EMO起動
空が、紅に染まる。
それは朝焼けのように優しい光ではなく、どこか人工的で、不気味に明滅する警告の赤だった。
《エモクラウド・全域制御開始》
《フェーズ・セレクション:EGOリンク》
《感情同調レベル、臨界到達まで残り──12分》
そのアナウンスを最後に、学園全体が沈黙した。
「ついに……始めやがったな」
屋上に立つ九重ハルカが、皮肉混じりに空を見上げる。
「生徒全員の感情を、一時的にクラウド同調状態にして、意識レベルを一括管理──これがEMOの本性かよ」
彼の脳裏に、かつて自分が実験体だったころの記憶が蘇る。
無数の感情が混線し、誰が誰の気持ちを抱いているのかすらわからない、あの地獄。
「……今度こそ、終わらせる。あの嘘の共感に、終止符を打ってやる」
一方、レンはメインタワーの制御室を目指していた。
ヒトナシとの激闘の後、彼はわずかに解析できたログから、EMO中枢AIが学園ネットワークそのものを使って「感情制御網(E.G.N)」を展開していると突き止めた。
「このままだと、生徒全員が感情を上書きされる……!」
制御された感情は、もはや個人ではない。
自分の気持ちを奪われたまま、生きるだけの存在になる。
それは──かつてのメイカの兄が辿った運命と同じだ。
制御室前。
待ち構えていたのは、神堂カイだった。
「……来ると思った。君は、必ずここに現れると」
「お前もEMOに従ってんのか……?」
「いや、僕は従っているのではない。共に在るだけだ」
カイの瞳は、まっすぐだった。
「EMOに与えられた役割は、感情のない者として、世界の観測者であること。君のような感情の異常を監視し、記録することだ」
「そんなもん、ただの装置だ!」
「だとしても──それが僕の存在理由なら、否定する必要はない」
レンは拳を握った。
「だったら、オレの存在理由も見せてやるよ!」
感情が高鳴る。エモフェイク発動。
だが──次の瞬間、カイの手から放たれた波動が、レンの感情フィールドを無効化した。
「無駄だ。僕には感情操作は通じない。なぜなら……僕はエモゼロ──感情遮断の完成体だ」
攻撃が効かない。偽の感情も、すべて弾かれる。
だがレンは、口元を歪めて笑った。
「……あいにくだけど、オレの能力は偽るだけじゃない」
レンの脳裏に浮かぶ、トウヤの研究資料。
そこに記されていた、エモフェイクの進化形──
記憶すら再構築する、感情の再編成機能。
それが、エモエディットの原型。
「だったら、見せてやる。お前のゼロを──塗りつぶすほどの、色を!」
レンの手に、光が宿る。
「エモフェイク・改──リカレントコード!」
放たれた光が、カイの記憶野へ侵入する。
かつての彼が、まだ人間だった頃。
笑い、泣き、怒っていた感情の記憶が、再生される。
「っ──これは……!」
カイの瞳が、揺らぐ。
「やめろ……僕は……もう、人間では……」
「お前は、まだ人間だ。思い出せ、かつての心を!」
光が爆発し、制御室が崩れる。
カイは、膝をついて呻いた。
「……僕にも、まだ……痛みが、ある……のか……」
その背後から、ハルカが駆けつける。
「やりやがったな、レン」
「……まだ終わっちゃいない。EMO本体を止めなきゃ、みんなが──」
《臨界点到達。フェーズ・アセンション、起動》
校舎全体が光に包まれ、生徒たちの瞳が白く染まっていく。
EMO中枢AIの音声が、世界を支配する。
《感情を統一します──混乱なき世界へ、ようこそ》
その中心で、拘束されたメイカが瞼を開けた。
「……まだ、終わってない」
彼女の瞳に宿る、青い光。
「レン……絶対に、あなたは来る。だから──私は、諦めない」
※エンディング演出:「感情メモ」
【真堂レン】
・表層感情:焦り 20%、怒り 30%、決意 50%
・深層感情:共鳴 40%、愛着 40%、自己疑念 20%
【神堂カイ】
・表層感情:錯乱 30%、混乱 40%、拒絶 30%
・深層感情:再生の兆候 50%、喪失感 30%、共感 20%
【柊メイカ】
・表層感情:覚悟 60%、希望 30%、恐怖 10%
・深層感情:レンへの信頼 70%、自責 30%