第52話 最後の挨拶
見つけてくれた嬉しさ
見つかったことで、束の間の幸せを終わらせなければいけない焦燥感
色々な感情が渦巻く
「…こんな時間に魔塔までお散歩ですか？アーネルド・マリオ様。何をしにここに？」
「それはもちろん聖女様を探しに。」
「どうして？私はもう…貴方とは何も関係がないでしょう？」
自分で言って自分で傷ついてる
「関係あるのですよそれが。」
「どうして？」
「私の妹のアーネルド・マリアがですね。急に優秀になりまして。大人しくて勤勉でそれはそれは以前よりとても可愛らしく愛らしくて。毎日ストレスを抱えていた以前とは大違いで穏やかで平穏な暮らしをしているんですよ。」
「ほーん？」
私との約束をマリオお兄様は守っているようだ
もしも入れ替わりがあった時は私以上に大事にして欲しいと約束していたから
だがしかし、実際にこうもキッパリと今のマリアが良いと面と向かって煽られると腹が立つ
「その大事な妹のマリアがですね。泣くんですよ。聖女様が行方不明になってしまったことでね。」
「…。」
「大事な妹の為に必死に探して見つけたわけですよ。マナ様。」
「フフフッ。仲良くやってるんだね。」
「本物の妹だからね。」
「私はここで遊んでいたわけじゃないよ？弟が心配で様子を見ながら世話をしていたんだから。」
「そこにいる少年がお前の弟か？」
「そうだよ。マオって言うの。世界一可愛いでしょ？」
「…ほーん。」
「マオ。少しだけマリオ様と二人でお話してもいい？」
「やだ。」
「あら？反抗期？」
「僕のマナだ。赤の他人に渡す気はないよ。」
「そんな話じゃないから。」
「うそだね。マナはこいつから優しくされたらイチコロさ。僕なんて所詮は会ったばかりの新参だ。僕を捨てて逃げるなんて簡単さ。」
「そんなことするわけないでしょう？私達は運命共同体。マオの隣で生きると誓ったはずだよ？」
「…マリアなら僕を選ばないくせに。」
「マリアならね。私はマナ。」
「心がマリアになるんじゃないの？」
「ならないよ。信じて。…今回だけだから。ちゃんと別れの挨拶をするだけだよ。」
「…10分だけね。」
「ありがとう。」
そう言ってマオは部屋から出て行った
「あんな子供を誑かしてるのかお前は。」
「失礼な。ちゃんと弟として接してます。」
「マナになってから一段と魔性力が上がって恐ろしいな。」
「だからそんなんじゃないのに…。」
「早く学園来て攻略対象と恋愛しろよ。この世界崩壊するぞ。」
「わかってるよ…。」
「うそつけ。このまま見つからなければここでひっそりと暮らすつもりだったくせに。」
「…買い物で街には出てたからいつかは見つかると思ってたよ。」
「見つからなかったらここにずっといるつもりだったんだろう？」
「まぁ…そうだけど…。」
パチンとおでこにデコピンをされる
「いたっ！！」
「このアホ！！聖女が行方不明になって学園のみんなは心配していたぞ？どこに住んでるかぐらい報告しろ！」
「そんなことしたらすぐに学園行かなきゃいけないじゃん。」
「ちょっと休んでから行きますって言えばいいだろう！？」
「うるさいなぁ！！誰にも見つからずにここで幸せに暮らせたらいいなぁってちょっとだけ現実逃避してただけじゃん！！世界救ったんだからそれぐらいいいでしょう！？」
「攻略対象と恋愛しないと世界平和にならないだろう！？」
「わかってるよ！でも魔王は倒したでしょう！？」
「なんで一人で魔王倒すんだよ！このバカ！！俺がどれだけ心配したか…。」
「もういいよ！魔王討伐の説教は聞き飽きてるの！！魔王倒せたんだからいいでしょう！？」
「お前がバカだから怒られんだよ！！」
「うるさーーーい！！」
「明日から学園来いよ。迎えに来るからな。」
「ちゃんと行くから迎えはいらない。」
「信用ならん。」
「本当だよ。ちゃんと行く。…私達はもう関係ないんだから。こうやって話すのもこれが最後だよ。」
「…そうかよ。」
優しくしないで
厳しくしないで
マリアに戻らないと誓った決意が揺らいでしまうから
「じゃあこれは最後の挨拶代わりに受け取れ。」
差し出されたのは私が大事に宝箱に入れておいたエメラルドのブローチ
昔、お兄様と買い物に行った時に購入した物だ
このブローチがあれば
入れ替わりがあっても
いつでもマリアに戻れると
私を見つけて欲しくて
ずっと手放さないと決めていた
私がアーネルド・マリアである証のブローチ
手が震えて涙が溢れる
「わ、私は…もう…。」
「お前はエラート・マナだ。パレードの時にお前を見た時に俺は安心したんだ。お前が幸せそうに笑っているのを見て。幸せなんだろう？マナになったことを後悔したか？違うだろう？お前はマリアの時よりもマナの人生の方がずっとずっと幸せになれるよ。絶対だ。俺だってこれからの人生の方がずっと幸せになると約束するよ。だから…このブローチはただの思い出として持っておいて欲しい。俺達の十五年間喧嘩ばかりだったけれど悪くない人生だった。…楽しかったよ。ありがとう。マリア。」
涙が溢れて止まらない
今にもこの優しさに縋りそうになる
「私…大好きでした。マリオお兄様…。問題行動ばかりで困らせてばかりでごめんなさい。十五年間夢のような時間でした。本当にありがとうございました。」
涙でぐちゃぐちゃになりながら話した
「バカ。お前はもう俺のこと赤の他人かもしれないけれど。俺にとっては大事な妹だよ。困ったらいつでも頼りにこいよ。」
思い出のブローチを抱えながら大声で泣き喚くことしか出来なかった
やっぱりお兄様は世界で一番かっこいい
