第97話 魂の英雄ポロネーゼ
私とマオは会場の外でニックを待っていた
暫くするとニックが外へ出てきてカイザー様も一緒だった
「これから夕食を食べに行くんだ。よかったら一緒に行こうよ。」
カイザー様が言う
「私達が居るとお邪魔になるのでは?」
「そんなことないよ。大歓迎さ。」
そう言って私とマオも一緒に連れて行ってくれた
「ここって…」
「そう。自由に弾けるストリートピアノがあるレストランだよ。」
「凄い素敵ですね。」
「一曲弾いてくれないか?」
「私がですか?」
「なんでもいいからさ。」
「何にしようかなー。」
レストラン内のたくさんの人達が聞いてくれるし、万人受けしような選曲にしよう
私はやさしさに包まれたらを弾き語りする
このメロディーラインと希望に満ちた歌詞が大好きだ
オーケストラの曲を聞いた後だからか
いつもよりピアノの音色が綺麗に響く
このピアノで
この歌声で
幸せな気持ちが届きますように
そう願いながら私は弾き語りをやり切った
「ブラボー!!!!」
レストラン内のお客さん達がみんなが拍手をしてくれた
私は少し照れながらお辞儀をしてピアノの席から立とうとすると
「もう一曲。」
「え?」
「もう一曲弾いてくれないかな。」
少し威圧するような感じでカイザー様が言う
「えっと…」
「次はクラシックが聞きたいな。」
「え…私そんなに上手く弾けないですけれど…。」
「シエルが一番練習したクラシックの曲を聞かせてよ。」
「えぇ…」
こんな大物の演奏家に聞かせるようなピアノじゃないのに
正直嫌だけれど
何となく強制的にやらされる雰囲気で断りにくい
一曲軽く弾く感じだったのに
そんな雰囲気だったよね!?
急にスイッチ入って師匠モードになってる
さすがはニックの師匠
圧が凄い
助けを求めようとニックのほうを見るが
全く助けてくれる様子はなかった
「シエルの本気のピアノが聞きたい。」
…まぁ。大御所にこんなこと言って頂けることは有難いことだし
たぶんもう一生会うこともない
一期一会な相手だし
そんなに気負うことなく弾けばいいかな
「わかりました。」
私は了承してもう一曲弾くことにする
今度はリクエスト通りにクラシックを
そして私が一番練習をした
この曲を弾きたくて必死に練習をした
そして弾けるようになってピアノを辞めた
私の引退曲
英雄のポロネーゼ
大きく深呼吸をして目の前のピアノを見つめる
本気のピアノか
たしかにこの曲だけは
私の本気なのかもしれない
何もかも中途半端だった私が
最後だからと
真摯に向き合って弾き続けた
懐かしいな
こんなところで弾くことになるなんてね
どうせなら思い切り楽しもう
私の魂の英雄のポロネーゼを
指が滑らかに動く
今日はとても調子がいい
ニックとの練習で技術力が上がったからだろうか
前世よりももっと音に思いを込めて弾ける
気持ちいい
最高の気分だ
私が弾き終わるといつの間にかピアノの周りには人だかりが出来ており
全員が大きな拍手で私を讃えてくれた
私のピアノがたくさんの人達の心に響いたのであれば
こんなに嬉しいことはない
感動してしまって少し涙ぐみながら
私はお辞儀をする
顔をあげるとカイザー様に抱きつかれる
「ブラボー!!!最高の演奏だったよ!シエル!!」
「あ…ありがとうございます。」
「明日は時間あるかい?私と一緒に演奏しようよ。」
「そ、そんな…私…」
「ニックと弾いた曲なら出来るだろう?明日私がバイオリンを弾くから一緒にセッションしようよ!!」
「カイザー師匠。シエルが困っています。そのへんで勘弁してあげてください。」
ニックが助け舟をしてくれた
「恋人でもないのに独占するなんてずるいじゃないか。ニック。」
「シエルは責任持って私が成長させますから。」
「俺の方が上手く指導出来るのに。」
「シエルは上手くなることを目標にしてないですから。自分を律する為にピアノを弾いてるんです。本格的にピアノをやるつもりがないシエルをカイザー師匠には預けられません。失礼ですから。」
「勿体無い。じゃあ何を目指してるの?シエルは。」
「え!?えーと…素敵な恋をすることですかね。今の目標は。」
「…。」
「…。」
ニックもカイザー様も黙ってしまった。
音楽を本格的に真剣に取り組んでる相手に
恋人が作るのが目標ですなんて
頭が花畑にも程があるだろう
恥ずかしくなってきた
「ブッ…!!!アハハハハハ!!!ひぃーーー!!面白すぎるよ!!シエル!!」
カイザー様がお腹を抱えて笑い出した
人の目標を笑うなんて
失礼な人だな
こっちはこれでも世界平和かかってるんだからね!!
「いいね。高校生の女の子らしい素晴らしい目標だよ。」
「絶対思ってないじゃないですか…。」
「アハハ!!私の生徒は私のオーケストラに入団することが目標とかそういうのばっかりだったからさ。つい笑ってしまってごめんね。」
「別にいいですけれど…」
「恋愛なんてあまり興味ないんだろう?」
「なんでわかるんですか?」
「だってこんなに美人なのに恋人がいないなんて恋愛に興味ないしか考えられないじゃないか。」
「…。」
「恋愛に興味がないのにどうして恋がしたいの?」
「世界平和の為に。」
「世界平和???」
「これ以上は秘密です。」
「なるほど。つまり恋人を作ることを強制されてるんだ。」
「まぁ。そうですね…。」
「恋人なんて適当に作ればいいのに。」
「それではダメみたいです。本気の恋愛をしないと。」
「なんだか面倒くさいことに巻き込まれてるんだね。」
「本当にそうなんですよ。」
「ニックが助けてあげなよ。」
「なっ!?カイザー師匠なに言ってるですか!?」
「ニックが恋人になってくれたらいいのにな。」
「え…!?は…!?」
「えへへ。なんちゃって。」
「…。」
「シエル…。そうやって男心を弄ぶのはよくないよ…。」
カイザー様に叱られてしまった
ちょっと冗談言っただけなのに
私なんかがニックに釣り合うわけないのにね