演じる
その後私は家へと帰ることにした。
美久ちゃんの家を出る前に、明日の放課後に色んなことを調べる約束を付けて。
もっと美久ちゃんと話したかったが、見つけた問題の解決の一歩として、一刻も早く両親と話をしたかった。
外は夕日で赤く染まっていた。
時計を確認しようとしたとき、18時を知らせるチャイムがちょうど鳴った。
私はまだ湿っているバッグを肩にかけなおし、水溜りのある道を歩き始めた。
家への足取りは、朝とは比べ物にならないほど軽かった。
体の不調も回復したようだ。
人に話すことで気持ちが楽になるという話を聞いたことがあったが、こんなに効果があると思わなかった。
いや、きっと美久ちゃんだからだろう。
他の人の過去はあまり聞いたことはないが、聞いても私の本心が見えたか分からない。
本当に感謝しかないな。
そんなことを考えながら歩いていると、私の家が見えてきた。
いつもの、見慣れた家なはずなのに、どこか違って見える。
異様な雰囲気を感じつつも、私は勇気を振り絞り家に入った。
「ただいま」
いつも通り、玄関先から声をかける。
今の時間なら母がいるはずだ。
「あら、お帰りなさい。...何かあったの?」
「部活がなくなったから友達と帰って来てたの、途中で夕立にあって濡れちゃった」
「なら早くお風呂に行きなさい、風邪引いちゃうわ」
「わかった」
「あとでお友達のこと、教えてちょうだいね」
私は頷き、お風呂に向かった。
母は私のことをよく見ている。
今の私の様子が違うこと、いつもと帰ってくる時間が違うこと、全部わかっている。
でもわかっているのは表面的なことだけ。
エスパーではないから、気持ちまではわかってくれない。
いつも言えないでいた。
それを今日、伝える。
でも父も揃ってからがいい。
だからそれまでは、"いつも通りの私"でいることにする。




