17 タペストリー
良く晴れた日の午後。
薬草園での作業を終えたエリーは、ナタリーの部屋でタペストリーに刺繍を入れていた。その両隣では、ステラとマヤが時折エリーの顔を覗き見ている。
いつもは賑やかなマヤも、今日はやけに静かだ。その静けさに耐えかねたように、マヤが小さく「エリーお嬢様」と声をかけた。
「大丈夫ですか? もしかして、お疲れですか?」
エリーは驚いたように顔を上げた。
「——マヤ。違うの、疲れてるわけじゃないわ。少し、考え事をしていただけよ」
マヤはエリーに「本当ですか?」と聞きながら不安げなまなざしを向けた。
エリーの正面に座るナタリーは、そんな二人を交互に見ると、おもむろに口を開いた。
「マヤ、王都でもエリーのことよろしくね」
マヤから「はい、もちろんです!」と笑顔を向けられたナタリーは、安心したように微笑むと、今度はエリーに意識を向けた。
「エマに手紙は書いたの?」
話を向けられたエリーはすぐに頷いた。
「昨日、お祖母様から話を聞いた後に部屋に戻ってすぐに書いたわ。でも、返事がくるのは私が王都にいる頃かしら」
「そうね。でも、王都の屋敷に戻れば、ここよりも詳しいことがわかるんじゃないかしら」
エリーが静かに頷くと、ナタリーは会話を続けた。
「昨日の様子だと、エリーは本について知らなかったのよね。あの子のことだから、エリーの気持ちが知りたいとか、いらぬ心配をしてノートを見たと思うの。でも、どんな理由であれ、人のものを勝手に見るのは良くないわ。それは、私からもエマに話すわ」
そんなナタリーの話を聞いていたステラが話に加わった。
「大奥様から話される前に、エルお嬢様が注意なさるのではないでしょうか」
「そうねぇ、でも、エルにばかりそんな役目をさせたくないのよ。近くにいればすぐに言えるのに、何だかもどかしいわね」
「そうですね......」
エリーは、しみじみとする二人を安心させるように「大丈夫よ」と穏やかに伝えた。
「エマちゃんには私から話すわ。だから心配しないで」
エリーは、ゆっくりと頷く二人を見ると話を切り替えた。
「——それより、タペストリーを早く仕上げましょう」
マヤもしんみりとした空気を払うかのように、エリーの言葉に笑顔で頷いた。
♢
王都へ出発する三日前。
四人が毎日数時間かけて刺繍を入れたタペストリーがようやく完成した。
そのタペストリーは屋敷のホールに短時間だけ飾られることになった。
マヤが「すごいのが出来た」と触れ回ったため、急きょ使用人の皆にもお披露目されることになったようだ。
タペストリーを見た者達は、皆一様に息をのんだ。
しばらくすると、「素敵だわ......」「癒されるな」「素晴らしい色使いだ」と褒め称える声が聞こえてきた。
ナタリーとエリーは、毎日本物のラベンダーを目にしている者たちの言葉に苦笑いしながらも、安堵した。
「今回の収穫は、皆にも迷惑をかけてしまったわね。ごめんなさい。でも、皆が収穫してくれたラベンダーとこのタペストリーを、王妃様のもとへお届けすることが出来るわ。本当にありがとう」
皆にお礼を伝えるナタリーは、使用人達に囲まれ、腰を気遣う言葉をかけられている。
その光景を見ていたエリーは、隣にいるステラとトーマスにお礼を伝えた。二人はそんなエリーに微笑みながら頷き返した。
夜が更ける頃、
エリーは自分の部屋で荷造りをしていた。クローゼットにはここへ来たときに持ってきたトランクが一つ。そのトランクに、数枚のワンピースと宝物を詰め込んだ。
そして、ベッドに向かいサイドテーブルの引き出しから包みを取り出すと、ハンドバックの奥へと大切にしまった。




