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第11話 実紅さまと一戦交える

 キグルミ姿で実紅さまと休日を過ごすことになった僕だけど。

 午後を迎えた今、それほど大変な目には遭っていなかった。


「ま、待て! わたしはそっちの攻撃には弱いんだ!」

「関係ありませんよ。今だけは、使用人って立場を忘れさせてもらいますからね」

「くそう、わたしをどうする気だ……?」

「決まってます。実紅さまの弱いところを徹底して攻めまくるんですよ」

「ふ、ふんっ……ひうぅ、い、イっちゃう~~~~!」

「へ、変な声出さないでくださいよ」

「わたしは格ゲーになるとついつい声を出してしまうタイプなんだ。……くそう、負けてしまったじゃないか」

「一回負けただけじゃないですか。他の勝負は僕の連戦連敗なんですから」

「わたしは無類の負けず嫌いなんだ。一度たりとも、負けるのは嫌」


 頬を膨らませて、実紅さまがコントローラーを手元に放り出す。


 この2時間というもの、僕は実紅さまに付き合って格ゲーの対戦相手をさせられていた。

 僕はゲームにそうヒートアップするタイプじゃないんだけど、実紅さまは違うみたい。


「それにしても、きみもなかなかやるな。弱そうだからカモにしてやろうと思ったのだが」

「いやぁ、たまたまこのゲームだけやり込んでて。僕はコマンド入力が苦手だったんですけど、これなら手軽に必殺技を出せるので」


 ゲーム文化は、こっちの世界にもちゃんとあるらしくて、僕がいた世界と同じクオリティを保っていてなんだか安心してしまった。


 ただ、僕が知ってる格ゲーは露出の高い女性キャラクターがたくさんいたはずなんだけど、こっちの世界では男性キャラがその数を凌駕してしまっている。


 ふんどしとかブーメランパンツとか変態みたいなビキニの男性キャラで戦うのは、僕としてはちょっと遠慮したいっていうか……。


 本来なら乳揺れするはずの美女キャラクターも、こっちではち◯ち◯を揺らす怪物だ。

 

「きみが付き合ってくれて楽しかったよ。姉さまたちはみんなゲームしないからな」


 確かに、あまりゲームしそうにないお嬢様たちだった。

 久華さまに至っては、ゲームで対戦するよりリアルで戦う方が好きそうな感じだったし。


「だがゲームはここまでだ。きみ、そこに寝そべりなさい」

「? いいですけど……」


 僕は、ちょうど丸いカーペットが敷かれている床に寝そべる。

 部屋の中は片付けてあるから、何かを背中で潰しちゃう心配もない。


「み、実紅さま!?」


 すかさず実紅さまががっつり抱きついてきたので、僕は驚くしかなかった。


「どうした? きみはわたしのぬいぐるみだろう? わたしはお気に入りのぬいはこうして抱きしめるのが好きでね。きみほど大きなぬいはいないから、せっかくだしこうして全身で味わっているんだ」

「そ、そんなもんですかぁ?」


 僕には、ぬいぐるみをもふもふする文化はなかったから、実紅さまの気持ちはよくわからない。

 でも、女の子ならそれくらいする……のかな?


「今日はめっちゃモフるぞー」


 心なしか鼻息荒い実紅さまは、僕の腰に腕を巻き付けるだけでは飽き足らず、僕の胸のあたりに顔をうずめてきたり、お腹に跨ってきたりした。


 マズいぞ、この体勢は……もう少し実紅さまが後ろにズレようものなら、棒に当たってヒットしてしまう。


 僕の顔は実紅さまを見上げる位置にあるんだけど、大きな胸で顔の半分は隠れているし、動くたびに躍動するから目のやり場に困っちゃう。


「もふもふが体と擦れるのもたまらないが、きみの体温が伝わってぬいが命を持ったようでこれまでにない使い心地だな」


 ぬいぐるみなのに、使い心地……とは?

 首を傾げたかったんだけど、僕のすぐ目の前に実紅さまの整った顔が寄ってきた。


「きみのもふもふを全身で味わいたいのだが、顔を見られると恥ずかしいから、少し我慢してくれ」

「わっ」


 実紅さまは僕のフードを引っ張り出すと、それで僕の目元が隠れるように覆った。

 それから僕は、実紅さまのされるがままになっていたんだけど。


「はぁ……はぁ……ふふ、もう少しだ……!」

「み、実紅さま。さっきから息が荒くありませんか? 体の不調でも?」

「いいや! むしろ絶好調なくらいさ!」


 弾けるようなテンションで答えてくる実紅さま。


 その姿に恐怖すら感じるけれど、ここで変に実紅さまの機嫌を損ねてしまったら、使用人失格だと追い出されてしまうかもしれない。


 結局僕は、実紅さまに何も聞けやしなかったんだ。


 そして、10分、いや、20分は経った頃だろうか。


「ふぅ、ふぅ……やばぁ……これが男の体か……」


 息の荒い実紅さまが、体をぴくぴくさせながらいった。


「よかったよ。きみをもふもふすることが、これほど気持ちいいとは」

「そ、そうですか……それならよかったです」


 僕は気が気じゃなかったよ。


 実紅さまの意図がよくわからない以上、僕が何かしらの恥ずかしい反応をしようものなら、クビになっちゃうかもしれないから。

 だから無心になるために素数のことばかり考えていたんだ。当分、数字のことは考えたくないよ。


「また頼むぞ。この場できみに特別ボーナスを払ってやりたいくらいだよ」


 なんだかいかがわしくなりそうだから、それは遠慮してくれるとありがたいかも……。


「さて、汗とかよだれとか色々な液体が流れ出て服がびっちゃびちゃだ。これはお風呂に入らないといけないよな」


 色々な液体ってところに引っかかりを感じるけど、ツッコんだら怖いことになりそうだからやめた。


「大浴場の清掃ならもう終わっているはずですから、入れますよ」

「そしてついでに、ぬいぐるみを洗わないといけないよな。そう、きみだ」

「えっ? まさか僕と入るってわけじゃないですよね?」

「勘違いしないでくれ。きみとじゃない。ぬいぐるみを洗ってあげるんだ。来い」


 僕は実紅さまに引っ張られて、大浴場まで来てしまった。

 抵抗することだってできたんだ。

 僕の方が、力が強いはずだし。


 それでもできなかったのは、やっぱり僕が使用人としてこの館にいるには、お嬢様たちに逆らっちゃいけないんだって気持ちがあったからかもしれない。


 決して、実紅さまと一緒にお風呂に入れるって下心があったからじゃない……はず。


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