真実の感情、偽りの心
月が沈み、朝が来る。
だがその光は、希望の代わりに不穏な静けさをもたらしていた。
メイカが消えた。
学園の裏モードへアクセスしようとしていた矢先。
校内の全カメラが同時にダウンし、警報も作動せず──
ただ、彼女の存在だけが、音もなく削除された。
レンは、震える手で彼女の通信ログを確認していた。
『──ごめん、レン。これはたぶん──』
そこまでで、録音は途切れていた。
「……誘拐か?」
ハルカの声はいつになく低い。
レンはうなずく。
「クラウスの本体が動いたか……あるいは、もっと上の命令かもな」
「水無瀬トウヤ……EMOの感情兵器開発責任者。クラウスの上司だろ」
「メイカを鍵に使うつもりなんだ。EMO本体、起動の──」
その夜、レンは独りで、あの部屋へと向かっていた。
――旧図書室跡地。
裏モードのデータリンクホールと、EMOのバックドアを繋ぐ封鎖領域。
「メイカが連れ去られたってのに、じっとしてられるかよ……!」
だが、そこで彼を待っていたのは──
「……君が、真堂レンか」
ひとりの少年だった。
白髪、無表情。
肌は病的に白く、瞳の奥には感情の色が一切存在しなかった。
「EMO製無感情型兵士ナンバー7号──コードネーム、ヒトナシ。」
「君を排除する。それが任務だ」
ヒトナシは無言で前へ出ると、その手に感情弾を形成した。
青白い光が渦を巻き、レンの胸元に迫る。
「ぐっ──!」
エモフェイクを発動し、偽の恐怖で軌道をずらす。
だが、相手は一切反応しない。感情がない。偽れない。
「フェイクが……効かない!?」
「当然だ。私には、感情がない。だから君の偽りも通じない」
レンは焦る。
攻撃も、防御も、読み合いも──
すべては、感情の在りかがあってこそ。
だが目の前の敵は、まるで空虚そのもの。
何も揺らがず、ただ、機械のように行動していた。
──そのとき、ふと、耳元に声がした。
『……ごめん、レン。これはたぶん──罠』
メイカの録音データ。
EMOの干渉で失われたと思っていたが、レンの脳裏に残響として蘇った。
──感情は、消せない。
ハルカが言っていた言葉と重なる。
「だったら、オレは……嘘の感情でぶつけるだけだッ!」
レンが叫ぶ。
偽の怒り、偽の友情、偽の哀しみ。
それらを束ねて──放つ。
「エモフェイク・フルバースト!」
世界が、揺れた。
だが、ヒトナシはその一撃を、真正面から受け止めていた。
血を吐きながらも、彼は──呟く。
「……これが、感情……?」
初めて、その瞳に揺らぎが生まれた。
「なぜ、君は……そんなにも熱を……」
レンは、一歩踏み出す。
「俺もな……感情なんて信じてなかったよ」
「でも今は違う。信じてる。あいつが残してくれた言葉を、想いを、オレが証明してやるんだ!」
ヒトナシの手が震え──
その身体が、崩れ落ちる。
「君の偽りは……本物よりも、強かった……」
そう言って、彼は意識を手放した。
その直後、警報が鳴り響く。
《感情制御ネットワーク、全域起動。EMO本体、学園制御を開始》
空が、真っ赤に染まっていく。
「始まった……!」
EMOが、学園全体を、実験場に変えようとしていた。
レンは、拳を握る。
「待ってろ、メイカ。オレはお前を取り戻す──感情のすべてを懸けて!」
※エンディング演出:「感情メモ」
【真堂レン】
・表層感情:焦燥 50%、怒り 30%、覚悟 20%
・深層感情:愛着 40%、執念 40%、不安 20%
【ヒトナシ(No.7)】
・表層感情:無
・深層感情:疑似共鳴 30%、動揺 40%、興味 30%