第308話 作戦実行
“モモフル国の次期王になりませんか”
普通の日常が嫌だった俺にとって
一国の王になれるということはまたとないチャンスだ
俺のようなモブ人間は卒業すれば実家のシガーレッド家を継いで、普通の日常に戻るしかなかった
新聞部としての活動は非日常そのもので辛いことやしんどいこともたくさんあったけれど
何より刺激的で楽しかった
こんな非日常がずっと続けばいいのにと願っていたけれど
所詮俺は一介の貴族でしかなく学園生活の3年間だけが夢のような非日常を過ごす大事な思い出になると思っていたのに
こんな話が舞い降りてくるなんて
幸運でしかない
政治のこととか
血筋のこととか
この国のことも何も知らないけれど
俺の答えはYES以外あり得ない
だって王様になれるなんて
モブなんてもう誰にも言わせない
ずっと憧れていた特別な存在へと俺はなれるんだから
「さて。どうしますか?アレクサンダー。」
これからモモフル国の国家を乗っ取る為に作戦会議をしているスリー様が俺に質問をする
「俺が決めるんですか?スリー様やレナ様の方がどうすればいいかなんてわかるじゃないですか。」
「私達は次期王であるアレクサンダーの駒ですから。首謀者はアレクサンダー貴方でなければいけない。だからアレクサンダーが方針を決めるんです。」
「方針を決めることが1番重要だからこそ何もわかっていない俺に任せるべきではないと思いますが。」
「アレクサンダー。王になるということはこういうことです。貴方の命令でモモフル国の王家もアーリア魔女一派も全て殺せと言うなら実行します。責任を負うのはアレクサンダー貴方です。」
「嫌な役割を押し付けただけじゃないか?」
「私にとっては嫌な役割です。でもアレクサンダー貴方にとっては王になるという話はとても魅力的でしょう?」
「モモフル国を壊滅させたいけれど、スリー様が首謀者であり実行者であると都合が悪いんだな。」
「私はハーバランド国に雇われている身ですからね。私が全て実行すれば国際問題になりかねない。でもアレクサンダーは違う。誰にも雇われていない自由の身だ。この国の現状に嘆いて自らこの国を救うことにした英雄になるんだ。」
「俺はそんな善人ではないよ。」
「国家を乗っ取り、次期王になるストーリーは美談であるべきだろう?国民も感情移入しやすい。」
「全員皆殺しにする次期王なんて恐怖しかないのではないか?」
「そう思うなら別の策で指示してください。アレクサンダーの指示に従います。」
「アドバイスしてれよ。」
「マナ様の脅威に今後もなりそうなバカな輩が多そうなので全員皆殺しにすることをオススメしますね。皆殺しにしても国民は国家を憎んでいるから喜ばれると思いますよ。」
「レナ様は?どう思いますか?」
「めんどくさいから全員殺そう。生き残ってもうるさそうだし。」
「…エド様はどう思いますか?」
「私に聞くな。絶対に関わりたくないよ。」
「そうですか。よくわかりました。みなさんはこの国の今後のこととか全く考えていないということが。スリー様はマナ様の復讐をすることしか考えていないし、レナ様はエド様と一緒にいられる時間が減らされて機嫌が悪いだけだし、エド様はスカーレット学園でつまらない情報収集をすることが好きなだけです。」
「マナを苦しめた奴なんて生きる価値があるわけないだろう?」
「さっさと終わらせてエド様とデートしたい。」
「学園生活のつまらない情報が1番面白いんだよ。こんな他国の政治状況なんて全く面白くないね。」
「チームに纏まりがなさすぎますね。」
「貴方が纏めるんですよ。首謀者アレクサンダー。」
とスリー様が言う
「…全員生け捕りにしよう。」
「正気ですか?生かすと?」
「殺して手に入れた地位には復讐の名がつく。俺達は復讐ではなくモモフル国を今後良くする為に乗っ取るんだ。許すわけではない。罪は償わせる。」
「生かしてどうするのですか?」
「とりあえず全員牢屋に入れよう。」
「牢屋で何をさせるんですか?」
「労働。」
「…なるほど。国民に強いたことをやらせることで償わせると。」
「死んだ方がマシだったと思うぐらい働かせるからそれでいいだろう?」
「わかりました。いいでしょう。全員牢屋にぶち込みます。殺すより難しいんですからね。」
「ありがとう。スリー様。」
「さて。方針は決まったので実行の作戦会議をしますか。」
そう言ってスリー様とレナ様が作戦を立てる
レナ様はどこにいるか全て把握出来るので全員の位置情報をスリー様に伝えた後
スリー様が正面突破して、土魔法で地面から蔦を操り全員を牢屋に入れていく
もし、逃した奴がいればレナ様が把握出来るので逃した奴らはレナ様が捕まえる
「スリー1人で大丈夫なのか?相手も攻撃してくるだろう?スリーがやられてしまったら…」
「ご心配なく。私は全魔法を使えるし、ドラゴンだって呼べるんです。ピンチになったらうっかり殺してしまうことはあるかもしれませんが、私が倒れることはありえません。」
「…殺さないようにな。」
「わかっていますよ。次期王アレクサンダー。」
そして作戦は実行された
俺の心配は全く杞憂であり
スリー様は1人でモモフル城を傷1つなく歩きながら次々と捕らえていった
