第40話 さよなら。アーネルド・マリア
不思議と心は穏やかだ
心のどこかでは覚悟していたのかもしれない
逃れられない運命なのだと
推理ドラマで見た罪を認めた罪人のような
そんな気分だった
クリスがアルテミスを拘束しようと腕を掴もうとしたが、アルテミスは目には見えているが別次元で生きている存在だ。腕は掴めず擦り抜ける。
「!?」
「初めまして。ハーバランド・クリス。私はこの世界の神だよ。」
「そんな戯言を信じるやつがいると思うのか?」
「信じても信じなくてもいいよ。どうせ私には実体がないんだ。君には僕に触れることさえ出来ないよ。」
「…。」
クリスは凄い目でアルテミスを睨みつける。
「ごめんね。僕が用事があるのは世界最強のヒロインなんだ。ね?華ちゃん。」
「アーネルド・マリアよ。」
「その名も今日までだけどね。」
その言葉に思わずアルテミスを睨む。
「フフッ。睨んだ顔も可愛いね。学園生活一ヶ月か。もう少し長くモブ令嬢のままかと思ったけれど、さすが華ちゃんだね。出会ってから堕とすスピードが違う。」
「おい!マリアとなんの関係が…」
クリスが話した瞬間、アルテミスが魔法でクリスを黙らせて喋れなくさせた。
「ごめんね。今、説明してる余裕はないんだ。僕が実体を保てる時間も限られてるしね。」
クリスが神々しくより一層光始める。
「さて、契約違反により入れ替わり生活は終了です。最後に一言言い残すことはあるかな?マリア。」
フフッ。本当に死刑台に送られる罪人に言う最後の言葉みたいなこと言うじゃん。アルテミス。私のこと最後にマリアと呼んでくれたのは彼なりの慈悲だろうか。
「ありません。この十五年間。本当に毎日が夢のような時間でした。入れ替わってくれた葉月ちゃん。入れ替わりをしてくれたアルテミス。そしてアーネルド・マリアを愛してくれたアーネルド家に感謝します。私のアーネルド・マリアとしての人生これ以上ない程幸せでした。悔いはありません。みんな私の我儘に付き合ってくれてありがとうございました。」
「さすが最強ヒロイン。恨み言の一つぐらい言うかと思ったのに。」
「恨むことがあるとすれば自分のヒロイン力かな。」
「ハハッ。たしかにね。…華ちゃんはモブ令嬢じゃなく、最強のヒロインなんだ。元の姿に戻ることをどうか怖がらないで。前世では恋も知らず、辛い記憶の方が多かったヒロイン人生だったけれど、今世はきっと大丈夫。華ちゃんは素敵な恋人と一緒にハッピーエンドでこの世界を生きることになる。その為にこの世界が作られた。どうか幸せな恋愛を今世では出来るようにね。」
ポロポロと涙が溢れ落ちる。あぁ。本当に終わるんだ。
パァッと光が私を包み込む。
「じゃあ元の姿で、また会おうね。」
「うん。さよなら。アルテミス。」
さよなら。アーネルド・マリア。
光に包まれて眩しく何も見えない状態になった。
光が収まり、目を開けるとそこは一度だけ入った部屋にいた。葉月ちゃん…エラート・マナ。この世界のヒロインであり、聖女の部屋だ。
目の前に鏡があり、姿を確認する。前世と変わらない佐々木華の姿そのものだった。
「うぅ…うわああああああああああん!!」
感情がぐちゃぐちゃになる
アーネルド家のみんなには二度と会えなくなるのかな
マリオお兄様はもうお兄様じゃなくなっちゃったな
Bクラスの生活も楽しかったのにな
茶道部だってみんなくだらないお話しもっとしたかった
葉月ちゃん…ごめんなさい
葉月ちゃんの人生めちゃくちゃにしてしまった
葉月ちゃんだってエラート・マナとしての人生を手放したくなかっただろう
私のせいで…
“ 魂の入れ替えがあった後、誰も幸せになんかなれやしない”
“ あんたは攻略対象に惚れられて関わった人間全員を地獄に堕とすことになる”
社交界デビューパーティの日。原田さんに言われた言葉が脳内に響きわたる。
「ハハハ…。何が最強のヒロインよ。この世界の魔王の間違いじゃないの…。」
急に白い光が大量に身体中から放たれた。
「ひゃ!!何これ!!」
よく見ると見覚えのある光だ。白精霊の光。私が元に戻ったから…覚醒したんだ。白精霊達が喜んでる。力が溢れ出てくる。
私は覚醒した力を手に入れて王城へ向かった。
王城の入口にいる門番に話しかける。
「すみません。この世界の聖女です。力が覚醒したので今から魔王退治に行ってきます。王様に伝えておいてください。」