25 真実
「アレックス?」
「ごめん......少しだけ...待って」
エリーは上体を起こすとアレックスから離れた。アレックスは一瞬寂し気な表情を見せたが、ほっとしたように軽く息を吐くと、片手で顔を押さえた。
「エリー、他の人間にこんなことをしてはいけないよ」
「しないわ。今のは...特別なの。それに、私はもう子供じゃないわ」
「そうだね。今、思い知らされたよ」
アレックスは落ち着きを取り戻すと、隣に座るエリーと視線を交わした。
「さっきも言ったけど、これまで会いに行けなくてごめんね。二人で会っていることが王族関係者や一部の貴族に知られたら、エリーが危険に晒される思ったんだ。それに、城内は危険だし、近寄らせたくなかった。でも、あんな場面を見て誤解させるぐらいなら、きちんと伝えておくべきだった」
エリーは頷くと、アレックスの目を見てその先を促した。
「愛してる。僕が欲しいのは......エリーだけなんだ。これからは何があっても僕を信じてほしい」
「……うん」
エリーは恍惚とした表情で頷いた。アレックスはそんなエリーを愛しげに見つめると、軽く口づけを落とし、エリーを強く抱きしめた。すると、それまでとは一転し、エリーが頬を染めて固まった。その様子を見ながら嬉しそうに微笑むアレックス。二人の間には幸せな空気が流れていた。
しばらくすると、ノックと同時に執務室にキースが入ってきた。部屋に片足を踏み入れた瞬間、眉をひそめ動きを止めた。
「これは...どういう状況だ? アレックス、エリー?」
「......秘密です」
「ふっ、エリーに話すことがあって来てもらったんだ」
キースの問いかけに対し、エリーは目線を合わせず答え、アレックスは悪びれる様子もなく返答した。二人のそんな態度にキースは溜め息をついた。
「全てが解決するまでは油断するなよ。それで、その話とやらは終わったのか?」
「いや、これからだ」
アレックスはキースに答えると、エリーの方に向き直った。
「話しておきたいことがいくつかあるんだ」
エリーはアレックスの真剣な眼差しを受けると深く頷いた。
キースは壁にもたれ、静かにそんな二人を見守っている。
「まず、エリーが目にしたあの場面だけど、一緒にいた女性はロードリアス王国の王女で、幼い頃に引き合わされた幼馴染というだけの関係なんだ。王女は兄の王太子から、僕と婚約するようにと言われたそうだ。だけど、自分には愛する恋人がいるから婚約の話はなかったことにしてほしいと言われた。そんな話、こちらからはしていなかったのにね……。恐らくエリーは、彼女が興奮して泣き叫んでいたところを見てしまったのかな?」
無言で頷くエリーを見ると、アレックスは話を続けた。
「その後、王太子を交えて穏便に話を進めてお帰りいただいたから、エリーは何も心配はしないで。もちろん、僕が王女と婚約することはないよ」
その時、二人を見ていたキースが口を挟んだ。
「どこが穏便なんだ。あの時のお前は恐ろしかったぞ」
アレックスはキースに責めるような視線を向けた。しかしエリーは、そんなアレックスを心配そうな眼差しで見つめた。
「ご無理をされたのですか? お願いします。本当のことを教えてください」
アレックスは口を閉じて黙り込んだが、しばらくするとエリーに頷き話し始めた。
「あの舞踏会の後、側妃を幽閉したんだ。公式には病気ということになっているが、実のところは王族への偽装行為だ」
「偽装? 何を偽装されていたのですか?」
「第二王子は、側妃が隣国から連れてきた騎士との間にできた子供だった」
「…………」
「もし、ロードリアスが友好国でなければ、公式にその事実を発表したんだけどね」
「…………」
「それから、エリーが幼い頃に見つけてくれた有毒植物だけど、側妃が侍女に指示を出して王妃にその毒を盛っていたことが明らかになった……それだけじゃない…陛下にも…薬を盛っていたそうだ」
会話の後半から、アレックスの様子がおかしいことに気づいたエリーは、アレックスを抱きしめた。
(今は、それ以上話さないで……)
「私が聞いていい話ではないのに、無理に聞き出すような真似をしてごめんなさい」
エリーは「心配しないで」と囁くアレックスを優しく抱きしめ静かに寄り添った。
そんな二人に背を向けたキースは、窓から外の景色を眺めていた。




