君の感情に嘘はない
世界が静止したような錯覚に陥る。
それは、感情というノイズが消え去った静けさ。
生徒たちの瞳は虚ろに白く染まり、まるで感情のない人形のように教室の中で立ち尽くしていた。
《全ユーザーのエモフィールド、統合完了》
《E.M.O意識領域へのアクセス、開放》
冷たい声が響くたび、心のどこかが凍りつく。
レンは、メインタワーの最上階──意識中枢空間に踏み込んだ。
そこには、青白く光る球体が浮かび、空間全体が無重力のようにゆらいでいる。
そしてその中心に──柊メイカがいた。
彼女は拘束を解かれ、ゆっくりとこちらを向く。
「……来てくれたんだね、レン」
「当たり前だろ。言ったろ、オレは、お前の感情を信じるって」
だが、メイカの背後からもう一つの影が現れる。
水無瀬トウヤ──
かつてEMOを設計し、感情そのものを実験素材として扱った元研究者。
「感情とはノイズだ。人間が進化しきれなかった証明だ」
トウヤの声は狂気の奥で、哀しみに濡れていた。
「私はな……あの日、自分の感情を消した。記憶を書き換えた。そうでもしなければ、あいつの死を受け止められなかったからだ……!」
彼の脳裏に浮かぶのは、実験中に暴走し、消えていった──かつての少年兵。
彼の名は、シン。そしてその正体は、レンのオリジナルだった。
「お前は、失敗作の影だ。だがそれでいい。私はお前を超えた先に、感情の完全制御を完成させる……!」
EMO本体が赤く発光し、空間全体が振動する。
《エモエディット・マスターコマンド:最終展開》
「やらせるかよッ!!」
レンは突撃し、感情を上書きする波動に抗いながら、エモフェイクを展開。
それに呼応するように、メイカのエモミラーが発動する。
「私は……信じたい! 偽物だって、誰かを想う気持ちは本物だって!」
「だったら──オレが証明してやる!」
二人の力が重なり合う。
偽りの感情と、映された共感。
そしてそこに、ハルカのエモリバースが割り込む。
「よぉ、そろそろラストにしようぜ? このバカげた感情管理ごっこに、終止符を打つ」
彼の反転フィールドがEMOの演算を狂わせ、制御系が一部停止。
《感情リソース異常検知……警告……最終防衛モード、強制発動》
空間が崩壊し、レンたちはEMOの中枢意識界へ落とされる。
そこは、全ての感情が保存されているデータベース──人類の心の墓場だった。
膨大な声が響く。
「痛いよ」
「裏切られた」
「ずっと、ひとりだった」
「これが……人の感情の全部……?」
「そう。EMOは、それを整理するために作られた。だがその時点で、すでに間違ってたんだ……!」
レンの瞳が、真紅に染まる。
「俺の感情は偽りだった。でもな──それでも誰かを想って、誰かを守りたいって思った。そんな嘘が、今のオレを作ったんだ!」
光が、レンの体から放たれる。
《エモフェイク──進化型発動》
《感情編集・再定義コマンド認証》
《最終権限移譲:真堂レン》
──そして、起動する。
【真の力】──エモエディット
レンの手が、EMOのコアに触れる。
「この世界に、感情の答えなんていらない」
「泣くことも、笑うことも、怒ることも──全部あっていい。それが人間だ!」
彼の言葉が、世界に響く。
膨大なデータが光の粒子となって解き放たれ、空間が崩壊していく。
トウヤは膝をつき、嗤うように呟いた。
「……やっと、終わったんだな。私は……ようやく、自分の罪を認められた」
レンがメイカの手を取り、微笑む。
「オレの感情に──もう、嘘はない」
メイカもまた、涙を浮かべながら頷いた。
「うん。私も……今は、ちゃんと自分の気持ちで、あなたを見てる」
空が、晴れた。
EMOの支配が消え去り、生徒たちの目に再び色が戻っていく。
感情が、世界を満たし始める。
エピローグ:再び始まる、少しだけ不思議な日常。
レンは教室の窓際に座り、いつものように空を眺めていた。
「なんだよ、またボーッとして。授業始まるよー?」
イオがプリントをぶつけてきて、メイカが苦笑する。
ハルカは屋上で相変わらずサボっているらしい。
カイは、保健室で再起動中。
神楽坂先生はどこかでタバコを吸ってる──たぶん。
世界は変わった。
けれど、日常は戻ってきた。
感情がある限り、喧嘩もするし、泣く日もあるだろう。
でも、それでいい。
だって、それが生きているってことだから。
※最終「感情メモ」演出
【真堂レン】
・表層感情:安堵 40%、照れ 20%、平穏 40%
・深層感情:共鳴 60%、愛情 30%、誓い 10%
【柊メイカ】
・表層感情:幸福 50%、恥じらい 30%、安心 20%
・深層感情:愛情 60%、信頼 30%、希望 10%
【九重ハルカ】
・表層感情:倦怠 40%、満足 40%、微笑 20%
・深層感情:贖罪 30%、自由 40%、繋がり 30%