期待
「前の部長さんが私のことを推薦してくれたんだ」
「へえ〜すご!やっぱり絵が上手いから?」
「そんなことないよw部長さんは周りをよく見てるからって言ってくれたかな」
以前の記憶を辿りながら応える。
筆を置いたのは不自然がられたけど、「もっと日置さんと話したいから」と言うと
照れたような笑顔を見せて色んなことを聞いてきた。
前の部長さんのこと、美術部の活動のこと、今までの作品のこと。
話すたび内容が広がっていく。それに比例するように
日置さんの興味も尽きることはなく、部員が片付けを始めるまでずっと話していた。
「話しすぎちゃった、作業止めてごめん、、」
「ううん、いっぱい話せて楽しかったしいいよ。それに私、進み一番早いから」
申し訳無さそうな日置さんに、そう言葉をかける。
実際、文化祭のポスターはあと少しで終わる。
でも、しなければいけないのはポスター制作だけではない。
部員全員の進み具合を把握したり、アドバイスをしたり、
部長としてやるべきことをすべて放棄してしまった。
良くない。無駄話でその時間をなくしたことは。
先生や部員は私に期待してくれている。
今日の行動は、信用を失ってしまうようなものではない。しかし
自分の印象、つまり親の印象を下げかねないものだった。
今日は先生がおらず、部活に来た生徒が多かったため目立たなかった。
先生や部員から注意を受けていたら、きっと今みたいにいつも通りの会話をすることができなかった。
家に招待したことを後悔した。
きっと私には悪影響だと親も言うだろう。
でも、
「許可取れたら、日にちとか連絡するね」
「うん、わかった!じゃあまたね~」
正門で別れて、今日のことを考える。
絵を描かない、勉強もしない、ただ話しているだけの時間。
少しだけ。ほんの少しだけ。
こんな時間が続いてほしいと思った。
「きっと、無駄なことなのに」
そう呟いた言葉は、誰にも聞こえず空に消えるだけだった。