第15話 いつでもエレガントに振る舞う純礼さま
「それでは、昨日もお伝えしたとおり、今日から露崎くんは純礼お嬢様のお世話をお願いしますね」
朝。
エントランスホールで顔を合わせた永森さんからそう告げられた。
「純礼さまかぁ」
純礼さまには、初めからいい印象があった。
いつも微笑んでいて優しそうだし、行き場のない僕を使用人として拾ってくれた人だから。
「実紅さまのときよりずっと気が楽だよ」
館の東側に部屋があった実紅さまと違って、純礼さまの部屋は西側。
これまでと少し違う廊下を歩いて部屋へと向かい、扉をノックする。
「純礼さま、露崎です。起こしに参りました」
「どうぞ、入って」
部屋に入ると、純礼さまは、すでにベッドで身を起こして待っていた。
すごい。やっぱり実紅さまとは違う。
実紅さまだったら、この時間はまだベッドでミノムシ状態になったままだったから。
その上、早朝だろうと一切気の緩みを感じない表情で、とても寝起きには見えない。
その代わり、目のやり場には困っちゃう。
明るい金色の長い髪と対比するような色合いの真っ黒で露出高めなベビードール姿で、白くて長い脚を組んでいる姿は、僕からすれば刺激が強すぎて目に毒だから。
ダメだダメだ、ちゃんと使用人としての仕事を全うしないと!
「おはようございます、純礼さま」
「おはよう、律くん。昨日はよく眠れたかしら?」
お寝坊さんだった実紅さまと違って、僕を気に掛ける余裕もある。
この落ち着きが、大人の女性だよなぁって感じさせてくれるよ。
年齢で言えば一つしか変わらないんだけどね。
「は、はい! もちろん! ……って言いたかったんですけどー」
「あら? 眠れなかったの?」
「純礼さまのお世話をするって考えると、緊張してしまってなかなか寝付けなかったんです」
「うふふ、別に緊張するようなことなんて何もないじゃないの」
「で、でも……純礼さまはお綺麗ですから」
「律くんは、男性が女性を褒めることがどれだけ特別か知っているでしょう? 私をその気にさせてしまっていいのかしら?」
「すみません、つい本音が出てしまいました。あの、僕は……」
「どうしたの?」
「もしかして、この場で純礼さまにおいしくいただかれてしまうんでしょうか?」
「あらあら。可愛いわね。ぜひそうしたいところよ。でも今日は朝から講義があるから、あまりゆっくりはしていられないの」
ゆっくりしていられる状態だったら……なんて妄想してしまう。
「そういうことは、時間があるときにね?」
「は、はい!」
はい! じゃないだろ……。
僕は、この館で使用人として働くんだ。
たとえ純礼さんから許可が出たって、御主人様に手を出してしまったら、使用人としての信用をなくして即刻クビになっちゃうよ。
「そう緊張しないでね。私の従者が務まらないんじゃないかって心配になってしまうわ」
「そうですね! すみません! 気を抜かずに仕事します!」
「それじゃあ、早速使用人の大事な仕事をしてもらおうかしら?」
「はい。なんなりと……えっ?」
ベッドに腰掛けたままの純礼さまは、僕に向かって両腕を伸ばしてくる。
意図するところがよくわからず、僕も両手を広げてみちゃったりするんだけど。
「ふふふ、律くん違うわ。ハグよ、ハグ。抱きしめるの」
「ええっ!? 僕が純礼さまをですか!?」
「あら? 嫌なのかしら?」
「違います! 僕なんかが純礼さまの美しい体に触れるなんて許されませんよ!」
「困ったわね。大事な使用人に触れてもらわないと、私の朝が始まらないのに」
ということは、永森さんもこれを毎日やっていたということだろうか?
でも、純礼さまに言う通りにしなかったら、純礼さまはスッキリしないまま今日一日を過ごしてしまうことになる。
そんなことになったら、使用人失格だ。
なんのために僕がいるんだって話だよ。
「わかりました! 僭越ながら、抱きしめさせていただきます!」
「ふふふ。それならこっちに来て」
「わっ」
純礼さまが僕の腕を引き込んだものだから、抱き合うかたちでベッドに倒れ込むことになってしまった。
「はぁ。やっと私の一日が始まったという気がするわ。律くん、ありがとうね。私を起こしに来てくれて」
「純礼さま……」
純礼さまは、大人っぽく見えるけれど四姉妹の中ではそれほど身長が高くない。男性並みの高身長の久華さま、女性の平均より少し高いくらいの瑠海奈さまに次いで、実紅さまより少し高いというくらいなんだけど、横になったまま抱き合っていると、純礼さまにすっぽり覆われてしまったような気持ちになる。
「律くん、もっと私にくっついていいのよ?」
優しく声を掛けてくれる純礼さまだけど、官能的で甘い響きを伴って聞こえるのは、純礼さまがいやらしいからじゃなくて僕の方に原因がある。
純礼さまが僕の顔を抱えて胸元に引き寄せるものだから、純礼さまの豊かにもほどがある胸を押しつぶすようにして埋まっていく。
あまりに柔らかすぎて、僕の顔はどこまでも埋まっていってしまいそう。
ん? おかしいな。
いくらなんでも、柔らかすぎないかな……?
