第21話 純礼さまのお着替えショー その2
「びっくりさせてしまってごめんなさいね。お洋服選びに付き合ってもらいたかったのは本当なのよ?」
「そ、そうだったんですか」
「ええ。ついつい、律くんの反応を見たくて、水着選びを優先させてしまったの」
「そんなぁ。人が悪いや」
「でもこれで、私とのお出かけは忘れられないものになったでしょう?」
「そりゃあもう!」
「ふふふ、作戦成功ね」
微笑む純礼さまは、控えめなVサインを見せてくれた。
そういう意図があるのなら、純礼さまにも、たんに優しいだけじゃないお茶目な一面があるとわかって、ちょっと嬉しいかも。
水着と違って、服はこちらの世界でも特別露出過多ってわけじゃない。
たぶん、性的アピールという狭い目的に限定するよりも、純粋に多様なファッションを楽しみたいという女性らしい考えが強いからだろう。
「じゃあ、すぐ着替えてしまうわね」
純礼さまが水着の肩紐に手を掛けたので、僕は慌てて背中を向ける。
やっぱりすぐ背後で純礼さまが水着を脱いでるって思うと、緊張しちゃうなぁ。
直前に見たほぼ裸の水着姿を思い出してしまい、僕が高名な絵描きだったとしたら生涯を通じて純礼さまをモデルにした美人画を描き続けるだろうな、なんて飛躍したことを考えてしまう。
でも、それくらい美しい体だったんだ。
僕みたいな下っ端が簡単に触れることを許されないような、ね。
「あら? あらあらあら……」
背後で片足ケンケンでもしてるみたいな物音を立てる純礼さん。
その物音は、段々こっちに近づいてきていて。
「えっ? わっ――」
ついさっきまで感じていた純礼さまの体の柔らかい感触が丸ごと飛び込んできて、僕は純礼さまに押し倒され、いや、押しつぶされてしまった。
一体どういう原理が働いたのか。
僕と純礼さまは、いわゆる6と9の体位になってしまっていた。
触れた感触は柔らかく、たぶん僕は純礼さまの両腿に触ってしまっていたと思うんだ。
思う、なんて言ってしまったのは、僕の視界が暗黒に覆われてしまっていたから。
水着を脱いだ直後のはずだし、今の純礼さまは全裸だと思うんだけど……。
鼻先に感じる湿っていてふわふわした感触と芳しい香りがとっても気になるけれど、深く考えちゃダメだ。暴発する。
「ごめんなさいね。水着から脚を抜こうとしたら、バランスを崩して転んでしまったわ」
純礼さまは、全裸で股間を押し付けたことを記憶から消してしまったんじゃと思えるくらい優雅な所作で僕から離れ、目の前で正座をする。
両手は閉じた両腿に挟み込まれているから、大事なところは見えないんだけど、セカンド大事なところな乳の首は細い腕だけでは隠しきれずにちらりと見えてしまっているから、僕は糸目キャラの顔になってセルフ自主規制をすることしかできなかった。
平静を装う純礼さまだけど、顔は気の毒になるくらい真っ赤になっているから、実はとっても恥ずかしかったのだろう。無理もない。
「いえ、僕の方こそ、ぼーっと突っ立っててすみませんでした! それより早く服を!」
「そうね。すぐ着替えるわ。申し訳ないけれど、目を閉じていてくれるかしら?」
冷静を気取ろうとしても、声の震えでまだ動揺が残っていることがわかったから、僕はこれ以上純礼さまを刺激しないように、座礼のポーズをして着替え終えるのを待つことにした。
視界が真っ暗になったせいで、思い出してしまうのは直前に見たあまりに妖しい裸のこと。
この前……実紅さまに無理やりお風呂に連れて行かれたときに、瑠海奈さまと久華さまと実紅さまの裸は見てしまったけれど。
純礼さまの裸体は別格で、一瞬目にしただけでも股間の機嫌に脳みそを支配されてしまいそうになった。
この世界の女性は男性の興味を惹きつけることが死活問題なだけに、僕が元いた世界よりずっと男性にとって魅力的に映る体つきになってしまうのかもしれない。
僕は、風祭家の使用人なんだ。
絶対に、お嬢様たちでむらむらなんかしたらダメだ……!




