第49話 尋問
「聖女様がパレードに集まった民衆約三千人を全員白魔法で健康体にさせるほど慈悲深い人間だったとは知りませんでしたよ。さすが一人で魔王を退治して世界平和にしただけはある。いつも自分の体は二の次で他人の為に死にかけることが簡単に出来る。自己犠牲精神が一般人の感覚とは違いますね。さすがは白精霊に選ばれし聖女ですかね。僕はそのせいで連日、王様に呼ばれて死にかけてる君を治療する為に寝ることが許されない程激務だったけれど。三千人の民衆は簡単に助かるのに、君を必死に治療している僕はこんなに苦しんでいるのは理不尽だと思わないかね?聖女様?」
この方はこの国で一番腕のよい医者であり、死にかけた私を何度も治療してくれたスノーという医者だ。
「…申し訳ございませんでした。」
「それは何に対して謝っているのかな?僕の忠告を無視して白魔法を盛大に使って死にかけたこと?それともこの国の医者は君のお陰で患者が少なくなり、休暇が出来て喜んでいるのに私は君のせいで二週間ほとんど寝ずに看病していることに対してかな?」
「…どちらもです。」
「では尋問しようか。どうして白魔法を使った?」
「パレードが初めてだったので…何かパフォーマンスした方がいいかなぁと思いまして…ちょっとテンション上がりすぎて力を使いすぎちゃいましたけど…。禁止されてた一週間は使わなかったからもう大丈夫かなー…とかそんな感じのノリでですね…。」
「ノリで。」
「…はい。」
「国民全員を幸せにするという信念があるわけでもなく。ノリで。」
「…多少はありましたよ?」
「本当か?」
「…なかったです。」
「はぁああああ。聖女様は奇跡の力を持っているのです。無自覚に力を振り撒いてはいけません。そんなことを続けていると誰も救えないですよ。一番救えないのは自分自身です。聖女様は覚醒してから何度死にかけましたか?自分を大事に出来ない人は他人のことも大事に出来ないものです。もっとご自身の体を大事にしてください。」
「わかっています。」
「わかっていないから繰り返すんです。聖女様の大事な弟のマオ君は聖女様が死にかけるたびに大泣きをして心配していましたよ。可哀想にこの二週間でかなりやつれてしまった。」
「わかってる。マオにも謝る。」
「わかってるという聖女様の言葉ほど信じられないですけどね。そう言って私もマオも裏切られてきたのですから。」
「本当に!!もう二度と!!死にかけるような無茶はしません!!約束します!!」
「…マオ君に約束してあげてください。」
「はい。ご迷惑ばかりかけて申し訳ございませんでした。」
「マオ君はとても良い子ですね。」
「世界一可愛い弟です。」
「可愛い弟もう泣かせたらダメですよ。」
「…はい。」
「覚醒した白魔法の力はノリで使ってはいけません。考えて使いましょう。」
「おっしゃる通りでございます。」
「次に王様に呼ばれてまた死にかけの君を治療しろと言われたらそのまま君の首を絞めて殺す。」
「…。」
医者なのにめちゃくちゃこわいこと言ってる…。
「二度と呼ばれないことを願っているよ。」
「私も死にたくないので…。」
「え?そうなの?何度も死にかけてるから死にたいのかと思っていたよ。」
嫌味全開だ。
「あはは…。」
「ちっとも面白くないけど。」
…どうしたらいいんだ。
「さて。やっと治療が終わったんだ。私はやっと家に帰って休むことが出来るよ。」
「本当にありがとうございました。」
「聖女様もやっと学園生活に戻れることが出来るね。」
「そうですね…。」
「あれ?嫌なの?」
「暫くは休もうと思っています。マオが心配ですし。」
「ふーん。じゃあどうするの?」
「二人で旅にでも出ようかと。」
「二人で?大丈夫なの?」
「お金は頂きましたから。」
「…マオを連れて行くのは危険だよ?」
「…でもマオが安全に暮らせる場所がなくて…。一人にさせるわけにはいかないし。私が一緒について見守るしか…。」
「僕がいい場所を知ってるよ。」
「え?」
「紹介してあげる。」