……あっ!
「あら? どうしたの? お顔が真っ赤だわ。何かあったのかしら?」
「その……失礼を承知で聞きますけど、純礼さまは夜にはブラはなさらない方ですか?」
「あらあら。可愛らしい質問ね。きちんとナイトブラをすることにしているわ。崩れてしまうと聞くしね」
「でも、純礼さまに抱きしめられたとき、感触があまりに柔らかくて……これはきっと、ブラの感触ではないと思うのですが……」
感触だけじゃなくて、純礼さまの挑発的なベビードールは、とっても素材が薄くできているから、よく見ると胸のぽっちまで透けているのがわかってしまった。
「こ、これは……」
ノーブラだと気づいたのか、純礼さまは顔の下から上へと顔色を赤くしていって、胸元を腕で隠す。
透き通るように肌が白くて綺麗なせいで、赤くなるとすぐにわかっちゃうんだ。
それでも、顔つきだけは焦りを感じさせない優雅な表情のままだった。
「これは、わざとよ……。あなたが思わぬアクシデントに照れて仕事ができなくなってしまったら困ると思って、テストさせてもらったの」
どちらかというと、照れているのは純礼さまの方な気がするけれど……。
「さすが律くんね。とりあえずは合格よ。でも次からは、もっと堂々と指摘するべきね。恥ずかしがるのも、それはそれで可愛いけれど」
「は、はい、ありがとうございます」
「ふふ、額から汗が出てるわよ?」
「すみません。本当にびっくりしたので」
「驚かさせてごめんなさいね。確かここにハンカチが」
起き上がった純礼さまは、ベッドサイドにあるキャビネットの引き出しから白い布を取り出して、こちらに手渡してくれた。
「遠慮なく使って」
「ありがとうございます……あれ? これって……」
ハンカチにしては妙にツルリとした感触だったので、不思議に思って開いてみると。
「これパンツじゃないですか!?」
「……えっ?」
「や、やっぱりパンツですよ!」
一旦平静に戻っていたはずの純礼さまの顔色が、再び真っ赤になってしまっていた。
「そそそそ、そうだったかしら? おかしいわねぇ、そこにはハンカチが入っているはずなのに。偶然紛れ込んでいたのかしらねぇ」
よく見ると、純礼さまが開けた引き出しは閉まりきっていなくて、ハンカチが折りたたまれているとは思えないくらいカラフルな色合いで埋まっていた。
どう見ても、下着を入れておく用の引き出しだと思うんだけど……。
純礼さまがおっちょこちょいなミスを連続するはずがないから、きっと純礼さまは目が悪くて、ついつい間違った引き出しを開けてしまったのだろう。
「純礼さま、それよりもお着替えの方を……」
「そ、そうね! すぐ着替えるわ!」
「わかりました。それでは僕は部屋の外にいるので」
「この場にいて構わないわよ。せっかく起こしに来てくれたのに、着替えるからといって追い出すのは忍びないもの。だからこの目隠しを使って」
純礼さまが「目隠し」と称したそれを受け取ったとき、またもや感触に違和感があった。
僕が手にしたのは、純礼さんのものであろうブラだったから。
真っ赤な色合いの、挑発的な意匠のブラだ。
確かにカップの部分で目を隠せるかもしれないけど……そんなことしたら僕は変態だよ。
「あの、これ……」
「えっ? り、律くん!? どうして私のブラを持っているの!?」
「純礼さんが目隠しだと言って僕に渡したからですよ!」
「お、おかしいわね、目隠しを渡したはずなのに……」
「あっ、そうだ。もしかして純礼さん、視力が悪かったりします?」
「いいえ。両目ともに2・0よ。視力には自信があるの」
えっへんと胸を張る純礼さま。
ノーブラなままの胸を。
「あっ」
乳の首が擦れる感触で思い出したのだろう。
純礼さまは、再び頬を赤くすると、恥ずかしそうに両腕で胸元を隠した。
僕は確信した。
純礼さまは、優雅で上品に振る舞っているけれど。
実際はポンコツのドジっ子なんだ。
これ、もしかして実紅さまより厄介なんじゃ……。
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