第65話 友達
全校生徒の前で堂々とした立ち振る舞い
ふざけた猫のお面をつけているのにも関わらず
仕草で
声で
オーラで
人を掌握する圧倒的カリスマ力
これがこの世界でたった一人の白精霊に選ばれし者
一人で魔王を討伐し、世界平和へと導いた
世界最強の聖女エラート・マナ
お面をつけてクロネコガールという役割を演じているからだろうか
普段の姿ではあんな風にかっこよく振舞ったりは絶対しないから
いつもは抑えているであろうカリスマ性を全面に出している姿を見て
俺はまたマナに恋をする
ねぇマナ
全てが繋がっているのなら
俺のこの恋も何か意味があるのだろうか
「あーーーー疲れたーーーーーー。やっと放課後だよ。レックス様と学級委員の仕事してる時が一番癒しだよー。」
「凄かったよ演説。マナは教祖とか向いてるんじゃないか。思わず崇めたくなったよ。」
「演説?何の話ですか?もしかしてクロネコガールさんのことですか?私とは無関係ですけど。」
「え?正体隠してるつもりなの?」
「クロネコガールは謎に包まれた正義のヒーローだよ。」
「あっ…そういう設定なんだ…。」
「設定って何!?やめてくれる!?」
「面倒くさいからこの話はもうやめよう。」
「正体不明だからね。議論の余地がないからね。」
「演説が関係ないなら何に疲れているんだ?」
「学園生活の全てに疲れてる。でも主に疲れるのはクリス様。」
「めちゃくちゃ執着されてるからな…。」
「でも今日いい情報を手に入れたんだよ。クリス様は努力しなかったり無能な人間は嫌いなんだって。私めちゃくちゃ当てはまるから嫌われるんじゃないかなって!」
「えぇ…当てはまるか?マナは一人で魔王を退治した英雄だよ?無能なわけないじゃないか。」
「なるほど。確かに功績だけは一丁前だからなぁ。」
「姿を見ることさえ出来なかった魔王を一人で倒して世界平和にした人を無能とは呼ばないよ。」
「でも何の努力もなく才能だけで倒したからなぁ。」
「…本当に恐ろしいね。凄いけどさ。」
「私の悪い所だよね。自分の才能だけで上手くいくから努力を怠るの。見た目の愛嬌とか、白精霊の覚醒で十分すぎる武器があるんだもん。それに比べてたくさん努力して手に入れたものがそんなに大した武器にはならないんだからさ。努力を怠っちゃうんだよね。怠け者の愚か者だよ私は。」
「それで?クリス様に嫌われようとしてるの?」
「そう。怠け者の愚か者だと全面にアピールする予定だよ。」
「本当にマナはクリス様が嫌いなんだな。」
「え?別に嫌いではないけど?」
「え…。いつも嫌そうにしてるし逃げているのに?」
「クリス様はバーバランドの国の為に立派に努力してる素晴らしい人でしょう?凄い人だなーって思ってるよ。」
「…じゃあどうして逃げてるの?」
「だって好き好きずっと言ってくるんだもん。恥ずかしくて。照れちゃって。」
「それは…クリス様が好きだから恥ずかしくて逃げてるってこと?」
何故こんなことを聞いたんだ
聞きたくないのに
聞かないと気が済まない
心臓が潰れそうな程苦しい
「あの魔性性に誑かされて流されたくないからかな。恋人になるんだったらちゃんとどんな人か理解したいのにさ。未だに私にとってクリス様って宇宙人だもん。よくわからない。謎。」
「そう…なん…だ。」
一番聞きたくなかったクリス様が好きという言葉はなかったものの
好き好き言われて流されたらそのまま恋人になる可能性があるってことか?
「どうしてクリス様を知って恋人になる選択肢ではなく、嫌われることをしようとしてるんだ?クリス様のことは嫌いではないのに。」
だからなんで俺はこんなことを聞くんだ!
でも聞かないと夜も眠れなくなりそうだ!
さっきから動悸が激しくて心臓が苦しい!!!
「王妃になりたくないから。」
「…それはクリス様が王子様じゃなければ好きになる努力をしていたってこと?」
「まぁ…そうかもね。」
心臓が止まりそうだ
嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
マナが他の誰かに恋をしそうという事実だけで
吐きそうだ
実際はクリス様は王子様だし
マナはクリス様に嫌われてるようにしている
恋人になる気はないんだから
俺の方が可能性があるんだ
「マナは…俺のことはどう思ってる?」
その答えは
当たり前で
予想通りで
残酷だった
「友達。」