第83話 コーラン・ベルチェ
クリス様のことが大好きです
クリス様の隣に立てるように
認めて貰えるように
私の人生全てクリス様に捧げてきました
婚約者として認められて
本当に嬉しかったんです
私の人生無駄じゃなかったって
報われてよかったって
他の女の子を愛していても
婚約者は私だから
私と結婚する運命だから
きっと大丈夫と思っていたのに
考えが甘かったな
こんなにも大好きなのに
こんなにも愛しているのに
ちっともこっちを見てくれさえしない
言葉も届かない
このままクリス様と結婚しても
幸せになれる未来が予想出来なかった
このまま婚約者でいても
愛して貰える未来が想像出来なかった
だからといって
長年夢見ていたクリス様の婚約者の座を降りることなんて
出来るはずもなく
恋に生きた私の人生をそんな簡単に否定することが出来なかった
婚約者にはなれたけれど
愛されることはなかった私は
前に進むことも
後ろに下がることも
横を向くことさえ
何もする気がおきなかった
もう疲れた
この苦しみから解放されたかった
だからもう自分で“わざと”死刑になるようにした
私の人生悔いしかないけれど
後悔だけはないよ
クリス様が選んだ女の子は
とても可愛くて
とても美人で
性格も良くて
物語に出てくるヒロインのような女の子だった
羨ましかった
妬ましかった
私が望んだ全てを手にした女の子
エラート・マナ
もしも生まれ変わるなら
貴方になりたい
私は学園に警備されている騎士に逮捕されて
そのまま騎士と一緒に王城へ連れて行かれた
私はその後、しばらく牢屋に入れられた
どれぐらい時間が経っただろうか
ぼーっと何も考えずに過ごしていたからよくわからないけれど
牢屋から出された時には両親と王様が部屋で待っていた
「この!!!愚か者!!私がお前を優秀に育ててやったのに恩を仇で返すようなマネをしやがって!!お前のせいで我がコーラン家は破門だよ!!」
そう言ってお父様が私のお腹を蹴り飛ばした
「申し訳ごさいません…。」
言い訳の余地もなく
私が全て悪いせいで
コーラン家はなくなるのだ
両親が怒るのも当たり前だ
「親子喧嘩は後でお願いします。」
王様がそう言った後、私は事情聴取をされた
私は教室で起きたことを嘘偽りなく全て王様に話した
「そうか…コーラン・ベルチェ。君がやったことは重罪だ。覚悟は出来ているな。」
「はい。」
「…わかった。コーラン・ベルチェを牢屋に…」
「待ってください。」
そう言って部屋に入ってきたのはこの世界唯一の聖女エラート・マナ
クリス様に愛されている女の子
そして私が火魔法で顔を丸焼きにした女の子だ
マナは王様にゆっくりと近づき
王様の目の前で膝をつき
そのまま頭も平伏して
土下座をする
「お願いします。見逃してください。」
「…自分が何を言っているかわかっているのか?お前の顔を焼いたんだぞ?何故庇う。」
「私を狙ってやってません。事故でした。」
「今、コーラン・ベルチェから事情を聞いたが敵意を持って狙ってやったと言っていた。」
「それでも無罪にして下さい。お願いします。」
「願えば何でも叶うと思うな。罪を犯した人間には罰を与えなければいけない。わかるだろう?」
「ちょっとした喧嘩だったんです。学生時代にあるよくある暴走ですよ。貴方の息子さんだって大暴れしたじゃないですか。クリス様が停学でベルチェ様は死刑だなんておかしいと思いませんか。」
「だめだ。認められない。コーラン・ベルチェはこの後も同じような罪を重ねる可能性がある。死刑判決は逃れられないだろう。」
「それは貴方の息子もでしょう?自分の息子は更生する可能性があると言うのに、ベルチェ様には何故可能性がないの?おかしい。不平等だわ。」
「お前がどんなに粘ろうと判決は変わらない!帰りなさい!!」
「絶対に引きません。こんなことで人が死ぬなんて絶対に嫌。」
口論はどちらも引かなかった
マナは一度も顔をあげることもなく土下座をしたまま
そのまま二時間私の無罪を懇願し続けた
「もういいわよ…。やめてよ!!私は死刑になるようにわざと貴方を攻撃したのよ!!私はこのまま生きていたって辛いの!!クリス様に一生愛されることのない惨めな人生を歩みたくない!!」
「そんなことない!!生きてさえいれば絶対なんとかなる!!辛いこともあるけれど楽しいことだって絶対あるんだから!!まだまだ若いのにそんなこと言わないで!!」
「もういいんだってば!私のことはほっといてよ!」
「ほっとけるわけないじゃん!」
「どうして?私は貴方にひどいことしたのに。なんでそこまでするの?」
「好きだから。」
「なに…言ってんの?」
「死んで欲しくない。生きていて欲しい。いつか…友達になれたらいいのになってそう願うぐらいには好きだから。」
「…。」
「ベルチェ様の命が助かるなら何時間でも土下座するよ。絶対引かないから。命掛かってるんだもの。まだまだ人生これからだから。十六年なんて人生始まったばかりじゃない。失敗のない人生なんて誰もいないんだから。クリス様のいない人生はこれから明るく楽しく素晴らしいものになる。私が保証する。だから…死ぬなんて言わないで。」
私はマナの隣で膝をつき
頭を平伏し
土下座をする
「許されない罪を犯してしまいました。本当に申し訳ございませんでした。もう二度と繰り返さないと誓います。ですからどうか…お願いします。私を死刑にしないで下さい。一生奴隷でも構いません。もう一度生きるチャンスを私に下さい。」
「お願いします。」
「お願いします。」
私達は二人で王様の前で土下座をする
「…わかった。死刑にはしない。どのような処分にするかはまた後日決定する。」
「「ありがとうございます!!」」
私達は声がハモって同時にお礼をする
私は立ち上がりマナを見ると
マナは長時間土下座をしたせいで足が痺れて起き上がれずにいた
「…ありがとう。」
私はそう言ってマナに手を差し出した
「えへへ!私達もう友達だよね!!」
満面の笑みで心底嬉しそうにマナは言う
私は微笑んで答える
「いや。友達にはなりたくないけど。」
友達なんていらない
私は心機一転
新しい人生は一人で歩いていくのだから