第39話 ゲームスタート
音楽室への足取りが重い。
モブ令嬢生活が終わるかもしれない。
もはや動機や震えはなく、諦めモードに入っていた。
頭に流れるのはドナドナの曲。
私は売られてもう帰ってこれないんだ…。
クリスは私ではなく、本当に曲が気になっているだけかもしれないという一縷の望みに掛けるしかない。
いや、まだわからない。
私とクリス様が話したことはついさっきが初めてだ。
何でそんなに興味を持たれたのかは謎だけど、思ってた人間と違ったと落胆させることは可能なはず。
何を望んで私に会い来たのかはわからないけれど、惚れさせなければいいだけ。
大人しくてつまらないモブ令嬢を完全に再現出来れば問題ないはず!
とうとう音楽室に到着した。
ガラッと扉を開けるとバイオリンや管楽器、金管楽器、打楽器がずらりと豪華に並んでいて驚いた。
「わっ。凄い…。」
思わず言葉にしてしまった。
「音楽室に入ったのは初めてか?スカーレット学園には音楽の授業は選択科目だが、オーケストラ部は有名だからね。」
「そうなんですか…。」
「楽器は好き?」
「ピアノは少し弾けます。バイオリンも習いましたが、才能がないのか下手くそですね。」
音楽室のピアノはグランドピアノだ。久しぶりにピアノを見てテンションが上がってしまった。ピアノは前世からやっていた。前世の頃は小学生の頃からやっていたこともあり、ある程度のレベルなら弾ける。葉月ちゃんは芸大に受かるレベルで凄く上手かったけれど。葉月ちゃんはオーケストラ部に入ってるのかな?
「弾いてみたい?」
「え?いいんですか?」
「スカーレット学園の物だし、誰が弾いても自由だよ。」
「じゃあせっかくなので弾き語りしますよ。」
「弾きながら歌えるのか?」
「簡単な歌なら。あの…私何を歌っていましたか?覚えていなくて。」
「幸せはー歩いてこないーって歌っていた。」
「フフッ」
思わず笑ってしまった。
「その歌を気に入ってわざわざBクラスまで尋ねて来たんですか?」
国の王子様なのに愉快な歌が好みなんだ。変なの。
「その曲は途中まだしか覚えてないんですけどいいですか?」
「…ああ構わない。」
ポーンとピアノの音を確認する。
綺麗。調律もしっかりされていて、音色が綺麗に響く。
気分よく歌えそう。
「幸せはー歩いてこない
だから歩いてゆくんだねー
一日一歩 三日で三歩
三歩進んで 二歩さがる
人生は ワン・ツー・パンチ
汗かき べそかき 歩こうよ
あなたのつけた 足あとにゃ
きれいな花が 咲くでしょう」
前世の頃に遊びでよく弾き語りをしていた曲だから久しぶりだけど意外とスラスラ弾けたな。
ピアノはやっぱり楽しいなぁと満足感に浸っていて忘れてた。
あれ?やばい。これって私の人生かかってるんじゃなかったんだっけ?
目の前のピアノに興奮して忘れてた。
クリス様の反応が怖くて恐る恐る見ると何故か固まっていた。
あまりのお粗末なピアノと歌に絶句したのか?
まぁいいや。惚れられた様子ないから成功したのかな。よかったピアノ下手くそで。
でも失礼すぎるよね。リクエスト通りに弾き語りしたのに。社交辞令で褒めるぐらいしてくれればいいのに。
「あのー…」
私がクリスに話しかけてもう帰っていいか尋ねようとしたその時
ガラガラガラッ
突然、音楽室の扉が勢いよく開いた。
「今!!弾いてたの!!誰!?」
扉を開けて入ってきたのはポーランド・ニック。バイオリニストであり、このゲームの攻略対象者だ。
私がピアノの目の前で座っているのを確認して走り寄ってきた。
「ねぇ!!今の曲なに!?初めて聞いたけど!」
「えっと…あの…アーネルド家から代々伝わる歌でして…」
「凄い!他には?他にも伝統的な曲とか知ってるの!?」
なんだこの食いつきは…
クリスといい、ニックといいこの曲の虜になりすぎだろう。
この曲そんなにこの世界にどハマりしているのか?
他の曲?弾かないとダメな流れなのか?
なんで攻略対象者二人に増えたんだよ!!
もうパニックだよ!!わけわからん!!
童謡系とかJ-popはこの世界で刺さる何かがあるのか?
何を弾けば正解なの?
クラシック?あんまり覚えてない…
もうめんどくさい!!
「じゃあ私のお気に入りの曲を…」
私が弾いたのは前世でよくやったゲームのミュージックだった。ロックでかっこよくて私が大好きでよく弾いた曲。久しぶりに弾いてもやっぱりかっこいい。
私が弾き終えたその時
「ブラボー!!!素晴らしいよ!!君!!名前はなんて言うの??是非オーケストラ部に入らないか!?」
ニックは跪き、私の手を握り部活勧誘をしてきた。
「私は茶道部なので…」
「兼部でも構わないからさ!!ピアノ好きなんだろう?一緒にオーケストラやろうよ!!」
思わぬ伏兵に焦りが止まらない。
まずい。めちゃくちゃ気に入られてしまった。
「ピアノは趣味で弾くだけなので…って…うわ!!」
私は突然、クリスに抱き抱えられる。抱き抱えるというか肩に担がれているというか。
「え!何するんですか!?降ろして下さい!!」
そう叫んだが、私を抱えたまま音楽室を出てスタスタと歩いていく
廊下でたくさんの生徒とすれ違う
皆が何事?と驚いた目で私達を見る
「あの?クリス様?どこに行くんですか?私自分で歩きますから!降ろしてくれませんか!?」
必死に訴えるが無視される。
仕方がないので風魔法で逃げようとすると
「抵抗するな。話をするだけだ。大人しくしろ。」
「せめて一人で歩かせてください。」
「ダメだ。抵抗をすれば怪我なく制止することは難しい。大人しくしろ。」
「…。」
それは私が怪我をしてでもどこかに連れて行かれるってこと?
なに?
何処に連れていかれるの?
犯罪でもした?
無礼だったから投獄される?
逃げようとしても無理やり捕獲すると宣言されている以上暴れることはやめた方がいいのか?
話し合いと言われているから大人しく従うことにした。
クリスは学園からも出て行き、どこへ向かっているのかますますわからなかった
「え…」
着いた場所は男子寮だった。
私はクリスの部屋に担ぎ込まれてそのままクリスのベッドへと放り投げられた。
クリスは部屋に鍵をかけて部屋にある椅子に座った後、頭を抱えだした
「あの…どうしました?頭痛いんですか?」
「うん。頭も痛いし、胸も痛い。」
「医者を呼んだ方が…」
「いやだ。マリアと二人がいい。」
こわい。心臓の動悸が激しくなる。聞きたくない。やめて。私まだ何もしてない…
「どうして私なんですか?今日初めて話ましたよね?」
「どうしてだろう。何故こんなに惹かれるのだろう。わからない。でも…マリアが好きだ。」
「ゲームオーバーだね。華ちゃん。」
嬉しそうに微笑んでいる。この世界の神様は神々しく光を放ち、今回は実体の状態でクリスの部屋に現れる
「アルテミス…」
「いや、寧ろゲームスタートかな?華ちゃん!?」




