もね、同じことを言われてしまったものだから」

「えっ、誰に? まさか、露崎つゆさきりつ?」

「そうよ」

「そういえば、帰ってきたときの露崎律は心なしかキリッとしていたし、ちょっと頼もしくなっていたわ……まさか純礼姉さん、抜け駆けしてあいつに手を出しちゃったの?」

「違うわよ。私が言い出したルールだもの。自分から破ったりしないわ。むしろ、瑠海奈ちゃんが思っていることとは逆ね」

「逆ぅ!? じゃああいつの方が姉さんに迫ったってこと!? あいつ、あんな見た目だから油断してたけど、結局は中身は毛むくじゃらのゴリラオスと変わらないってことじゃない!」

「そうじゃないわ。それと、律くんをあまり悪く言うものじゃないわよ。優しいだけじゃなくて、頼もしいのだから」

「な、なんなのその高評価……露崎律の姿から全然想像できないんだけど。一体今日のお出かけで何があったっていうのよ」

「ふふふ。瑠海奈ちゃんもこれから律くんのお世話になるのだから、すぐにわかるわよ」

「……信じられないけど、姉さまがそう言うのなら否定し辛いわ」


 そのわりには、瑠海奈ちゃんったら不満そう。


「でも! 純礼姉さんはあたしの姉さまなんだから! いくら相手が男だからって、ポッと出のヤツなんか優先しないでよ!」

「もちろんよ」


 私は、瑠海奈ちゃんを抱きしめる。


 瑠海奈ちゃんは小さいころから、どれだけ泣いていてもこうしてあげると泣き止んでくれるのよね。

 そのせいか、落ち着かせようと思ったときはついつい抱きしめるクセがついてしまったわ。


「大事な妹だもの。どんなときだって、瑠海奈ちゃんを蔑ろにするようなことはしないわ」

「……別に、姉さまのことを疑ってるわけじゃないわ」

「あらあら」


 瑠海奈ちゃんは私の腕からするりと抜けると、先へ行ってしまった。

 10年くらい前までは、泣き止んでもしばらくは私の腕の中にいようとしたのに。


「妹の成長は早いものねぇ」


 瑠海奈ちゃんや、律くんの言う通り。

 私は、妹たちをいつまでも子供扱いしないで、頼ることを覚えるべきなのかもしれないわね。


 でも、瑠海奈ちゃんには少しウソをついてしまったわ。

 全然一切、律くんにお手つきしなかったわけではなかったんだもの。


 唇に触れる程度のキスくらいならノーカンよね?


「それに……」


 私は、ネックレスチェーンを通したリングを取り出す。


「ふふ。私だけこんな特別をもらってしまっていいのかしら?」


 今、チェーンの先にくっついているのは、お母様から譲り受けたリングではないの。


 律くんが、お母様のリングを猫ちゃんから取り戻してくれたあと、百貨店へ引き返して買ってくれたもの。


 どうもあの子、以前、千晶ちあきちゃんから特別報酬をもらったらしいのよね。


水鳥みずどりさんから、純礼さまを慰めるときに使えと言われましたので。どうしても不安なようでしたら、これをレプリカとして持ち歩いてください。大丈夫ですよ、肌身離さず持ち歩かなくても、純礼さまの風祭家とお母様に対する思いはもう十分伝わっているはずですから』


 そう言って、プレゼントしてくれた指輪。


 お母様から譲ってもらったリングは、ちゃんとケースに収めて部屋の一番覚えやすい引き出しにしまってあるわ。


 律くんは、お母様の指輪と比べるとずっと安物ですけど……なんて申し訳無さそうだったけれど、そんなことない。


「こんな贈り物、初めてだもの」


 まさか私が、男の子から指輪をもらうなんて。

 それだけで、特別な輝きを持つ指輪に見えてくる。


 もちろん今夜は、この指輪を抱いて寝るつもりだわ。

 いつものように、律くんを抱きしめたときの感触を思い出しながらね。


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