第34話 理想のモブ令嬢ライフ
私はお兄様のいいつけを守り、美化委員と茶道部に入った。
私はその後、攻略対象達と話すことはおろか、接触することもなく一ヶ月が過ぎた。
私の生活は平々凡々そのもの。
まさに理想的な求めていた学園生活だった。
クラスの友達と普通に談笑をして
クラスの男子から特別扱いされることもなく
もちろん消しゴムを拾っただけで惚れられるなんてこともなく
ありふれた普通の生活を手に入れた。
クラスの男子達からはなんでお前のお兄ちゃんあんなに過保護なの?と揶揄われるぐらいだ
こんな平々凡々なくせにと
最高だ。
普通に話しかけるだけで
惚れられることもなく
嫌われることもなく
普通に接してくれる
私は理想のモブ令嬢ライフを手に入れていた。
茶道部は弱小部だが、お茶とお菓子を食べながら女子トークをすることはとても楽しかった。
茶道部のみんなで推しメンについて話し合うことが日常になっていた。
攻略対象達が推しメンであることが多いなか、アイ先輩の推しメンはなんと私のお兄様である。
お兄様は学年トップで雷使いのツンデレという属性もりもりなのだ。
攻略対象達と比べると平々凡々な顔立ちをしているのにやりおる。お兄様にはファンが多いらしい。
モブキャラのくせに目立っているのはお兄様の方だった。
私も推しメンを聞かれて悪役令嬢のフォレスト・ローズと答えた。
美人でかっこよくて憧れだと話したら凄く盛り上がってくれた。
そんなたわいもない雑談が出来ることがとても嬉しかった。
今日は美化委員の日。お兄様と水やり当番をする。
「何もないか?」
「特になーし!!平和な日常が続いてるよー。」
「一か月何もなかったぐらいで油断するなよ。最近全然大人しく過ごしてないじゃないか。」
「えぇ…。いいじゃない誰とも接触してないんだから。」
「どこで見張ってるかわからないからな。」
「モブ顔のモブ令嬢を追っかけるような物好きはいませーん。」
「俺はいる。」
「お兄様は世界一かっこいいですから。」
「お前も気をつけろ。」
「大丈夫だって!私は学年トップでも雷使いでもない属性ゼロのモブ令嬢なんだから。強いていうならシスコンのお兄様がいるという点だけだよ。」
「誰がシスコンだ!」
「毎回妹の水やり当番に来ておいてよく言うよ。」
「生存確認してるだけだ。」
「私じゃなくなったら寂しい?」
「そうじゃなかったら今ここにいない。」
なんてこった。急な大大大デレに胸キュンが止まらない。
思わず心臓を抑える。
「ハァハァハァハァ、、、。急にどうしたんですか!?尊死するところでしたよ、、、。」
「相変わらず気持ち悪いなお前。」
なんだこのお兄様は攻略対象達にも負けない魅力が絶対ある。お兄様推し達は見る目がある。我が兄ながら恐ろしい男だ。
「モテモテで自慢の兄ですよ。」
「モテてもいいことあんまりないけどな。」
「まぁそれには同意だけど。何?困ってることでもあるの?身の回りの物全て真似されてお揃いの物に揃えられたり、嫉妬されて物を隠されたりとかでもした?」
「…そんなことはない。お前の前世の話か?」
「まぁね。よくあることだよ。」
「大丈夫だったのか?」
「大丈夫じゃなかったから今モブ令嬢になったんだよ。今は最高。理想の生活を手に入れてる。葉月ちゃんには頭上がらないよ。」
「そうだな。」
「白魔法のこと解決しそう?」
「まだわからない。白精霊に好かれることが一番近道だろうけど…。」
「難しいね。まぁまだまだ先の話だし、今は今の生活を楽しもうよ!」
「先延ばしはよくないぞ。」
「いいじゃん!こんな歌もあるし!」
私は踊りながら歌い始める
「幸せは〜歩いてこない
だ〜から歩いていくんだね〜
一日一歩!三日で三歩!さ〜んぽ進んで二歩下がる〜
じ〜んせいは!!ワンツーパンチ!!」
「何をしている?」
急に声を掛けられた。その人はこの国の王子様。ハーバランド・クリス。ゲームの王子様枠の攻略対象だ。