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18 王都へ向けて


 王都へ出発する日の早朝


 エリーはナタリーの部屋の前に着くと、そっとドア開けた。


「エリー? 起きてるわよ。入って」

「ごめんなさい。起こしてしまったかしら?」

「起きていたから大丈夫よ」


 エリーは軽く頷きナタリーのいるベッドの傍によると、「そろそろ出発するわ」と囁くように伝えた。


「そう、もう行くのね」


 ナタリーはベッドから起き上がり、隣に立つエリーの手を取ると、両手で握りしめた。

「お祖母様、私が帰ってくるまで無理はしないでね」

「フフッ...私のことは心配しないで。畑の方も落ち着いてるし、ゆっくりさせてもらうわ」


 エリーはナタリーの手を擦りながら「そうね」と呟いた。


 ナタリーは「気をつけて行ってきてね」と言いながら、頷くエリーと目を合わせるとじっと見つめた。


「エリー、自分の気持ちを大切にね」


 目を見開き一瞬戸惑いを見せるエリーに、ナタリーはなおも続けた。


「エリーなら大丈夫。自分の気持ちを全部ぶつけてきなさい」


 ナタリーはエリーを引き寄せ自分の胸に抱きしめると、その小さな震える背中を何度も優しく擦った。


 しばらくすると、エリーは顔を上げて「ありがとう」と言いながら小さく微笑んだ。


 ♢


 ナタリーの部屋を出たエリーが玄関前に向かうと、広いエントランスには二台の馬車と10名の騎士が待機していた。


 エリーの姿を確認したステラが、「エリーお嬢様」と声をかけながら側までくると荷物を受け取った。


「大奥様とお話はできましたか?」

「ええ、出発前に話ができて良かったわ」

「そうですか。それならばよろしかったです」


 そこへ、騎士の一人に一礼をしたトーマスと、献上品を乗せた馬車を確認し終えたマヤがエリーのもとへ歩いてきた。エリーの前にトーマスが立つと、その隣にはステラが並んだ。


「エリーお嬢様、道中お気をつけて。ご無事でお帰りになることを祈っております」

「お役目が滞りなく進みますよう祈っております。どうかお気をつけて」


 トーマスとステラを見るエリー。


「ありがとう。お役目、無事に果たせるように頑張ります。二人とも、お祖母様のことを、よろしくお願いします」

「はい」「お任せください」


 三人は顔を見合わせると深く頷いた。すると、その光景を見ていたマヤがエリーに声をかけた。


「エリーお嬢様、そろそろ行きましょう」


 エリーはマヤを見ると「そうね」と答えた。


 ステラは少し浮き足立って見えるマヤを不安げに見つめた。


「マヤ、エリーお嬢様のこと、くれぐれも頼みましたよ。何かあったらすぐに護衛の騎士様に伝えるのですよ」

「分かってます! 任せてください!」



 エリーはマヤと共に馬車に乗り込むと、トーマスとステラに手を振った。


 馬車が走り出すと、エリーは車内から見えるラベンダー畑に視線を向けた。


 ラベンダーの収穫後は、空が一層広がって見える。エリーはこの光景を見るたびに、心静かに、何か新しいことが始まるような予感めいた何かを感じるようだ。


 マヤは、穏やかな表情で外の景色を眺めるエリーに話しかけた。


「収穫後の畑も良いですよね」


 エリーは軽く微笑みながら振り返ると、マヤを見ながら頷いた。


「うん。なんだか、心の中もまっさらになるような気がするの」


 マヤも軽く頷くと、馬車の窓を開けた。そして、エリーと一緒に辺りに漂うラベンダーの残り香を楽しんだ。



 馬車の旅も中盤を過ぎた頃、エリーとマヤの距離はさらに近づいたようだ。お互いについて語り合う場面も多く見られる。


「マヤには婚約者がいるのね。ごめんなさい、知らなかったわ。今回は領地を長期間離れるけど、お相手の方は許してくれたの?」

「それが......王都に行くことは話してないんです」

「——話してない?」

「実は、婚約者は王都にいるんです」

「もしかして......王都へ行きたがっていたのは、その方に会うため?」

「はい」


 エリーは「そうなの...」と呟きながら、マヤに尋ねた。


「それなら、会いたいわよね。どうにかして会えないかしら」

「多分、忙しくしてて会えないと思います。一目だけでもいいから見られたら嬉しいとは思ってたんですけどね。だからいいんです。今回、護衛をしている方の中に彼の身内がいるんです。だから、もし彼に会えなくても、手紙を渡していただけたらと思っています。その護衛の方も、王都で騎士をされているんですよ」

「そう......」


(王都で騎士? シャロン家の騎士ではない方がいるの?)


考え込んだエリーに、マヤが違う話を振ってきた。


「エリーお嬢様、外を見てください。すごい人ですね。今日はここに宿泊するのかな?」


 マヤは、窓から見える街の賑わいを見てはしゃいでいる。そんな彼女の喜んだ表情を見て、エリーは思わず微笑んだ。


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