第53話 兄と弟
10分後、部屋に戻ると泣き喚くマナを頭を撫でてアーネルド・マリオが慰めていた
二人の間の兄弟愛の間に入ることなど僕にできるわけもなく
ただその光景を眺めることしか出来なかった
二人の間にある無償な愛の関係はとても尊く
僕は一生勝てないだろう
マナは泣き疲れてそのまま眠ってしまった
眠ってしまったマナをマリオが抱えてベッドへ寝かせた
「…僕は魔王だ。」
僕がそう言うと、マリオはとても驚いた表情で僕を見た
「僕からマナを取ろうとするなら容赦はしない。」
「…ハハッ。こいつは魔王を弟にしてんのか?相変わらず無茶苦茶なことしかしねぇな。」
「僕からマナを取らないで。お願いだから。」
「そんなことはしないよ。マナは君の大事な姉だ。僕はもう何も関係のないモブになってしまったからね。」
「奪えるならそうするだろう?」
「しないよ。マナはそんなことは望んでいない。マリアとしての人生を終わらせてマオと一緒に生きていくと決めている。それに…マナとの生活は楽しかったけれど、やっぱり心労が絶えなかったからね。心労で毎日死ぬ思いをしていたよ。十五年で十分だ。」
「…その気持ちはよくわかる。」
「こいつに振り回されてるのか?可哀想に…。」
「マナは出会ってからもう三回死にかけてる。考えて行動することが出来ないんだ。どういう神経してるのか意味がわからないよ。」
「うわぁ…。マオくんに同情するよ…。」
「辛い…。」
「でもあの笑顔で許してしまうだろう?」
「…。」
「世界一かっこいいなんて甘い言葉を囁いてさ。」
「…。」
「マオには世界一可愛いって言ってたよな。そんなこと言われたらさ、許してしまうんだよな何もかも。本当にタチ悪いよこいつ。」
「…そうですね。惚れたやつの負けというやつでしょうか。あの笑顔で全ての負の感情がなくなり、救われる感覚は麻薬のようで中毒だ。」
「マオはマナと恋愛したいのか?」
「はい。」
「そうなんだ。もったいない。」
「?」
「恋人なんかより、マナは弟の方が大事にしてくれるよ。マナからの本物の無償の愛を貰えるのは家族だけだ。マナからの無性の愛は弟じゃないと貰えないよ?」
「でも…マナが誰かの女になるなんて耐えられないよ。僕だってこの世界の攻略対象者なんだ。絶対に誰にも渡したくない。」
「魔王も攻略対象なのか!?」
「俺は元魔王だ。この世界の理ぐらい知っている。」
「でもマナはマオとは恋愛する気なさそうだったぞ?」
「…僕が十歳の姿だからだろ?五年後には俺だって恋愛対象に見てくれる。」
「その前に学園にいる攻略対象者と恋愛するんじゃないか?」
「大丈夫だよ。マナは恋愛なんて興味ない。」
「…。」
「だから僕が貰う。恋愛ではないかもしれないけれど選ばれるのは俺だ。」
「うーん…。マナは恋愛は苦手だけど、夢は持っているよ?マナは普通の幸せを求めているんだ。普通に恋愛して結婚して家庭を築くことを夢見てるんだよあれでもね。」
「だから攻略対象者と恋愛して幸せになろうとしてるって?本気でそんなこと言ってる?」
「そう思うけど…。」
「ハハハ!!そんなわけない。じゃあ何故学園に行くのを嫌がっていた?恋愛なんてする気ないんだよマナは。でも攻略対象者との恋愛はこの世界を保つ為に絶対に必要なことだ。マナは仕方なく従っているだけだよ。」
「それでも恋愛することは絶対条件だ。それなら前向きに幸せな恋愛をしようとするだろう?少し現実逃避をしていただけだ。マナは明日から学園に通うと言った。マナは幸せを掴む恋愛をするはずだよ。」
「余計なことを。俺が攻略対象者なんだから学園に行く必要なんてないのに。」
「マナには幸せな恋愛をして欲しいよ。俺はね。」
「僕がマナを幸せにするから。弟としても。恋人としても。」
「…フフッ。強欲だね。嫌いじゃないよ。君達の幸せをモブとして見守っているよ。俺の大事な妹をバッドエンドにだけはしないでくれよ。」
「任せろ。マナが命懸けで貰ったこの命を一生マナに捧ぐと決めている。そのへんの男達に負けるつまりはないよ。必ず勝ち抜いてハッピーエンドにしてやるから。」