緊張
湯船に浸かりながら、話すことについて頭の中で整理する。
言葉に詰まってしまったら格好がつかないということもあるけど、やっぱり自分のことだからちゃんとわかってもらえるように話したい。
両親に褒めてほしかったからやっていたこと。
本当にやりたいことじゃなかったこと。
今までのこと全部、話す。
美久ちゃんのことも母が気にしていたから、関係をはっきりさせないといけない。
騙されているんじゃないかとか、言われないように。
何に対しても、曖昧だと納得してくれない。
ちゃんと両親の気に入る...
いや、気に入るものじゃなくていいんだ。
今一番大事にすべきことは、意見をしっかり伝えること。
お風呂から上がり、タオルで体を拭いていると玄関のほうから音がした。
父が帰ってきた。
同時に母が夕食を準備する声も聞こえた。
今日は一日で色んなことがあっていつもよりお腹が空いている。
話すのは、夕食を食べたあとにしようかな。
私はそう考えながら、着替えを済ませお風呂場を出た。
「おかえり、お父さん」
「ただいま」
父はスーツをハンガーに掛けながら言った。
今日はインタビューがあったため、いつもの簡単な服装ではなかった。
いつもと違う雰囲気に、何だか話しかけづらくなり、
私は「夕食の後、時間ある?」という言葉を発することができなかった。
父のスーツ姿なんて、何度も見たことがあるはずなのに。
お風呂で緊張を和らげたつもりだったけど、やっぱり目の前にすると話すのが怖くなる。
私は、まず夕食を食べてからにしようと思い、食事の並んだダイニングテーブル前の椅子に腰掛けた。
そして、私の前の席に母、その隣に父が座った。
「いただきます」
いつものように家族で声を揃えて挨拶をして、母の作ったカレーライスを食べ始めた。
緊張からか、いつもより味が薄く感じた。




