第316話 世界一かっこいい男
俺はマナに振られて
クリスがマナに選ばれた
誰がどう考えてもクリスを選ぶなんて思いもしなかった
マナはクリスがいつもくっついて歩くのを心底鬱陶しそうにしていたし
あんなに優しいマナをクリスはよく怒らせていた
それなのにクリスが選ばれた
マナはよく“かっこ悪い人が好き”だとか言っていたが
男の趣味が悪いなと誰もが思ったことだろう
何故負けたのか全くわからない
俺の方が圧倒的にいい男なのに
選ばれなかったという事実は想像以上に辛かった
喧嘩ばかりしていたはずの2人が
マナがクリスのことを愛おしそうに見つめている姿を見る度に
胸が張り裂けそうなほど辛かった
マナを好きになって振られた人間が狂っていって不幸になっていったという話をマナはしていたが
そいつらの気持ちが痛いほどわかってしまった
振られた後は以前のように仲良く話すことも許されない
恋人がいるのに下心がある男と友人関係でいることはマナー違反だとマナは考えているからだ
距離を置けば、諦めてくれる
そう思っているのだろう
しかし現実はそうはいかない
距離が遠いなるほどおかしくなっていく
あんなに幸せな日々を過ごしていたのに
急に何事もなかったかのように他人のような距離で話される
近くにいることを許されず
諦めることしか許されない
心が破壊されて頭がおかしくなり
嫉妬でクリスを陥れてやろうかと何度も企んでしまう
でも…それではダメだ
マナが悲しむから
“私を好きになった人は不幸になるの”
と不安な顔で言っていたマナを失望させてしまう
“俺はマナを好きになって幸せだ”と証明しなければいけないんだ
マナを悲しむことは絶対にしたくない
幸せにならなければいけない
でもどうやって?
マナが離れていく世界で俺はどうやって幸せになるのだろうか
わからない
“私、卒業したらキッカ国に留学しようと思ってるんだ”
といつだったかマナと放課後、学級委員の仕事をしている時に教えてもらった
驚いた
マナはクリスと結婚して王妃になるものだと思っていたから…
少し探りを入れるとマナは王妃になることがプレッシャーでやりたくないように見えた
チャンスだと思った
今はクリスが選ばれたけれど
別れた後なら俺にもチャンスがある
彼氏にはなれなくても
人生のパートナーとして結婚相手に選んで貰うことは出来るかもしれない
俺と結婚すれば王妃になるようなプレッシャーなんてない
貴族社会が嫌だというなら参加させなくても構わない
マグタリア家の屋敷でずっと穏やかに過ごしてくれたらそれでいい
俺は公爵家だから家業を継ぐ準備はそんなに急がなくてもいい
マナとキッカ国に一緒に留学をして愛を育み、婚約して、結婚する
俺なら出来る
必ず
まだ俺は負けていない
絶対に取り戻してみせる
マナに文化祭のアイドルステージを一緒にやらないかと言われたが断った
マナの力を借りずにアイドルステージを成功させるぐらいに成長出来なければキッカ国に留学なんて出来ない
俺が作曲とボーカルを担当して、演奏は軽音学部に任せることにした
作曲のやり方はマリアから学んだ
俺の幼馴染であり、マナとは前世からの友人だ
前世の世界の記憶があるマリアからアイドル楽曲のことを学び、作曲していった
前世の世界にはコードというものが存在していてそれをベースに曲を作るらしい
マリアが前世のアイドル曲をピアノで弾き語りをしながらたくさん聴かせてくれた
曲を作るということは想像以上に難しく、苦戦したが、満足いく楽曲を作ることが出来た
クラシックが主流のこの世界に新しい音楽を認めさせる
全世界に俺の音楽を認めさせることが出来ないなら
マナを手に入れることなんて夢のまた夢だ
作曲に時間をかけてしまったので、歌う練習と踊りの練習は少なくなってしまった
踊りの振りを入れることも1から作り出すことは難航した
初めのことばかりだが、成功すればマナに近づくことが出来ると信じて頑張ることが出来た
“全てを魅了しろ”
“目があった人間を全て惚れさせろ”
