第9話 愛されモブ令嬢の日常
カフェで過ごした後はブティックで買い物をした。
白い清楚系のワンピース。お忍びで町に出掛ける町娘服の赤い洋服。ゴリゴリのロリータ系の白とピンクのドレス。大人っぽくシックなモダン系の黒のワンピース。色々な種類の服を試着した。マリオお兄様はどれも似合ってるよ。と言ってくれた。
私は意外と倹約家でお金はたくさんあったので全て購入しようと思ったら
「黒のワンピースはマリアお嬢様にはまだ早いですよ。それよりも動きやすい服を買いましょう。お嬢様はすぐ服を汚したり破いたりしますからね。」
とレイに言われた。
「黒のワンピースも必要なの。他のご子息や令嬢と会う時はアーネルド家の令嬢として相応しい服装は必要なんだよ。」
「いらないですよ。そんなの。白とピンクのドレス着たらよくないですか?」
「ダーメ。私はみんなに迷惑掛けたくないの。」
「誰も迷惑なんて思わないですよ。」
「…私はアーネルド家の令嬢としての役割を果たしたいと思ってるの。家では自由に
やるけど、外ではやっぱり大人しくしたいな。」
「……じゃあ社交界デビューはギリギリまで遅らせましょうね。今は着ないからいらないです。」
レイは今回のことで一番辛い思いをさせてしまったかもしれない。私がアーネルドらしくしようとすると嫌がる。そのままでいいのにっていつも言う。レイは貴族の教育としてはダメな見本だけど、人としては私のことを一番尊重してくれてるから嬉しい。レイがいてくれてよかった。レイが私を私でいさせてくれた。
「いつになったら買ってもいいの?」
「二十歳ぐらいですかね。」
「社交デビューって十四歳ぐらいじゃないの…?遅すぎでしょ!!」
「いいんですよ。別に結婚しないくてもずっとアーネルド家に居れば幸せなんだから。」
……やっぱりただの過保護なのかもしれない。
「私は子ども産んで、幸せな家庭を作ることが夢だからダメー!」
!?!?!?
なんか二人とも凄くびっくりした顔をしてる。え?普通の夢だよね??
「マリアがそんなこと夢見てたなんて知らなかったな…」
明らかにショックを受けてるお兄様…
「そんな!?好きな人でもいるんですか!?誰と結婚するつもりなんですか!?どんなやつがタイプとかそんなこと考えたりするんですか!?」
肩を掴みグラグラと揺らしながらレイが聞いてくる
「いや、なんとなくそう思っただけで…。」
迫力に気圧されて曖昧に答える
「好きなやつは!?いるんすか!?どうなんですか!?」
「いないよ!そんなの!アーネルド家からほとんど出たことないのにいるわけないじゃない!」
ハァハァと息を切らしてレイが震えている
「アーネルド家から一生出なくていいのに…」
「バカ。絶対大人になったら早く出ていけって言うくせに。」
三十歳近くになって結婚してないと親からネチネチ言われるのがお決まりなんだから
「言わないですよ。絶対。」
一段と低い声で。少し怒ったような口調でレイが言う。真剣な目で見つめられて…いつもと違う調子で困る。
「あ…あの…まだまだ先の話だし…」
レイが膝をついて私を抱きしめる
「わかっています。いつかその日がくることを。いつかその日が来たら俺も護衛騎士としてお嬢様と一緒に屋敷を出て連れて行って下さいね。」
レイは…誰かと結婚したいとか。幸せな家庭を作りたいと思わないのだろうか。私にずっとついてきて幸せなのだろうか。わからないけど、抱きしめる手が震えているレイを突き放すようなことは出来なかった。
「レイしか私の遊び相手してくれないからね。」
にっこりと答える。その言葉に安心したのかレイは少し泣いて
「ありがとうございます。一生マリアお嬢様をお守りすると約束します。」
とレイが言う。
結局黒のワンピースは買わずに白のワンピース、白とピンクのドレス、赤の洋服と動きやすい服装を何着か購入して店を出た。
その後宝石店でマリオお兄様とペアのブローチをプレゼントしてくれた。色は私達の瞳と同じ薄緑のエメラルド。
「本当の恋人同士みたいですね♡」
「そうだね。」
「私はこのブローチを一生大事にします!死んだら棺桶に入れて貰います!」
「じゃあ僕もそうしようかな。」
とても仲の良いご兄弟ですねー羨ましい〜と店員さんに話しかけられる。
「このブローチはこれから何があっても僕達は兄弟であることの印だよ。肌身離さず持っていてね。」
「はい!お兄様!!」
このブローチは一生の宝物にしよう。
宝石店を出て、馬車でアーネルド家の屋敷に戻る。
こんなに楽しいお出掛けは初めてだ。
「お兄様ありがとう。またデートしましょうね!」
「私も楽しかった。今日のことはずっと忘れられない日になりそうだ。」
と答えてくれた。笑顔でお別れをして部屋に戻る。
「おかえりなさいませ。マリアお嬢様。」
アリサが出迎えくれる。
「アリサ聞いてくれよ〜!今日お嬢様がさぁ〜。」
レイが今日の出来事を話そうとしてる時
「ごめんね。レイ。私アリサと二人でお話ししたいことがあるの。ちょっとだけ二人きりにしてくれないかな?」
「なんで!!ズルい!!二人で秘密話ですか!!」
「そう。内緒の話。」
「さては好きなタイプをアリアに伝えて似たようなご子息を探そうとしてますね!絶対にダメですよ!!」
「違うから…ちょっと女子トークしたいだけで…」
「女子トークとか!!怪しいですよ!!ダメです!絶対俺も一緒に…」
「やめなさい。」
レイが話そうとしてる所をアリサが止める
「レイ。貴方のご主人の言うことを聞けないの?立場をわかっていないようね。マリアお嬢様に従えないやつは奥様にご報告して解雇にしてもらうわよ。」
「………」
「出ていきなさい。マリアお嬢様が優しいからって調子に乗るんじゃないわよ。」
「いやあのちょっと話すだけだから…ごめんね。レイ。」
レイがトボトボと部屋から出る。
ごめんね。レイ。
さぁここからが本番だ。
私は聖杯を取り出しアリサに見せる。
「今から私の秘密を教えるね。」