表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

31 婚約発表


 いつもとは違う昼下がり——


 王宮の大広間では、盛大な舞踏会が開かれていた。優しい色合いの花々が会場を彩り、心安らぐ穏やかな空間が広がっている。大きく縦長の窓は開け放たれ、風と共に光が差し込み、とても清々しい。


 貴族たちは、王太子即位の式典に参列した後、舞踏会の会場に足を踏み入れると驚きの声を上げた。


 たいてい夜に催される舞踏会が、昼間に行われる。しかも会場を見渡せば、重厚な扉が開かれ、大きな窓は開け放たれている。


 いつもとは違う演出に戸惑い、眉をひそめる貴族たちがいる一方で、開放的な空間に口角を上げる貴族も多く見られる。その中でも、王妃と同年代の夫人たちは皆、頬を緩ませている。これらは開け放たれた王宮を望む王妃の演出のようだ。


 貴族たちが場の雰囲気にも慣れてきた頃、奥に控えていた楽団から、格式高い音色が響き渡った。会場が静けさを取り戻すと、貴族たちの視線は玉座の間に向けられた。


 するとそこに、陛下と王妃の二人が静かに姿を現した。陛下が療養されていることは、王宮関係者だけではなく、全貴族にも周知はされている。そんな中での登場に、会場にいる者たちは驚きの表情を浮かべた。そして、驚きながらも一斉に跪き、深く頭を下げた。


 貴族たちが頭を下げる中、陛下と王妃が玉座に座ると、その気配から広間には安堵の空気が広がった。やがて、二人が着座するのを確認すると、楽団の演奏が軽やかなものへと変わった。貴族たちは新たな予兆を感じ取ったのか、すぐさま正面入り口に顔を向けた。


 楽団の調べが会場内に響く中、入口に控えていた侍従が前に進み出ると口を開いた。


「アレックス王太子殿下、そしてシャロン伯爵家のご令嬢、エリー様のご入場です」


 

 貴族たちの視線が集まる中、アレックスとエリーは歩みを進めた。

 アレックスは深い紺色の正装に身を包み、その胸元にはエリーが刺繍を施した白いハンカチーフが挿してある。

 そして、アレックスの隣には、純白のドレスを着たエリーが寄り添っている。ドレスは、光沢を抑えたシルクに白い絹糸で繊細な花の模様が施され、光に照らされた刺繍の花は、美しく浮かび上がっている。


 二人が広間の中央まで進む間、貴族たちの囁く声が聞こえてきた。


「舞踏会では見かけたことがないな」

「ローレン公爵家で侍女をしていたそうだ」

「侍女? まだ発表前だが......侍女か...」


「お綺麗な方ね」

「ええ、そうね。侍女だと聞いていたけれど、所作も美しいわよね?」


「確か、公爵令嬢と侯爵令嬢の二人が婚約者候補ではなかったか?」

「そんな話もあったけど、正式な発表はなかったわ。でも高位のご令嬢たちを差し置いて、伯爵家のご令嬢ってどうなのかしら」


(私が伯爵令嬢で侍女だということが気になるのね。事実だから仕方がないけど、私のことでアレックスの評価が下がるのはいやだわ......)


 アレックスは、隣を歩くエリーに気遣いの言葉をかける。


「エリー、大丈夫?」

「心配しないで。私は気にしてないわ」


 エリーはそんなアレックスを安心させるように微笑みながら囁いた。アレックスは心配しているようだが、エリーは周囲の批判や噂話は気にしてはいないようだ。


 アレックスは目を細めると、エスコートするエリーの手に自分の指を優しく添えた。エリーはその仕草が嬉しくて微笑み、アレックスも穏やかに微笑み返す。そんな二人のやり取りを見ているご令嬢たちからは、黄色い声が聞こえてきた。


 広間の中央まで進み、アレックスとエリーは静かに足を止める。すると、陛下はゆっくりと玉座から立ち上がり、前へと進むと貴族たちに語りかけた。


「この佳き日に、皆のものと一堂に会することができ、大変嬉しく思う。皆の変わらぬ尽力に、心より感謝申す」


 陛下は言葉を区切ると、アレックスとエリーに視線を向け、口を開いた。


「そして、この場を借りて、皆に紹介したい者がおる。我が息子、アレックスの婚約者となる、シャロン伯爵家のエリー嬢だ。今後、王室の一員として共に歩むこととなる。急な予定ではあるが、結婚式は半年後に決定した。まだまだ未熟な二人だが、どうか温かく見守ってもらいたい」


 貴族たちは結婚式の日取りを聞いて、一瞬眉を顰めるが、陛下の顔色を見ると口を噤んだ。


 陛下の言葉が終わるや否や、貴族たちからは一斉に拍手が起こった。アレックスとエリーは、陛下と王妃の隣に行くと、貴族たちへ深々と頭を下げる。


 貴族たちへの挨拶が終わると、王妃が顔色の悪い陛下を連れて、玉座の間に続く控室へ向かった。王妃が止める中、陛下は無理をして出席したそうだ。


 アレックスとエリーはそんな二人を見送ると、貴族たちに歩み寄り、祝福の言葉を受けながら歓談を始めた。


お読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