第80話 新聞部員
僕の名前はシガーレッド・アレクサンダー
主人公のような名前だろう?
僕もそう思っていたさこの学園に入学するまでは
特進クラスには主人公のような人物がうじゃうじゃ溢れていて
僕は何も目立たない平々凡々な人間だったのさ
魔力も学力も並々であり
特に優秀でも落ちこぼれでもない
そんな中途半端な存在が
シガーレッド・アレクサンダーだ
今ではもうこの仰々しい名前をこのクラスで名乗るのが恥ずかしいぐらいだよ
何も目立った特徴がない僕だけど
少し特別な存在になりたくて
誰から一目を置かれるとかそんな感じの
承認欲求というものだろうか
だから実はこの学園での実権を握っている
裏で学園を操っていると噂の
新聞部に入ることにした
「やあやあ!よく入部してくれたね!一年特進クラスの人間が新聞部員になってくれるなんてこんなに貴重な人材はいないよ!大歓迎さ!!」
そう言って新聞部部長のカーコック・エドが歓迎してくれた
「君にお願いする仕事はただ一つ。エラート・マナの毎日の情報を伝えることだよ。」
「聖女様のだけでいいんですか?」
「新人だしね。まずはエラート・マナだけの毎日の情報だけでも素晴らしい情報だから。」
「聖女様の情報は高く売れるのですか?」
「それもあるけど…彼女は特別だから。」
「この世界唯一の聖女だからですか?」
「そうだね。この世界の神に愛された神の子だからね。世界を救うことも崩壊させることも彼女の気分さ。」
エド部長は本当のことを言っているのか僕をからかっているのかよくわからない
真実と嘘を混ぜて話すことがとても得意な人だから
全てを信用してはいけない
世界の生死がマナ様にかかっているなんて
俄かに信じ難い
しかし、マナ様の情報がとても貴重であることは本当のようだ
俺は新聞部員になってから毎日のマナ様の様子を全て報告していた
ストーカーのように見つからないように毎日追いかけ回した
僕の働きを毎日エド部長が褒めてくれるもんだから
張り切ってストーカーをしていた
そして課外授業もおそらくマナ様と同じ班になれと命じられると思っていたが
エド部長は別の人に付くことを命じられた
そして今回は任務もある
全く意味のわからない任務だけれど
エド部長が何を考えているのかよくわからない
俺は命令通りのチームに入ることが出来た
ハーバランド・クリス、コーラン・ベルチェ、フォルト・ローズ、そして僕だ
オーラが三人ともエグいぐらい強い強すぎる
僕の存在が掠れていくよこんなチームじゃ
命令じゃなければ絶対にこのチームになんか入らないのに
クリス様とクリス様の婚約者とあのクリス様に唯一刃向かったローズ様と同じチームで遊園地なんて
普通に遊園地を楽しむことは絶望的だ
しかしこれも新聞部員の宿命
普通に楽しむなんて平々凡々なことはしない
僕は裏を操る新聞部員だという誇りを胸に
いざ遊園地へ向かう
初手からクリス様はマナ様に逃げられて機嫌は最悪だった
どこに逃げた!?
追いかけるぞ!!
とクリス様が騒いでいるが
見つけても風魔法使いのミメットが居る限り逃げられ続けるから意味がないこと
俺達のチームに風魔法使いがいないことから追いかけっこは負け確定だとクリス様にベルチェ様とローズ様が説明をする
クリス様、ベルチェ様、ローズ様は全員火の魔法使いだ。僕だけ水魔法である
クリス様をベルチェ様が説得をして僕達だけで遊園地を回って楽しもうと言っている
クリス様は“勝手にしろ”と言って僕達は四人で遊園地を回ることになった
怪盗ニャンコのパレードやショーを中心に僕達は遊園地を回った
クリス様は何も見ても不機嫌で何も楽しくなさそうだった
ベルチェ様は諦めずに話しかけたり、腕を回して接触をしていたがことごとく拒否されていた
あんなにきつい言葉を投げかけられてもめげないベルチェ様の精神力は凄いと思う
僕ならすぐに折れちゃうね
僕達は昼食をとることにして、肉料理が有名な高級レストランに入ることになった
何故か席を二人二人に分けられてクリス様とベルチェ様、僕とローズ様で座ることになった
「ローズ様はどうしてこの班に入ったのですか?」
「ベルチェが心配だったから。」
「心配?どうして?」
「マナに関わるとろくなことにならないから。忠告してあげたんだけど…火に油だったかもしれないわね。」
「クリス様はマナ様が好きですが、マナ様はクリス様と付き合う様子は全くないわけですからベルチェ様が諦めないのは普通なのでは?」
「まぁうん…そうなんだけど。マナに本気になってる人間なんてこの世で一番狂ってて恐ろしいんだから。」
「そんな大袈裟な…。」
「本当よ。恋をしたらもう終わり。感情をぐちゃぐちゃにされてボロボロになってマナの一喜一憂に振り回され続ける地獄のような時間を過ごして狂っていくのよ。」
「マナ様だけではなく、恋とはそういうものなのでは?」
「あいつは特別に沼が深くて抜け出せないからね。クリス様は手遅れ。マナを諦めて他の女を愛するなんて絶対出来ないわよ。だから婚約者なんて辞退しろって言ったんだけど…幼い頃から憧れてたクリス様の婚約者になれたチャンスを絶対に諦めることは出来ないんだってさ。可哀想に。」
「まだ可哀想と決まったわけじゃ…」
「ほぼ100パーセント決まってるわよ。ベルチェの未来は破滅するわ。でも…それでも恋する気持ちが止められないその気持ちはよくわかる。痛いほどわかるから。見ていて辛い。なんとかして止めたいんだけどな。」
「お優しいんですね。」
「そんなんじゃないわよ。」
「ローズ様は“佐々木華”という女の子を知っていますか?」
ローズ様はとても驚いてその後訝しむ目で僕を見る
その反応を見る限りこの問いかけの正解は出た
答えはイエス
僕はエド部長からの任務を遂行することが出来た
この任務に何の意味があるのか全然わからないけれど
「その名前どこで知ったの?」
「どこで知ったかは内緒です。僕が知りたかったのは知ってるか知らないかだけですから。知っているのですね。」
「どうしてそんなことが知りたいの?」
「さあ…僕にはよくわからないです。」
「誰かに聞けと言われたの?」
「これ以上は話せないですよ。佐々木華って誰なんです?そんなに怒るほど名前を出してはいけない人物なのですか?」
「私の前では地雷よ。二度とその名前を出さないでね。」
「それは…申し訳ございませんでした…。」
「アレクサンダーに命令した人間にも伝えて。」
「何をですか?」
「佐々木華に関わるな。お前の人生を壊されるってね。」
「そ、そんなに恐ろしい人間なんですか!?」
「アレクサンダーも関わらない方がいいわよ。今すぐその命令した人間から離れなさい。普通の生活が出来なくなるわよ。」
「僕は普通の生活なんて求めていない!」
「そう。じゃあ。さよならね。死ぬほど後悔すると思うけど。私は忠告したからね。ベルチェもアレクサンダーも私が止めてるのに何も言うこと聞かないんだ。」
「僕は…特別な何かになりたくて…」
「バカね。普通が一番尊いのよ。早く目を覚ましなさい。」