逃した奴らは1人もいないのでレナ様の出る幕もなかった
モモフル城の王家も使用人も全員牢屋に入れた後
魔女アーリアの魔女の家にもそのまま行って作戦を実行する
「お前が聖女になれるわけないだろうが…お前のくだらない思想のせいでマナは苦しんだんだ…」
魔女アーリアの首を蔦で締め上げてスリー様は怒りを込めて言う
「ぐっ…がっ…」
魔女アーリア苦しんで今にも死にそうだ
「やめろ。俺達は復讐しに来たんじゃない。」
と俺はスリー様を止める
「…生きる価値なんてない。こんなやつに食糧を与えて生かす理由なんてない。」
「あるよ。それにマナは基本的に殺しは望まない。自分のことは特に。」
「…。」
スリー様は首を絞めることをやめてそのまま魔女アーリアも牢屋へと入れた
魔女一派も全員捕えることに成功して
俺達は1度宿へと戻った
恐ろしい光景を見た
スリー様は敵に回してはいけない人物No. 1だ
本当にたった1人でこの国の国家を乗っ取ってしまった
普段穏やかな人が怒ると恐ろしい
宿に帰り、マナ様の様子を見に部屋へと向かった
マナ様はスリー様に泣かされた後、部屋で眠ってしまったらしい
「全員殺したか?」
とクリス様が言う
「いいえ。全員生かして捕らえています。」
「何故?」
「マナ様は殺したと言えば悲しみますから。一応捕らえています。マナ様が望むなら全員いつでも殺しますよ。」
スリー様…俺が全部判断していいって言ったくせに
マナ様の言うことが最優先なんですね…
「…マナの元気がない。今は心労を与えることはしたくない。」
「はい。こちらでこの国の問題は処理しますから。マナ様にはゆっくり休んでもらってください。」
「マナが目を覚ましたら俺と一緒にハーバランド国へと帰る。この国はマナにとってストレスだ。」
「承知致しました。お気をつけてお帰りください。」
マナ様が話し声に気づいたのか目を覚ます
「マナ。大丈夫か?」
とクリス様が声を掛ける
「大丈夫だよ…ありがとうクリス。」
寝起きだからというわけだけではなく
マナ様はいつもより元気がない
何度倒れても毅然とした態度だったマナ様が珍しい
「マナ。モモフル国は危険だから俺と一緒に先にハーバランド国へ帰ろう。」
「え?で…でも…」
「マナにまた危険な目に遭って欲しくない。」
「森の龍が私を呼んでるの…」
「大丈夫だよ。この国の問題が解決すれば森の龍も元気を取り戻す。心配しないで。」
「…。」
「もう疲れただろう?さぁ。帰ろう。」
「…わかった。」
マナ様はベッドから降りる
俺は思わずマナ様の手を握って止める
「…何?」
「マナ様。俺、モモフル国の次期国王になることになったんです。」
「え!?そうなの!?おめでとう!!…でいいんだよね?」
「はい。ありがとうございます。」
「あはは。私よりも有名人になっちゃうかもね!」
「はい。マナ様のおかげです。」
「私は何もしてないわよ。」
「いいえ。マナ様のおかげなんです。だから…少しだけ。新聞部の部員としてではなく、マナ様の特別な友人として少しお節介を言いたくて。」
「…何?」
「俺はずっと疑問だったんです。マナ様は努力しなくても守って貰えるし、幸せになれるのに何故意味のない努力をするのか。」
「…。」
「でも…マナ様をずっとずっと見ていて気づきました。自分の自信を持つ為に努力しているんだって。でも何の為に自信をつけようとしているのか。努力しているのか全然分からなかった。でも…今ようやくわかりました。」
「何でだと思ったの?」
「自分の選択に自信を持つ為にですよね。人の顔色ばかりを伺って。人が喜ぶように望むように人に流されて選択してきたマナ様にとってそれはとても難しいことだった。でも…そんな自分を変えたいと願っていた。違いますか?」
「…。」
「俺は政治のこともこの国のことも何もわからないし、上手くいく保証も何もないけれど…モモフル国の王になると決めました。マナ様は?どうしてハーバランド国へと帰るんですか?本当に帰りたいんですか?やりたいことがあるんじゃないんですか?」
「でも…私が出来ることなんて偽善でしかないし。問題解決するわけじゃないから。」
「そんなことはどうでもいいんです。マナ様はどうしたいんですか?自分の気持ちを1番大事にしてください。この世に意味のないことなんてないとよく言っていたじゃないですか。偽善だとしてもいいじゃないですか。何が悪いんですか?」
「私の我儘がみんなに迷惑をかけることになる。」
「人から迷惑がられるからやめるんですか?もっとやりたいことを自分を貫いていいんじゃないですか?」
「自信がないの。自分の選択に。」
「自信持ってください。自分の選択に。何の為に努力したんですか?こんな時に自信を持って自分の選択を貫ける為にだろう?諦めるのはまだ早いよ。もう一度頑張ってみましょう。大丈夫。こんな時に勇気を出すぐらいの努力はしてきたはずです。」
マナ様は俺のことをガバッと力強く抱きしめる
クリス様が浮気だと騒いでいるのもお構いなしに
力強い腕とは裏腹に小声でか細く“ありがとう”と俺に伝えた
クリス様に無理やり引き剥がされた後にマナ様の顔を見ると
吹っ切れたかのような無邪気な笑顔を見せてくれた
誰よりも眩しく美しかった




