第36話 接触
まさかの攻略対象、クリス様との遭遇に頭がまっしろになってしまい目を合わせたまま硬直してしまった。
「クリス様。お久しぶりです。」
お兄様が冷静に丁寧にお辞儀をして、挨拶をしている。
その姿を見て私も慌てて頭を下げてお辞儀をした。
そしてお兄様を盾にして後ろに隠れる。
「早朝に兄弟揃って何をしている?」
「妹のマリアが美化委員会の水やり当番でしたので。早朝に水やりをしていました。」
「毎朝やるのか?」
「他のクラスと交代で当番制です。」
「次は?」
「はい?」
「次の当番の日はいつだ?」
「…どうして次の当番の日を気になさるのですか?」
「私もアーネルド兄弟と美化委員の手伝いをしようと思っただけだ。」
「残念ながらマリアは恥ずかしがり屋なもので…他の美化委員と水やりをした方がいいと思います。」
「今も社交界パーティでもそうやって兄の後ろに隠れていたな。」
「はい。無礼で申し訳ございません。」
「もったいないな。可愛いのに。」
“可愛いのに”という言葉に恐怖して体が震え出した。
思わずお兄様の背中の制服をギュと掴む。
突然お兄様は風魔法を使い、私とお兄様を風で屋上まで運ぶ。
屋上に着地した私達は思わず抱き合う。
二人とも震えていた。動悸がする。涙も出てきた。怖くて涙を流したままお兄様に抱きつく。
お兄様は震えた声で
「お前は…まだマリアか…?」
その言葉に私は大粒の涙を流す。
「はい!お兄様!!私はマリアです!!」
泣きじゃくりながら私は答える。
二人で泣き喚きながらしばらく抱き合っていた。
数分後、落ち着きを取り戻して状況を整理する。
「クリス様とはもう二度と接触しないようにしなければならない…。美化委員の仕事は危険だ。これからは俺が一人でやる。」
「でも今まで報告とか美化委員の時にしてたのに…。これからはどこで会うの?」
「放課後図書室で会おう。」
「…わかりました。」
「今日は危険すぎる。このまま女子寮へ送る。体調不良ということにして一週間部屋から出るな。」
「一週間も?」
「もう二度と出てこなくてもいいし、アーネルド家に帰ってもいいぞ。」
「そんなこと出来ませんよ。アーネルド家の評判が下がってしまいます…。」
「評判が下がることぐらいどうとでもなる。俺がなんとかする。だから気にするな。」
「私だってアーネルド家の一員…」
「次にクリスと出会えばお前はアーネルド家ではなくなるかもしれないんだぞ!?」
「…大丈夫です。私はモブ令嬢ですから。上手く出来ます。」
「絶対大丈夫じゃない!!お前は自分のことを何にもわかっちゃいねぇ!!」
「大丈夫です。接触しないように心掛けますし、もし接触しても上手くやります。信じてください。」
「信じられない!もう部屋から出るな!!」
「一週間部屋に籠って作戦を考えます。私はアーネルド家の一員ですから。頭が冴えているんですよ?」
「うそつけ…お前はずっとバカだよ…。」
お兄様がポロポロとまた涙を流し始める。
「クラスも違うし、近づけるタイミングなんてないですよ。美化委員もお兄様に任せますし、もう二度と会うことはないですよ。一週間もすれば私のことなんて忘れてますよ。」
「…俺は今日クリス様に探りをいれてくる。心配するな。お前はずっと俺の妹だ。」
「ありがとう。お兄様。やっぱりお兄様が世界一かっこいい。」
私は泣き腫らした目で微笑む。
その後、私はお兄様に女子寮へと送って貰った。