第282話 花祭り-3-
私のデビューコンサートは大成功に終わり一夜が明けた
今日はキッカ国恒例の花祭り
大事な人へ花を贈るお祭りだ
昨夜、私のデビューコンサートの号外記事が町中を駆け巡る
“マナ様は音楽の女神様”
“白魔法のような美しい音色”
“超新星の若手ピアニスト”
と私を褒める記事で溢れかえっていた
この状態で万が一でも私が花祭りで遊んでいることがバレたら会場はパニックになり怪我人が出るかもしれない
だから私だけ宿に残ることにした
みんなは気にせず花祭りを楽しんでと送り出す
ニックは一緒に残ると言ってくれたけれど
少し1人になりたいのと言って半ば強引に送り出した
誰にも見つからないように私は宿屋の屋上から花祭りの様子をを見て楽しんでいた
友人、家族、恋人
たくさんの人達が花祭りを楽しんでいた
私は風に飛ばされてきた赤い薔薇を一輪取る
赤い薔薇の花言葉はI love you
貴方を愛しています
私は男の人が苦手だった
恋に溺れて人生が破綻していく人を何人も見た
恋をすることがこわかった
恋なんて一生出来ないと思っていたのになぁ
一輪の赤い薔薇に想いを馳せて愛する恋人を恋しく思う日が来るなんて思いもしなかったな
「クリスに会いたいなぁ…」
思わず独り言を呟く
本当は一緒に来て欲しかった
無料ライブも
デビューコンサートも
私の晴れ舞台を見て欲しかった
でも…クリスはハーバランド国の唯一の王子様
国王になる人だ
私はあまり知らないけれど、クリスは私に出会う前は王様になる為に並々ならぬ努力を幼少期からしていた
クリスはハーバランド国でやるべきことがたくさんあるのだろう
国王になることがクリスの夢であり目標だ
クリスは何でも私を優先してくれる
寂しいからキッカ国に一緒に留学して欲しいと頼めば
喜んでついてきてくれると思う
でも…それはクリスの今までの夢を捨てさせることになる
そしてそうなれば後継者が大問題になる
私の我儘で通してはいけない
あまりにも罪深い
「人生はプラスマイナスゼロか…」
この言葉は前世のお父さんの口癖
大きな幸せには大きな苦労が
小さな幸せには小さな苦労が
人生そういう風に出来ている
私はピアニストになることを選んで
クリスと別れることをきっと選ぶ
恋に臆病だった私が唯一恋が出来た大事な恋人
本当は生涯共に過ごして家庭を作って幸せに過ごしたかったけれど
普通に生きることをやめた私には出来ない未来だ
クリスが大好きでクリスに生涯を捧げて王妃になることは私には出来ない
恋を人生の指針にするにはあまりにもリスキーで
どうしても決断することは出来ない
私は自分で手に入れた努力を
やっと自信を持って人前に出られるこのピアノという武器を
生涯信じて生きていける
やっと自分の力を信じて歩むことが出来るようになったんだ
外見や聖女の力関係なく生きる術を手に入れることが出来た
ピアニストとして勝負したい
キッカ国で生きていきたいと強く思っている
「…最後まで我儘な恋人でごめんね。クリスを傷つけたくはなかったんだけどな。」
とまた独り言を呟いていると
「赤い薔薇を見つめながらクリスを恋しがるなんて、恋する乙女そのものだね。」
とニックが話しかけてきた
「わ!びっくりした…どうしたの?」
「花祭りなのに1人なんて寂しい思いさせたくなかったからね。それに…毎年マナと一緒に楽しんでいたのに今年は一緒にいられないのは俺も寂しかったから。」
「そっか。ありがとね。心配してくれて。」
「後悔してる?」
「え?」
「プロのピアニストになったこと。プロのピアニストになんてならなければクリスと共にハーバランド国で過ごすことが出来たのに。」
「まさか。後悔なんてしたことない。私をプロのピアニストとして育ててくれたニックは感謝しかない。ずっと欲しかった自分で生きていく力を手に入れることが出来た。才能や人や頼ってばかりの自分が嫌いだった。私は今の自分が好き。そう思えるのはニックのおかげ。本当にありがとう。」
「マナに自信をつけさせてあげたかった。でも…今や俺はマナを追いかける立場だよ。」
「何言ってんの。私なんてまだまだニックの足元にも及ばないよ。」
「マナの隣で演奏をして恥をかかないようにしないとね。」
「えー?そんなことあるわけないよ。」
「何故?俺は技術的に優れていても表現力は乏しい。マナの足元にも及ばない。」
「私達2人で最強ペアだと思わない?一緒に演奏するって考えるだけでわくわくするのに失敗するなんてありえないと思う。ニックは私と演奏するの嫌?こわい?」
「…嫌じゃない。楽しみだよ。」
「じゃあきっと最高のハーモニーになるわよ。きっと昨日のオーケストラよりも派手に暴れられると思うよ!」
「昨日の会場で2人でコンサートをしたいね。」
「いいね!クラシックだけじゃなくて前世の音楽も盛りだくさんに入れてさ!ぶちかましたいね!!」
「そんな毎日を送れたら幸せだよ。」
「私も…幸せなのかな。」
「俺達がコンサートを開催するときはクリスを呼ぼう。1日ぐらい休んでくれるさ。」
「フフッ。2人で演奏しているところなんて見せたら嫉妬で狂っちゃうかもしれないよ。」
「あぁ…確かに。」
「それでも…来て欲しいなぁ。」
「恋だね。」
私は風魔法で赤い薔薇を飛ばす
ハーバランド国にいるクリスに向けて
流石に遠すぎるから届くかわからないけれど
「会えなくても、結婚出来なくても私は生涯クリスが大好きだよ。」
大好きなのに一緒に生きていく選択が出来なくてごめんなさい
私はヒロイン失格だ




