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35 真相②


「アレックス殿下、セルジュです」


 アレックスは、「少し待ってくれ」と声をかけると、椅子から立ち上がりドアに向かった。扉を開けると、セルジュが軽く会釈をして、アレックスの耳元で何かを囁いている。


 エリーがその光景をじっと見ていると、アレックスが振り返り近づいてきた。


「エリー、少しだけ待ってて。話を聞いたらすぐに戻るから」

「どこかへ行かれるのではなく、お話だけですか?」

「......ああ」


 アレックスは戸惑いながら答えた。エリーはアレックスの様子をよそに、彼の手を自分の方へ引き寄せると真剣な眼差しで口を開いた。


「今日あったことなら、私にも教えてもらえませんか?」


 アレックスは、エリーをじっと見つめた後、セルジュの方へ視線を向けると頷いた。


「よろしいのですか?」


 セルジュが心配げに訊ねると、アレックスは苦笑いを浮かべながらも、「ああ」と答えた。セルジュはアレックスの表情を伺うと、安堵したように頷いた。


 三人はソファーに移動すると、腰を下ろして話し始めた。


「エリーは無理しなくていい」

「私もお二人と一緒にここでお話を聞かせてください」


 アレックスは心配しながらも、観念したように頷いた。

 そして、その光景を見ていたセルジュは、エリーに向かって話し始めた。


「まず、今回の犯行を企てた犯人は、メナール公爵令嬢でした。彼女はどうやらシャロン家に——いや、失礼いたしました。エヴァンス公爵令息とエル・シャロン伯爵令嬢、そして父親であるメナール公爵に恨みを持っていたようです」


 「そうか」と答えるアレックスの隣で、エリーは話しの出だしから躓いた。


「あの、なぜメナール公爵令嬢は、キース様と私の姉を恨んでいたのでしょうか?」


 セルジュはエリーの問いに、「ああ、それは...」と口ごもると、エマとキャロラインのやり取りをエリーに聞かせた。


 エリーは話しを聞き終えると、困惑した表情でその先を促した。


「メナール公爵令嬢は、寄子であるドネ子爵家のマチルダ嬢から、ルイスが謹慎していることを聞いて、シャロン伯爵令嬢の誘拐の話を持ちかけたそうです。『謹慎処分になったルイスとマチルダ嬢を婚約させるわけにはいかない、自分たちの計画に協力すれば、婚約も認め、官職にも戻してやる』とルイスを説得したようです」


 アレックスは、セルジュの話を聞きながら目を伏せてため息をついた。そして、悔やんだ表情になると、自問するように呟いた。


「謹慎について、騎士団内での周知を遅らせなければ、ルイスがそんな話に乗ることも、エリーがこんなことに巻き込まれることもなかったのだろうか」


 セルジュはアレックスの言葉にすぐさま答えた。


「周知をしていたら、それはそれで問題が起こっていたかと思います。再編の話が出てから、第一と第四からは不満の声が出ていました。そこへ、第四所属であるルイスの謹慎が公になったら、さらに荒れていたかと」


「そうだな」


 エリーはアレックスとセルジュの話を聞きながら、王妃の話を思い出していた。


(騎士団の話をされていた時の王妃様は、硬い表情をされていたわ......)


 考え込むエリー。その隣では、アレックスが表情を切り替え、メルフィス侯爵令息についてセルジュに訊ねていた。

 セルジュはエリーをちらっと見ると、アレックスに視線を戻し、ローラン・メルフィスについて話し出した。


「メルフィス侯爵令息は、以前からシャロン伯爵令嬢に好意を持っていたそうです。植物園で何度かお会いしたと申しておりましたが......、言っていることが支離滅裂で、どこまで真実なのかわかりません。今回、メナール公爵令嬢が用意した睡眠薬をシャロン伯爵令嬢に飲ませ、ベッドに運んで——」


 アレックスは歯嚙みをすると、セルジュの話を遮った。


「セルジュ、後は大丈夫だ」


 エリーはアレックスの手を握り、安心させるように話しかけた。


「私は大丈夫よ」


「俺がいやなんだっ」


 エリーは、ぽかんとした表情になると、アレックスの顔を見つめた。


「アレックスが『俺』って言うの...、初めて聞いたわ」


 アレックスは気まずそうに顔をそらすと、視線だけをセルジュに向けた。

 セルジュはアレックスに微笑むと、「後は執務室で」と言いながら部屋を退出した。



 部屋に二人きりになると、アレックスはエリーの手を握りながら呟いた。

 

「エリーは…強いんだね」


 エリーは目を瞬くと、肩をすぼめてクスッと笑った。


「そうよ。私、強いのよ」


(愛する人と一緒にいるためなら、いくらでも強くなるわ)


 アレックスは目を細めると、すぐさまエリーを抱きしめた。


「頼もしいな」


「そうよ。だから、いつでも私を頼ってね」


 アレックスはエリーの肩に顎を乗せたまま静かに頷いた。



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