第10話 今日からぼくは実紅さまのぬい
部屋を綺麗にすることはできた。
でも、実紅さまって根っこがぐうたらにできてるみたいなんだ。
二、三日は綺麗な部屋を保っていたんだけど、4日後にはもうダメだった。
「わ、またこんなに散らかして」
実紅さまの部屋へ起こしに行くと、片付け前とそう変わらない景色が広がっていた。
「クセになってんだ、散らかすの」
「胸を張るようなことじゃないですよ……」
せっかく片付けたのに。
「でもほら、電マはちゃんとここにあるから」
「電マ持って眠らないでくださいよ」
「しかしなぁ。一発抜いたほうがよく眠れるんだよ。ストレスフルな現代社会においてノーコストで程よい満足感を得られる自慰行為というエンタメコンテンツは過小評価されていると思わないかい?」
「すみません、思いません」
実紅さまと話してると、僕まで貞操観念がこじれちゃいそうだ。
「ちゃちゃっと片付けちゃいますから」
僕がいそいそとゴミや散らばった衣服やマンガを片付けている間も、実紅さまはベッドに腰掛けて黙って成り行きを見ているだけだった。
「そんなにわたしのお世話をするの好きか?」
「仕事ですから」
「それなら、1日中わたしといろ」
「えっ?」
「そうすれば、この部屋だって汚くはならないぞ」
「それ、実紅さまが散らかしたそばから僕が片付けることになるからですよね?」
「頭が回るじゃないか」
ため息が出そうになる。
でも、考えようによっては、だ。
実紅さまが汚部屋にしてしまうのは、長年に渡ってそういう習慣ができてしまったから。
それならこの際、僕がつきっきりになることで実紅さまの散らかし癖を治せば、僕は風祭家の使用人として職を得ることに近づけるのでは?
「わかりました。やりましょう」
「うむ。きみのそういう素直なところは好きだぞ」
「……えっ、あ、はい」
「赤くなるな。まるでわたしがとっても照れくさいことを言ったみたいになるだろ」
でも、僕はこれまで女子から面と向かって好きだなんて言われたこと、ほとんどなかったから。
「まあいい。きみのメイド服は素敵だけど、わたしの専属お世話係りをする間は、こっちに着替えてもらいたい」
スプリングを活かしてベッドから飛び降りた実紅さまは、クローゼットからとある衣服を持ってきた。
「それ、キグルミですか?」
めっちゃドンキに売ってそうなヤツ。
「うむ。わたしはぬいぐるみが好きでね」
「そういえば、ぬいぐるみだけはゴミに紛れずにちゃんと並べてありますね」
「だから今日から、きみはわたしの一番お気に入りのぬいぐるみになるんだ」
動きにくそうだなぁ、とは思うんだけど、このままだとミニスカメイド服を何の違和感もなく着れるようになっちゃいそうだから、たまには衣装チェンジも必要かも。
「わかりました。すぐ着替えてきますね」
「どこへ行こうというのかね?」
「そりゃ着替えにですよ」
「ここでいいだろ」
「そういうわけには……」
「きみ、使用人が御主人様に楯突く気かな?」
「そう言われたら断れないですよ……」
結局僕は、その場で着替えることになった。
「ほう。まさか下着まで女性モノだったとは」
「……永森さんに言われたんです。これを着せるようにお嬢様たちから言いつけられているのでって」
「わたしは知らないよ。メイド服を着てほしいという提案はしたが。そういういたずらをするのは久華姉だろうね」
この調子じゃ、久華さまも厄介そうだなぁ。
着替え終えた僕は、某電気ネズミをモチーフにしたふわもこのキグルミ姿になった。
「うむ。親しみが増すな。幸い、今日は学校がお休みだ。きみと一日一緒にいられるぞ。その前に腹ごしらえだな」
僕は実紅さまに付き従って、大食堂へ向かった。
平日は風祭家のお嬢様みんなで朝食を摂るんだけど、今日みたいな休日はお嬢様それぞれ起きる時間がまちまちだから、四姉妹全員が揃ってるってことはないみたい。
そんな中、瑠海奈さまが朝食の最中だった。
「あんた、なにその格好? メイド服はどうしたのよ?」
「わたしがそうするように言ったんだよ」
実紅さまが、瑠海奈さまの隣の椅子に腰掛ける。
するとすかさず、永森さんが朝食を運んできた。
「愛らしいだろう?」
「あんた、ちょっと来なさい」
「はい」
瑠海奈さまを無視するわけにはいかないので、すかさず僕は瑠海奈さまのそばに寄る。
「あんたそれ、特殊なプレイの一環じゃないでしょうね?」
「ち、違いますよ!」
「律くん。今日は一日きみと過ごすわけだけど、おはようからおやすみまで見守ってもらうからな」
「それ、一緒に寝るってこと? ちょっと、実紅! それはルール違反じゃ……」
「ルールですか?」
「な、なんでもないわよ。ていうかあんたは使用人なんだから、姉妹同士の会話に勝手に入って来ないで」
「す、すみません……」
「瑠海奈姉、これでもわたしはちゃんと約束を守る方だよ。あくまで律くんをもふもふにしたいだけだから」
そうして朝食を終えると、実紅さまは椅子から降りた。
「律くん、行こう。休日は有限だから」
僕は実紅さまに手を引かれ、大食堂をあとにした。
ルールとか約束とか、いったい何のことなんだろう?
まあ僕は、まずはこの世界での立場を確立しないといけないから、余計な詮索をする余裕はないけれど。




