第35話 ハーバランド・クリス
ハーバランド王国の一人息子として生まれた。
俺の名はハーバーランド・クリス。
国の王子として教育を受けてきた。
将来この国を守る王となる為に。
王国の教育は厳しいものだったが、高度な教育を受けることは恵まれている証拠だ。
それに俺は他の人間とは違う。この国の王様になる。
だから泣き言一つ言わずに全てをこなしていた。
毎日、休む暇もなく。この国の為に勉学、剣術、体術、魔術、社交界。政治まで。全てを学んだ。
十五年間。俺は王になる為に毎日を捧げた。
だが、俺も規則によりスカーレット学園に入学する。
王城以外の生活。学園生活。寮生活。
正直言うと、とても期待していた。
スカーレット学園には貴族の身分の差関係なく接すると言うルールがある。
だから俺にも身分の差がない友人が出来るのではと思っていた。期待していた。
しかし、そんなことはなく。
貴族達は俺を王子様としてしか扱わない。
社交界のパーティと何も変わりのない。
上辺だけの笑顔。上辺だけの付き合い。
つまらなかった。退屈だった。
なんてことはない。身分の差をなくすというルールは下の身分が差別されないようにするルールにすぎなかったのだ。
上の身分には何も意味もないルールだった。
とてもがっかりした。
俺は思っていたより学園生活というものに憧れを抱いていたようだ。
貴族達は変わらない上辺の関係しかなかったが、一人だけ妙な絡み方をしてくる奴がいる。
聖女だ。
入学式にハンカチを聖女に拾われてお礼を言った時、顔は笑っていたが目は笑っていなかった。
敵意のような。そんな目で見られた。
初めて会ったはずなのに、敵意を向けられていい気分はしなかった。
聖女は庶民だ。王政に不満でもあるのだろうか。庶民は苦労が多いから敵視されているのか。
その後も敵意は剥き出しだが、話かけてきたり、何かと接触してしようとしてくる。
何が目的なのか。弱味を握ろうとしているのか。
顔は可愛らしく美人のくせに不気味だった。
変わったことといえばそれぐらいで、俺は社交界の様子と変わらない学園生活を退屈に感じていた。
学園生活が始まって一ヶ月後、早く起きてしまい部屋でやることもないので学園へ向かった。
早朝の学園は誰もいないと思っていたが、中庭に人がいた。
女と男の二人で仲良く談笑をしていた。
こんな朝早くに二人きりで逢瀬をするバカなカップルかと思ったが、よく見るとアーネルド家の兄弟だった。
妹のアーネルド・マリア。
社交界デビューのパーティでは兄の後ろに隠れて一言も話さなかった陰気な女だったが
今、目の前にいる彼女は満面の笑顔で笑っていた。
屈託のない笑顔。
純真無垢。
羨ましかった。俺は生まれてから一度でもあんな風に笑ったことがあるだろうか。
彼女は俺が憧れていた学園生活を送れているのだろうか。
彼女と仲良くなれば
俺もあんな風に笑えるようになるだろか
普通の学園生活。俺が手に入れたかったものが手に入るだろうか。
彼女の笑顔にどうしても惹かれた
何故か確信めいたものがあった
彼女なら俺を王子様としてではなく
学園のクラスメイトとして接してくれるだろうと
俺は声をかける
「何をしている?」




