26 婚約
しばらくすると、アレックスはエリーに抱きしめられたまま、その耳元で囁いた。
「エリー、僕と結婚して」
エリーは静かに身を引き、腕を解くと、その顔に驚きの表情を浮かべながらアレックスに向かって問いかけた。
「私たち、結婚できるのかしら?」
「できるよ。エリー、返事は?」
「はい。よろしくお願いします」
二人が感動の余韻に浸っていると、キースが振り向き言葉を放った。
「二人とも、俺がいることを忘れてないか? それにエリー、そんな重要なこと、簡単に返事をすべきじゃない」
(伯爵令嬢の私が王妃になるなんて、分不相応だって分かってる。家族だけでなく、王宮の上層部に認めてもらうのも…難しいかもしれない。二人だけの問題じゃないものね)
「……はい。でも、もし反対されることになっても、私の気持ちは変わりません。できる限りのことして認めてもらいたいと思っています」
エリーは、近いうちに義兄となるキースの言葉を聞いて、表情を引き締めた。一方、エリーの言葉を聞いたアレックスは表情を緩めた。
「キース、そんなこと言って、後でエリーに振られたらどうしてくれる」
「お前、浮かれるのもいい加減にしろよ。この先、やることがたくさん控えてる。皆も協力してるんだ。二人とも、気を引き締めろよ」
(皆も…協力…してる?)
「キース様、皆も協力とは、どういうことですか?」
「エリザベスから、淑女科の卒業資格を取るように言われなかったか? エリザベスはこうなることを見越して、エリーに言ったと思うぞ」
「リザちゃん……」
「それに、ローレン公爵家はエリーを養子として迎え入れる準備もできているそうだ。しかし、それをエリーが望まないかもしれないからと、公爵は王宮の上層部に掛け合うつもりでいるようだ」
「叔父様……」
エリーは自分の知らぬところで協力してくれていたことを知り、ローレン公爵とエリザベスに感謝した。
しかし、しばらくすると、首をかしげるような表情になった。
「あの、キース様。何故、叔父様とリザちゃんは協力してくれるのでしょうか?」
キースはエリーの問いかけに「何故とは?」と返すと首をかしげた。
「……もしかして、二人は私の想いを知っているんですか?」
「皆、知っていると思うが…」
エリーは青ざめた顔になると、「皆、知ってる…」と呟いた。
会話を聞いていたアレックスは、キースの名を呼ぶと、目を細めた。そして隣に座るエリーに声をかけた。
「手紙のやり取りをしていたから、近しい者は知っていると思うよ」
「そうですよね。失礼いたしました」
アレックスは未だに動揺した様子のエリーに言葉をかける。その近くでは、キースが胸元から懐中時計を取り出し時間を確認している。
「二人とも、そろそろ王妃様のところへ行こう。きっと心配なされている」
「そうだな」
アレックスが答えるとエリーも頷き、ソファーから立ち上がった。
♢
王妃の部屋へ着くと、三人は王妃とテレーズに迎え入れられた。
「遅かったわね。待ちかねたわ」
「母上」
「その様子だと、受け入れてもらえたのね」
「はい。母上もご存じでしたか」
キースの言う通り、近しい者たちは二人の想いに気づいていたようだ。
王妃の隣にいたテレーズは、エリーに近づくと「想いを伝えることができたようね」と言いながら微笑んだ。
エリーはぎこちなく微笑むと、「お母様も知っていたのね」と密かに伝えた。
その近くでは、王妃がセバスチャンを呼び、直ちに話し合いができるように準備させていた。
「皆、いいかしら。話しておきたいことがあるの。そちらに座ってくださる」
他の者たちはその掛け声に答えると席に座った。その様子を見ると、王妃は小さく頷き、腰を下ろした。
「まずは、エリー。アレックスの求婚に応えてくれてありがとう。不安もあるだろうけど、私も皆も、全力で二人を応援するわ。だから心配しないでね」
「婚約をお認めいただき、ありがとうございます。私も、アレックス殿下をお支えできるように全力を尽くします」
王妃はエリーを見て微笑むと、隣の座るアレックスを見つめた。
「アレックス、あなたは私に似ているわ。自分に嘘はつけない。母として貴方には自分自身に誠実でいてほしいと願っていたの。だから、今とても嬉しいの。ありがとう」
「母上、ありがとうございます。幼い自分は、あなたを守ることができなかった。申し訳ございませんでした」
「そんなことはないわ。あなたの存在だけが私の希望だった。こうしてあなたの幸せを見届けることができるなんて、本当に幸せだわ」
王妃は目を潤ませると、「皆、ごめんなさいね」と言いながら背筋を伸ばした。
それから王妃が皆に語ったのは、いくつかの懸念事項と計画だった。




