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第95話 コンクール本選

豪華客船の三日間の移動が終わり俺達はキッカ国に入国した

入国して次の日はコンクール本選だ

俺の演奏は完璧に仕上げた

楽譜通りに

作曲者の意図を理解して

再現をして演奏をする

それが俺に出来る一番の強みであるから

マナの演奏もかなり上達した

楽譜通りに弾くだけでなく

俺のバイオリンも聴いてしっかり合わせることが出来るようになった

俺達の全力は尽くした

後は本番をやりきるだけだ


次の日になり、コンクール本選のホール会場に着いた

「久しぶりだな。ニック。」

「久しぶり。エレナード。」

彼の名前はフェレット・エレナード

同じ歳で俺のバイオリン奏者としてのライバルだ

コンクールで俺とエレナードはよく優勝争いをしている

若き二人の天才バイオリニストとして俺達はよく比べられる

楽譜通りに完璧に演奏をする俺と

魂を揺さぶられるような情熱的な演奏をするエレナード

俺達の優勝争いの勝負は今、五分五分だ

「相変わらずつらまらない音色してんのか?音楽だけやっていても音に深みが出ないぞ?人生楽しいこといっぱいあるんだからさ。」

「ほっといてくれよ。俺は音楽が好きだから音楽に生きているんだ。」

「ところで隣の可愛い子ちゃんは誰?」

「この子はシエル。今日の俺の伴奏を担当する。」

「シエル?聞いたことないけれど。まさか素人連れてきたのか?」

「同じオーケストラ部の部員だよ。」

「素人じゃねぇか。ニックの伴奏を担当させて売名させるのか?ニックの恋人だから贔屓してるのか?」

「シエルは恋人じゃないよ。贔屓なんかしていない。でもシエルを自慢したかったから連れてきたところはある。」

「自慢?可愛い子ちゃんだから?」

「まさか。シエルのピアノの自慢だよ。」

「ちょっとやめてよ…。素人が頑張って弾きましたみたいな演奏しか出来ないのにさぁ…」

「シエルちゃん。初めまして。声も可愛いね。」

「初めまして。エレナード様。」

「ニックなんてつまらない男はやめて俺にしとかない?」

「ニックはつまならない人間ではありませんよ?」

「シエルはニックが好きなの?」

「人として尊敬してますね。ニックのようになりたいです。」

「ニックなんていつも同じ演奏しか出来ないんだよ?そんなニックになりたいの?」

「誠実で綺麗な音色じゃない。私はニックのバイオリン好きだよ。それにどんな演奏が好きだなんて人の好みでしょう?十人十色だから音楽は面白いんじゃない。私はプロの演奏よりも幼少期のピアノの発表会演奏の方が好きよ。」

「ハハハッ!!いい感性を持ってるね。ホントにニックにはもったいないよ。」

「そうだね…俺はエレナードとシエルが羨ましい。俺の音色には感性なんてないからね。」

「…何を言っているの?」

「え…?」

マナが怒ったような視線で俺を見る

「ニックは自分の演奏に誇りはないの?」

「…。」


何度練習しても

俺の演奏は手本のような演奏だ

喜怒哀楽を音色にのせることは

何度も何度も何度も何度も

やってみても

エレナードのようには

マナのようには

俺には一生弾けないだろう


「自分の音色を自分が一番愛してあげれなくてどうすんのよ。ニックのバイオリンが泣くわよ?」

「俺のバイオリンが泣く?」

「そうだよ。あんなに頑張ってニックの音色を奏でているのに。そんなことニックのバイオリンが聞いたら悲しむよ?」

「ハハハ!!シエルは本当に面白いんだね!!」

エレナードが大声で笑いながら言う

「今日はとても楽しい戦いになりそうで嬉しいよ。ニック。」

「全力を出すだけだよ。エレナード。」

そう言ってエレナードは去っていく


いよいよコンクール本選が始まった

俺達の出番は最後のトリだった

「マナ。緊張してる?」

「今日は不思議としてない。やっぱり練習量が多かったからかな。納得できる演奏が出来そうだから。」

「そう。俺は少し緊張してるよ。」

「フフフッ。ニックも人の子だったんだね。」

「俺を何だと思ってたの?」

「鬼コーチかな。」

「…そっか。」

「エレナードの演奏凄いよかったね。」

「そうね。」

「俺には出来ない…」

「ストップ。」

「え…」

「ニックはエレナードみたいになりたいの?」

「…羨ましいとは思ってるよ。」

「あーあ!バイオリンが泣いてるよー!!」

「凄い演奏だったんだから仕方ないだろう!?」

「ニックのバイオリンはニックの音色が一番好きだよ。いつも嬉しそうに綺麗な音を響かせてる。たくさん練習してくれて完璧に仕上げた演奏を一番に愛してあげてよ。」

俺はバイオリンを見つめる

いつも俺を支えてくれた

俺の相棒だ

「そうだね。マナの言う通りだ。」

「そうでしょう?」

「俺のバイオリンが一番美しく奏でることをみんなに聴いてもらおう。」


そして俺達の出番がきた

マナのピアノは練習通り落ち着いていて綺麗に響く

マナが俺の演奏を愛してくれるなら

俺は誰よりも綺麗に音色を奏でよう

相棒のバイオリンがいつもより

機嫌良く綺麗に奏でているような気がした


演奏が終わりコンクールにも関わらず拍手が響く

こんな演奏が出来たのは生まれて初めてだ

マナを見ると笑顔で答えてくれて

達成感で満たされた


結果は俺が優勝

準優勝はエレナードだった


「いやぁ!!今日は自信あったのになぁ!!負けちゃったよ!」

「エレナード。素晴らしい演奏だったよ。」


エレナードが俺の耳元で小さく言う

「ニックの愛の告白みたいな演奏だったよ。シエルのことが好きで好きで堪らないって音してたよ。」


そんなことまで演奏でわかるのか

音楽は奥深い







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