第96話 カイザー師匠
俺達は帰国までの間キッカ国の観光をする
朝、修道院のミサに俺とマナとマオの三人で参加をした
マナは現地の子供達ともすぐに仲良くなり
楽しんで参加をしていた
昼食を有名なレストランで食事をした後
キッカ国で一番有名なオーケストラの演奏を聞きに行く
流石本場のオーケストラ
迫力や音の厚みが全然違う
圧倒される演奏だった
演奏が終わり俺はオーケストラの指揮者である自分の師匠に楽屋挨拶に行く
マナとマオは外で待つと言ったが
少し挨拶するだけだからと一緒に行くことにした
「お久しぶりです。カイザー師匠。素晴らしい演奏でした。」
「おお!ニック!来てくれてありがとう!一年ぶりぐらいかな?会えて嬉しいよ。昨日、コンクール優勝おめでとう!」
「師匠のお陰ですよ。」
「いや。そこのお嬢さんのお陰じゃないか?とても面白い子を連れて来たね。ニック。」
そう言ってマナの方をカイザー師匠は見る
「初めまして。シエルと申します。今日のオーケストラ素晴らしい演奏でした。感銘を受けました。」
「ありがとう。シエル。私もシエルの演奏に心揺さぶられたよ。」
「昨日のコンクールお聞きになられたんですか?ニックの演奏の邪魔にならないように必死に弾いただけですけれど…カイザー様にお世辞でもそう言って頂けるなんてとても嬉しいです。ありがとうございます。」
「お世辞なんてとんでもない。シエルのピアノは伴奏者向きじゃないだろう?あんなに魅力的な音を弾くピアニストは初めて会ったよ。」
「えへへ…ありがとうございます。」
「私の元でピアノの勉強をしないか?キッカ国の音楽大学に推薦で入れてあげるよ。」
楽屋のオーケストラ団員達がざわつく
そりゃそうだ
カイザー師匠は大物の音楽者であり
こちらから頭を下げて高いお金を払い
難関の試験を勝ち抜いて
ようやく指導して頂けるような
音楽界の雲の上の存在の方なのに
無償でスカウトして
指導をすると言うなんて
初めてじゃないか?
俺だって幼少期に高いお金を払って
こちらから指導をお願いしたから
師匠になってくれただけなのだから
「私そこまで本格的に音楽の道に進むつまりはないので…」
「え?シエルはニックの恋人だろう?ニックもスカーレット学園を卒業した後は私が所属しているキッカ国の音楽大学に入学する予定なんだよ。一緒に大学に通えるんだ。こんなにいい話はないはずだよ?」
「私達恋人ではありませんよ。」
「え!?そうなのか…でもシエルには音楽を極めて欲しいな。あと二年半も考える時間はあるのだから進学の候補として考えておいてよ。シエルなら大歓迎さ。」
「勿体無いお言葉ありがとうございます。」
「すまないが、ニックと二人で話をしたいので席を外して貰えるかな?」
「勿論です。お会い出来て光栄でした。失礼致します。」
そう言ってマナとマオは部屋から出て行った
「ニックの片思いなんだね…。」
「…はい。そんなに俺わかりやすかったですか?」
「そりゃもう。こっちが恥ずかしくなるぐらいベタ惚れしてる演奏だったよ。ニックの音の深みを引き出す逸材だね。シエルは。」
「…そうかもしれないです。」
「ニックも男前なんだから早く告白して恋人にして一緒に留学して来いよ。」
「シエルは高値の花ですよ。シエルの恋人になりたい男は星の数程いるんです。シエルは俺なんて眼中にないんですよ。無茶言わないでください。」
「あぁーそういえばものすごい美人だったな。うぅーん。でもどうしてもシエルが欲しいよ。ニック頑張って勝ち抜いて一緒にキッカ国に来てよ。」
「シエルのどこがそんなに気に入ったんですか?」
「あんなに魅了する音を出せる人間は逸材だよ。練習しても手に入るものじゃない。」
「私は音楽しかやってこなかったつまらない人間です。他のライバルに勝てる気がしませんよ。」
「音楽を極める男程、この世で魅力的な人はいないよ。私のようにね。」
「ハハハッ!!たしかに。カイザー師匠は魅力的だ。」
「頑張れよ。音楽も恋も。全部手に入れろ。俺の弟子ならね。」
「はい。必ず勝ち抜いて一人ではなく二人で留学します。」
「ハハハッ!!老後の楽しみがまた増えたわい!!」