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第84話 ポーランド・ニック

まさか遊園地の翌日にこんな事件が起こるなんて

朝、ベルチェがマナに火の魔法で攻撃をして

ベルチェは逮捕され連行された

その後の特進クラスの雰囲気は最悪だった

笑える雰囲気ではなく

常に重たい空気

クラスのみんなが思っていただろう

恋の三角関係は恐ろしいと

昨日のクリス様の観覧車炎上事件の翌日に

ベルチェがマナの顔をまる焦げ事件だ

楽しかった思い出が吹き飛ぶぐらいに

衝撃的な事件の連続で

俺達、特進クラスのみんなも疲弊していた

特に落ち込んでいて放心状態だったのはマナだ

いつもの明るい笑顔はなく

常に俯いて

心ここにあらず

時々漏れ出したようにポロポロと涙を流す

そんなマナの状態を心配して

レックスが話しかけて元気づけていたが

反応がなく

放心状態だった

担任のイシュタル先生に帰宅してもいいと言われていたが

マナは首をふり

最後まで授業を受けていた

そして放課後、部活の時間になり

俺達は音楽室でマナと二人で練習をする

マナはピアノの前でも俯き喋らず心を閉したままだ

「そんな状態では今日は練習出来ないんじゃない?今日はもう帰りなよ。」

「…。」

マナに反応はなく俯いたままだ

「俺も鬼じゃないんだ。今日ぐらいは休んでも怒ったり…」

「大会の本番はもうすぐなんですよ。病気になったわけでもないのに休んでなんていられないです。」

「それはそうだけど…」

「優しくしないでください。」

「…。」

「今日は鬼のように厳しくしてください。メンタルがドン底だからこそ、ここから沈むことはないです。私の全てをぶつけて本気で弾きます。甘やかさないでください。」

「マナは根性だけはプロ並だね。」

「甘やかさないでください。じゃあ弾きますよ。」

マナはそう言って課題曲の演奏を始まる


いつも音は光るような音色をして心地の良い演奏をするマナが

今日は…一段の際立って鳥肌が立つ

音に魅力されて

惹き込まれる

俺が合わせて演奏をするが

俺の音が陳腐に聞こえる

俺はプロの演奏家だ

常に百点の演奏が出来るようにしている

今だってそうだ

百点の演奏をしているのにも関わらず

俺の音色が邪魔だと感じるほど

マナのピアノは恐ろしく素晴らしい演奏だった

今までに見たこともないぐらい集中している

いつも間違えるところも完璧であり

それどころか表現力が上がっている

ゾーンに入っているのだろうか

俺のバイオリンが百点なら

マナのピアノは三百点だ

マナの演奏に

飲み込まれて

引き摺り込まれた

俺の演奏が誰かに引き摺り込まれることなんて初めてだった


「どうでしたか?」

演奏を終えてマナが俺に言う

「…伴奏が主役を食ってどうするんだよ。俺の音を聞いていたか?一人で突っ走るな。」


マナはその日の気分によって演奏の出来が変わる

全然ダメな時は二十点ぐらいの演奏しか出来ないくせに

…今日のような三百点の演奏をする時もある

毎日安定していい演奏をする俺は

“いつもと同じ”

“面白味もない”

そう批判されることが多かった

完璧な演奏というものは

そういうものなんだろう

しかし、俺は手を抜くことも出来ないし

いつも客には素晴らしい演奏を届けたいと思うし

この安定した演奏を続けることがどれだけ大変か

それをわかってくれる客の方が多いから

やはり俺は間違っていない

常に綺麗な

百点の演奏を届けることを続けてきた


マナは違う

きっと金を返せと言われる程ひどい演奏をする時もあれば

死ぬまで忘れられない衝撃的な演奏をする時もあるだろう

それはまさに天才型の芸術家であり

俺にないものだ


マナの存在そのものが芸術作品のようだ


今日はどんな音色をするだろうか

ダメだろうか

凄いだろうか

毎回わくわくしてしまう


マナの音色をもっと聴きたい

楽しいときも

悲しいときも

どんな音色を奏でるのか

想像がつかない


マナの隣で

マナの演奏を

生涯共に聴いて生きていきたい


そうか


これが俺の初恋だ











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