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29 懐かしい場所


 試験時間が読めないため、エリーはマヤに休憩をさせると、一人で廊下を歩いていた。学院長室の前に来ると、エリーは深呼吸をして真剣な表情でドアをノックした。中から人の歩く気配がし、ドアが開かれた。


「いらっしゃい、待っていたわ」

「学院長先生、ご無沙汰しております」


 部屋の中から出てきた学院長は、エリーがお辞儀をすると、「さあ、入って」と言いながら部屋へ促した。エリーは学院長に勧められるままソファーに腰掛けると、口を開いた。


「この度はお時間をいただき、本当にありがとうございます」


 学院長は心配そうな顔つきでエリーを見ている。


「それはいいのよ。それよりも、王妃様やローレン公爵令嬢から連絡がきて、事情は聞いたわ。...無理はしていない?」


 一瞬、返答に迷ったエリーは、学院長を見つめると、迷いなく「はい」と答えた。


「そう。それから、これは確認なんだけど、淑女科の卒業資格を与えると、侍女科の卒業は取り消しになるの。それは納得している?」


「——はい」


「そう、それが聞けて安心したわ。それなら、この書類にサインをしてもらえるかしら?」


 エリーは返事をすると書類を確認した。その内容を読み進めると戸惑いの表情を浮かべながら学院長に問いかけた。


「学院長先生、この書類にサインをする前に、私は試験を受けるのではないのですか?」


「今回、先生方にも確認をしたのだけど、試験は必要ないそうよ。エリーさんから提出された課題は、先生方も高く評価していらっしゃったわ。あれで十分だそうよ」



 学院長の言葉を聞いたエリーは、試験を待つ間の張り詰めていた気持ちが少しだけ緩んだようだ。

 

「あり...がとうございます」

 

「試験と聞いて、緊張していたわよね。どうしても確認したいことがあって...大切なことを伝えるのを忘れていたわ。ごめんなさい」


 「いえ」と答えるエリーを見ながら、学院長はふっと微笑んだ。


「あなたは、よく図書室で熱心に勉強していたわよね。その頃から、先生方も感心していたのよ」


「ありがとうございます。よく図書室に籠っていたこと、ご存じだったんですね。勉強というより、薬草について調べていたんです」


 学院長は口元に笑みを浮かべると、目を細めた。


「ええ、知っているわ。その知識を修道院でも活かしてくれてたでしょう? ほら、あれ見て」


 学院長はドアのそばにある棚に視線を向けた。エリーもつられて、そちらに目を向けた。


「ローズマリー、清々しい香りがすると思ったら...」


「修道院長からおすそ分けしてもらったの。忙しいだろうけど、時間がある時にでも行ってもらえたら、修道院長も喜ぶわ」


「はい。伺います」


「ありがとう」


 二人はソファーから立ち上がり近づくと、抱きしめ合い別れの挨拶をした。


「困ったことがあったら頼ってね。一人で抱え込んでは駄目よ」

「——はい」


 エリーは学院長に見送られながら校内を出た。外に出ると、休憩中のマヤを探す。まだまだ時間がかかることを予想して、敷地内を見て回っているのかもしれない。そんなことを考えながら歩いていると、庭で探し人のマヤと、ここに居るはずのないクレアを見つけた。驚いたエリーは二人の元へ急いで向かった。


「マヤ、探したわ。それに、クレアは何故ここにいるの?」

「エリーお嬢様、お疲れ様でございました」


 エリーはマヤに、「ありがとう」と答えるとクレアを見た。


「エリー、早かったわね。進捗を聞きに来たのよ」

「進捗? ああ、王妃様ね。無事に、淑女科の卒業資格をもらえたわ」

「それは良かったわ。王妃様も安心なされる。......心配しないで、舞踏会が終わるまでは、それ以上のことは口にしないわ」


 クレアは頷くエリーを見ると、「この後、予定がなければ、ミアに会いにいかない?」と問いかけた。


「今から商会に行くの?」

「違うわ。修道院よ」

「——ミアが修道院にいるの? 行きたい、会いたいわ!」


  

