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28 家族会議


 屋敷に静けさが戻った頃——


 普段にはない静けさの中で家族五人が食事をしていた。その中で、次女のエマだけが、視線を動かし、口をわずかに開閉しながら皆の様子を窺っている。


 そんな中、食事が終わると父親のロイドからサロンへ移動するように声がかかった。

 サロンでは、執事のユーゴがお茶を淹れ終えるとロイドの後ろに控えた。そのタイミングでロイドがエリーに恐る恐る話しかけた。


「エリー、エリーは婚約はしないって言っていたよな?」

「......はい」


 ロイドの縋るような眼差しを受けたエリーは、戸惑いながらも返事をした。


「そうよね! エリーはずっと私たちと一緒に暮らすわよね?」

「......いいえ。それはできないわ」


 エリーから否定の言葉を言われたエマはショックな顔になると、右手で胸を押さえた。するとそれを見ていたロイドが、その後を引き継ぐように同じような質問をした。


「城で暮らすようになったら、なかなか家には帰ってこれないんだぞ?」

「分かっているわ」

「っ! エリーは領地が好きだろう? その領地で過ごすことだって難しくなるんだぞっ。それに...王都では畑仕事だってできないんだぞ!」

「それも分かっているわ。領地も畑仕事も好きだし、ラベンダー畑はずっと守っていきたい場所よ。でも、これからあの場所を守っていくのは、お父様とお母様、それからエマちゃんだわ」

「............」


 ロイドは最もなことを言われて口をつぐんでしまった。すると、その様子を見ていた不満顔のエマが口を開いた。


「お祖母様にも、なかなか会えなくなるわよ? そんなの、寂しいじゃない」


 エリーは少し目を伏せるが、上を向くとエマに視線を向けた。


「そうね。会いに行くのは難しくなるわ。でも、お祖母様はきっと、『後悔のないようにやりなさい』って言ってくれると思うの」


 すると、それまで三人の会話を聞いていたテレーズが口を挟んだ。


「そうよね。お義母様ならきっと、そう言ってくださるわ。——あなたもエマも、もう目を逸らすのはやめて、いいかげん向き合いませんか?」


 テレーズの言葉に耳を傾けていたエマが本音を漏らした。


「だって、私たちのエリーが......あんな魔窟で生活するなんて危険じゃない!」


 そんなエマの様子を見ていたエルの口からふと言葉がこぼれた。


「愛する人の傍にいられるんだもの、エリーだって覚悟の上だわ」


 エマはその言葉に目を見開くと、「はぁ~!?」と令嬢らしからぬ声を出した。


「愛する人って! そもそも、エリーと殿下が想い合っていたなんて、私は知らなかったわ! なんでエルちゃんは知っているのよ!」


「エマ、落ち着いて。エリーは幼い頃から殿下と文通をして愛を育んでいたのよ。近くにいれば気づくでしょう?」


 エリーは姉二人が語る自分の恋愛話を聞くと、恥ずかしさで顔を真っ赤に染め上げた。両親に目を向ければ、両手で顔を覆うロイドと、うっとりとした顔で微笑むテレーズ。エリーは居た堪れなくなったのか口を開いた。


「お父様、お母様、エルちゃん、エマちゃん。私は、アレックス殿下の隣に並べるよう頑張ります。どうかご協力をお願いします」


 テレーズとエルは、赤い顔でお辞儀をするエリーに「もちろんよ!」と答えた。そんな二人から、鋭い視線を向けられたロイドとエマは、諦めを含んだ表情で頷いた。



 ♢



 それから三日後の朝——


 エリーはミアを連れて女学院に向かっていた。王妃との約束どおり、淑女科の卒業資格を取るために試験を受けにいくようだ。王妃が学院長と話を進めてくれ、それがすぐに現実になったようだ。


「ミア、今日は付き添ってくれてありがとう」


「とんでもございません。憧れの女学院に行けるなんて嬉しいです」


「ミアは、お祖母様のところでステラから直接指導を受けたのよね?」


「はい。今も勉強中の身です」


「ミアは技術も素質も優れているし、ステラの指導も良いのね」


「ありがとうございます! 侍女長に指導を受けることができて幸せです。でも女学院を一度は見てみたいと思っていたんです」


「そう」


 エリーは頷くと、それから他愛もない会話を楽しんだ。


 そんな中、エリーはふと窓の外に目をやった。そこには、護衛のポールが並走している。

 シャロン家に到着した日、エリーはエルに疑問に思ったことを聞いてみた。ポールは王都で騎士をしているそうだが、何故シャロン家の領地にいたのか、と。


 その時エルにはぐらかされたが、三日前にその理由を教えてくれた。領地に帰るエリーを心配したアレックスが、自分が信頼する護衛のポールをエリーにつけたそうだ。ポールはシャロン家の領地に隣接するガルニエ子爵家出身で、南部の地理に詳しい。

 エリーは、そんな理由で駆り出されたポールに、申し訳なく思いながらも、その胸はじんわりとした。


 そんなことを思い出している間に、女学院が馬車の窓から見えてきた。エリーの対面に座るミアは、目を輝かせながら遠くに見える女学院を見ている。


「はぁ~、素敵ですね~」

「ふふっ、私もそう思う。学生時代は毎日見ていたけど、飽きることのない風景だったわ」


 ミアは頷きながらも、目線はずっと学院を捉えていた。


 そうこうしている間に馬車は門を潜り抜け、エントランスに着いた。エリーは馬車から降りると慣れた足取りで校内に入っていく。そして、そのまま学院長室に向かった。



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