“誰よりも輝くアイドルになれ”
とマナが昨年練習中によく言っていたことを思い出す
マナがアイドルとしてステージに立つパフォーマンスは完璧だった
全ての人間を虜にする
全人類を魅了する力を持っていた
白魔法なんかよりも美しく恐ろしい力をマナは持っていた
俺も必ず手に入れる
世界一かっこいい男になって
マナを手に入れてみせる
今日はいよいよ文化祭
俺のアイドルステージワンマンライブが始まる
衣装はマリアが手作りで作ってくれた
「俺を世界一かっこよくしてくれる衣装なんて抽象的な注文だったのに、注文通りかっこいい衣装を作ってくれてありがとう。マリア。」
「レックスが世界一かっこよく輝けるように徹夜して作ったのよ。感謝してよね。」
「本当にありがとう。俺は最高の幼馴染を持って幸せだよ。」
「フフッ。あれだけ頑張っていたからね私を気合い入れて作ったわよ。絶対成功出来るように願いを込めてね。」
「任せろ。全人類俺に惚れさせてやるから。」
「相変わらず凄いナルシストね。」
「これはマナの教えだよ。目があった人間全員を魅了しろってね。」
「あーぁ。マナちゃんはみんなのアイドルだったのに。あんな最低最悪な男に取られるなんてね。」
「本当にな。マナは男の趣味が悪いよな。」
「幸せそうにしてるから言えないけどさ…絶対やめた方がいいよ。あんな自己中な男。」
「俺の方がいいよな。」
「レックスもやだ。」
「誰ならいいんだよ。」
「言ったじゃない。マナちゃんはみんなのアイドルであって欲しかったってさ。この世界の神様が恋愛させなければマナちゃんはずっとみんなのアイドルでいてくれたのになぁ…」
「そうかな。マナはいつかは誰かを選んでいたと思うよ。世界のルールがなくてもね。」
「ふん。私、同担拒否なの。マナちゃんは私だけのものであって欲しいから。誰かと恋人になるなんて絶対嫌!!」
「マナが幸せそうでも?」
「それでも嫌なものは嫌ー!!よりによってクリスなんかと…生徒会室でイチャイチャしてる姿を見る度にイライラが収まらない!!私の脳内ではクリスはもう一万回ぐらい殺してるわよ!!」
「仲を引き裂こうとは思わないのか?」
「めちゃくちゃ引き裂きたいのは山々だけど、マナちゃんが悲しむから出来ないのよ!!」
「わかるよ…」
「可愛いマナちゃんを独り占めしてるなんて本当ずるい!!」
「諦めるのか?取り戻そうとは思わないか?」
「諦めるわけないじゃない!絶対マナちゃんの目を覚させて取り戻してみせるんだから!!」
「…ハハッ。俺もだよ。諦められない。絶対に取り戻してみせる。」
「このステージで?」
「ここで惚れさせることは難しいと思う。でも…少しでも俺をもう一度見てくれるようにするんだ。」
俺は世界一かっこいい男になって
全世界を魅了する男になる
マリアに背中を押されて俺はアイドルステージへと向かう
大勢の観客の黄色い声援が飛び交う
その中に…マナの姿もみつけた
一生懸命手を振って声を出して応援してくれている
マナが応援してくれているという事実に俺のテンションは爆上がりした
俺はアイドル
ここにいる人間を全員魅了するんだ
曲が始まり、俺は歌って踊ってパフォーマンスをする
誰よりもかっこよく
誰よりも美しく
俺に惚れない人間なんていない
足のつま先から頭のてっぺんまで
全て仕草に意味を持たせろ
ただ歩くだけでも魅了させろ
この声が届く全ての人間を虜にさせろ
囁くような美しい声で
魂まで魅了するような叫び声で
俺を見ろ
全人類俺を見ろ
俺は世界で一番かっこいい男だ
全てのパフォーマンスを終えて大歓声の声援と拍手に包まれた
汗だくになりながら俺はマナの方を見つめると
「レックスー!!世界一かっこいいよー!!」
と叫んでいるマナの姿が見えた
今はまだマナの恋人にはなれないけれど
マナの世界一かっこいい男にはなれた
俺はまだ諦めてない
必ずマナを虜にさせる
マナと結婚するのは俺だ
俺はマナにハートマークを作ってファンサービスをする
少し照れて笑うマナは世界一可愛かった