 それから三人は、一台の馬車に乗ると修道院へ向かった。後ろにはクレアの乗ってきた馬車が連なって進んでいる。


 修道院に到着すると、修道院長が三人を出迎えた。


「修道院長様、ご無沙汰しております」

「久しぶりね。会えて嬉しいわ。元気そうで良かった」


 修道院長はエリーの手を取ると、嬉しそうに微笑んだ。


「ゆっくりお話したいけど、今日はお仲間が来ているわよ。久しぶりに、ゆっくりお話ししていらっしゃい」


「ありがとうございます。後でお部屋に伺ってもいいですか?」

「ええ、待ってるわ」


 修道院長と話し終えたエリーは、後ろを振り返った。すると、メイドのマヤが周りをきょろきろと見渡している。


「マヤは修道院へ来るの初めてよね?」

「はい」


 その会話を聞いていた修道院長が、マヤに声を掛けた。


「それなら、私が案内しましょう」

「いいんですか!?」


 マヤの喜ぶ姿を見たエリーは、修道院長にお願いすることにしたようだ。そして、エリーとクレアはミアが作業している医務室前に向かった。



「ミア?」


 ミアは、二人に背を向けるように座り込み、薬草の周りに生えた雑草を抜いている。しかし、自分を呼ぶ声に気づくと後ろを振り返った。


「っ! エリー? うそっ、どうしたの!? いつ領地から帰ってきたのよ〜」


「連絡できなくてごめんね、ミア。会えて嬉しい」


「もう、早く連絡くれれば会いに行ったのに〜!」


「うん…。......うっ...ごめん、嬉しいんだけど、少し感傷的になっちゃった......私、淑女科卒になったの」


 唇を固く閉じ、涙を堪えるエリーをクレアとミアが抱きしめた。


「もう、エリーはなんでも溜め込みすぎよ。でも、同じ女学院を卒業したことには変わりないんだし、そんなに悲しむことはないわよ」


「でも、私、その気持ちわかるな〜。だって、四人で過ごした時間は本当に楽しかったし、皆で侍女科を卒業したときに約束したじゃない」

 

「それは、そうだけど......ねえ、今の話、あの時の約束と関係あるの? 何かあったら皆で集まるっていうあれよね?」


「関係は…ないかもだけど…ほら、ルイーズだって、今日三人で会ったことを後で知ったら、また子犬みたいな顔になるよ、絶対」


 エリーはミアの物言いが可笑しくて笑みを零した。


「ふふっ、そうね。可愛いけど...ふふっ。ここで二人と話したら、何だか懐かしくて、気が緩んでしまったわ」


「そうだよね~。いつも四人でここへ来て、作業してたもんね~」


「そうね」


 それから三人は、久しぶりの作業に没頭した。


「あ~、やっぱり、頭を使った後は、土いじりよね~」

「ふふっ、そうね。午前中は仕事だったの?」


「そうよ。数日前にエリーのお母様からご連絡をいただいたの。お店にとっても有り難いし、エリーのドレスをデザインできるなんてすごく嬉しい!」


「えっ、ミアがドレスを作ってくれるの? 知らなかったわ」


「そうよ。後で採寸にも行くからね!」


「分かったわ。でも、なんだか感慨深いわ。ランチのときに話していたわよね。弟さんが商会を継ぐまでは、お手伝いをしたいって。それが叶ったのね」


「うん。——私、女学院に入学するまでは、親から認めてほしくて必死だったんだ。商会を継げなくなったことが、自分の居場所を奪われたように感じてさ。だから、いつも自分にできることを探して...でも、そういう気持ちで動いてるときって何も見つからないんだよね。でも、女学院に入学してからは毎日楽しいし、このままでもいいかなって思ってたんだ。でも、エリーにくっついて図書室に行くと、いつも私に本を薦めてくれたでしょ?」


「そうね。調べものをしている時に、ミアが好きそうな本を見つけると、こっそり棚に並べておいたの。それを順番に渡してたわね」


「そうそう。それがどれも私好みでさ〜。それから洋裁と刺繍を頑張るようになったんだよね」


 二人の話を聞いていたクレアは、何かを思い出したような表情になった。


「そういえば、自習のときはいつも洋裁か刺繍をしていたわね」


「うん。あの頃は無意識だったけど、楽しかったからね。——だから楽しみにしててね。私のこれまでの集大成を見せるわ!」


「うん。楽しみにしてるわ」


「集大成と呼ぶには、まだ早い気がするわね」


「もう、クレアは...こういうのは気持ちが大事なのよっ」


 三人はその後も作業をしながらゆっくり会話を楽しんだ。


感想をくださった方へ

昨日は感想をいただき本当にありがとうございました。

朝からドキドキしながら読ませていただきました。すぐに返信させていただいたのですが、後ほど感想欄を確認したところ、せっかく書いていただいた感想が、表示されなくなってしまいました。申し訳ありません。(操作に不慣れですみません)初めての感想で嬉しい内容に浮かれ過ぎました...。


この場を借りて、改めて感謝の気持ちを。

温かい応援のお言葉、ありがとうございます!とても励みになりました。

ここではお名前を控えますが、作品をじっくり読ませていただくのを楽しみにしています! 


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