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 アレックスの執務室——


 王妃の発言を受けた翌日、アレックスはエリーとキースを部屋に呼び出した。


「急にすまない。今日は二人に相談があって来てもらった」


 キースはアレックスの言葉を聞くと、眉根を寄せながらソファーに腰掛けた。


「どうしたんだ。なにか問題でもあったのか?」


 アレックスは、エリーを自分の隣に座らせると、キースに視線を向け話し始めた。


「ああ。昨日、母上からシャロン家の領地に行きたいと言われた。そのときはエリーも連れて行きたいそうだ」


 キースは大したことではないという顔で話し始めた。


「良いんじゃないか。王妃様も苦労されてきたんだ。アレックスの結婚も決まって安心したんだろう。まあ、来年であれば落ち着いているだろうし、予定も立てられると思うぞ」


 アレックスは、キースの顔を見ると目を伏せため息をついた。


「ああ、来年ならな......」


 キースは眉根を寄せながらアレックスに問いかけた。


「......来年じゃないのか? それならいつだ?」


「今年だ。それも結婚式のひと月後には出発したいそうだ。昨日何度も確認した」


 アレックスの話を聞きながら、キースはふいと窓の外に顔を向けた。


「............」


 しばらく沈黙が続く中、表情を固くしたエリーは二人の顔を見るなり頭を下げた。


「申し訳ございません。王妃様は...もしかして私のために、無茶なお願いをされたのかもしれません」


 アレックスは、エリーの手に自分の手を重ねると「どういうこと?」とエリーの顔を覗き込んだ。エリーは顔を上げ、アレックスと視線を交わすとためらいながら話し出した。


「王妃様は、私がお祖母様のことを心配しているのをご存じだと思います。それに、薬草について訊ねることが多く、手紙を頻繁にやり取りしているので、そのことも気にかけてくださっていました」


 アレックスはゆっくり頷くと、エリーに問いかけた。


「——前伯爵夫人は、式に参加できないと言っていたね」


「はい。王宮や聖堂で迷惑をかけるかもしれないからと、手紙には書いてありました」


「そう……」


 その時、キースが何かを思いついたような顔つきで二人を見つめた。


「それなら、少し時期をずらせばいいんじゃないか? 結婚式の半年後あたりはどうだ」


 なかばやけっぱちで答えるキースを見ながら、アレックスは首を振った。

 エリーはアレックスとキースの話を聞きながら、領地で聞いたナタリーとステラの会話を思い出していた。


(王妃様はラベンダー畑をご覧になりたいと仰っていたのよね......それに、タペストリーを見ていた時も......結婚式のひと月後ということは、収穫前には...間に合うわ)


 エリーは俯いていた顔を上げると、真剣な眼差しで領地行きを懇願した。あまりの熱意に根負けした二人は、顔を見合わせると不本意ながらも了承した。




 エリーが退出した執務室では、アレックスとキースが領地行きの計画を立てていた。

 アレックスは、羽根ペンを動かしながらキースに向かって呟いた。


「エリーは...優しいな」


 キースも書類に目を通しながら、アレックスに答えた。


「そうだな。まあ、エルの妹だから、当然だろ」


 壁際では、セルジュが優しい眼差しでそんな二人を見守っていた。



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