怖い
母が食器を片付け始める。
父も席を離れようとしている。
今言わなきゃ、きっともう言えなくなる。
もう怖いを言い訳に引き延ばさない。
「あの、、お父さん」
緊張で声が掠れる。でももう引き返さない。
美久ちゃんと決めたことだから
「うん?どうした、凛」
「私______
__新しいキャンバスがほしいの」
いま、わたし、、なんて?
「__公募展に出す絵がうまくいかなくて、もう1枚描きたいの」
「そんなことか。いいぞ、いま部屋から持ってくるな」
「ありがとう、お父さん」
違うの
私はキャンバスなんて欲しくなのに
言えない、どうして、、?
「はい、これ。凛は熱心だな」
「ありがとう!だってお父さんのむすめだもん」
ああ、そっか。
まだ私、怖がってるんだ。
美久ちゃんに、ちゃんと伝えるなんて言ったくせに。
わたし、決心したつもりだったんだけどな、、笑
きっと美久ちゃん呆れちゃうな、こんな私を見てなんて思うかな?
わたしは心のなかで自嘲的に嗤った。
自室に戻ると急に視界が狭まり、床に座り込んだ。
体の調子が悪かったことなんてすっかり忘れていた。
"仮面"はそんなとこまで隠してしまうのか。
今、この部屋でも"仮面"が取れなくなったらどうなってしまうんだろう?
その光景を想像しようとするだけで、目眩がしそうだ。
というより、本当に目眩がした。
熱が上がり、世界が回っているような気さえした。
父から渡されたキャンバスをその場に置き、這いつくばりながらベッドへ向かう。
が、イーゼルにぶつかり描いた絵が落ちてきた。
『画材は粗末にしないこと』
記憶の中からそんな言葉が思い出される。
拾わなきゃ。さっき置いたキャンバスも持ってこないと。
、、いや、今は早く寝ないと。
でも、、。
私は重い体に鞭を打ち、2つのキャンバスを丁寧に壁に立てかけた。
朝放置していた絵の具、筆、パレットもいつもの位置に戻した。
習慣がつくのは恐ろしいことだと思った。
わたしはベッドに倒れ込みながら、そんなことを考えた。




